救う者
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駅から神社に向かい、境内を突っ切る。
風が木々の葉を揺らす音も、鳥の囀りも、人の生活する音もない。
ただただ無音の神社。
舞台装置として、ただあるだけの神秘性を感じない境内。
そこを全力で駆け抜ける。
○○○
日没直近の病院前。
お化けなんかよりも怖いものを、夢で見てきたのに、まだ見ぬお化けを空想し、足がすくむ。
だが、もう少ししたら完全な暗闇になる。
そうなったら、もう、身動きが取れない。
意を決して、入り口の重たいガラス扉を押し、病院に入る。
○○○
外の光が入りにくくなっており、殆ど暗闇のフロントを抜ける。
エレベーターが使えないので、真っ暗闇の非常扉の階段を使う。
もう後は、自分の記憶の中の病院が頼りだ。
壁に手を当て、僅かな光源の照らす場所を頼りに、なんとかメイちゃんの眠る集中治療室に辿りついた。
○○○
「......メイちゃん?」
集中治療室の前の窓に、今にも暗闇に飲まれそうな夕日を受ける人影が見える。
「......アイナちゃん?」
人影がこちらに声をかけてくる。
近寄ってみると、頭に包帯を巻いたメイちゃんがいた。
「......クローンのメイちゃん?」
「......違うよ、私はオリジナルだよ」
少し笑顔で私の声に答えてくれる。
その後嬉しそうに、でも寂しそうに
「......そっか。アイナちゃん、来ちゃったのかぁ。なら小林くんや、竹井くん、秋くんに、澤本くんも?」
と聞いてきた。
「小林くんはいないよ。小林くんは、現実世界でメイちゃんを見てる。来たのは私とオタクくんたち」
「そう、か。3人は?」
「電車で先生と会って、襲われて、私だけ先に逃げれるようにしてくれたんだ。隙を見て逃げて、後から合流
「出来ないんだ。あの電車、次の駅がないんだ」
「......」
メイちゃんが私の言葉を遮る。
「あの電車、もう止まることなく、ずーっと闇の中を走り続けるんだ。永遠に」
「......そっか......」
「せっかく来てくれたのに......ごめん......ごめんね......」
メイちゃんが俯いて、震える泣き声を絞り出すように謝って来た。
それからはひたすら、ごめんね、と謝り続けた。
○○○
「アイナちゃん......?」
少し気分が落ち着いたのか、喋らない私にメイが聞いてくる。
もう真っ暗だ。
暗闇に浮かぶシルエットしか判別出来ない。
「メイちゃん、私がねココに来たのは、メイちゃんが呼んだからじゃないの。他の人がどうかは知らないよ?でも、私やオタクくんたちがココに来たのは、自分の意思なの。メイちゃんを助けたいっていう気持ちで来たの。だから、後悔なんてしてないし、謝る必要もないの」
「でも」
メイちゃんが言い淀む。
「メイちゃんが、アイツらのことを嫌ってるのも、殺したいと思ってるくらい憎んでるのも知ってるし、わかってる。聖人君子でもなければ、受け入れるなんて無理だよ!そして、多分だけど、このダンジョンは、そんな奴らに一矢報いるための場所なんでしょ?」
「......ダンジョンってよく分かったね」
「アバドゥンさんの知り合いから聞いたの。ココで死んだ人の命を使って、メイちゃんは命を繋いでるんでしょう?」
「アバドゥンの知り合い......よく見つけられたね......。
そうよ。私は、このダンジョンの魔王になったの。ダンジョンの中の命を吸収して、私の命に変換するの。でも、それでも回復はし切れない。......脳のダメージがとても大きいらしいから。自分で息をすることも、意識を取り戻すことも出来ないかも。でも、夢の、この世界では生きていける。だから、最後に憂さ晴らしをしたかったのよ。......ごめんね、私、こんなダメ人間で」
「それを何とかするために、私は来たの」
ポケットから葉っぱを取り出す。
タータロウスさんから貰った生命の樹の葉っぱだ。
「メイちゃん。ダンジョンを作る時に必要なものって何か、アバドゥンさんから聞いた?」
「......ええ」
「アバドゥンさんはね、“モンスターの創造”が上手いらしいの。そして、私は知らないけれど、ケケトさんは“迷宮の創造”が上手いらしいの。昔のエジプトで培った冴え冴えなんだって」
「......」
「タータロウスさんはね。残りの一つ。“宝箱の創造”が上手いらしいんだって」
私は、メイちゃんに“生命の樹の葉っぱを”を手渡す。
「夢の中での身体の損傷が、現実世界での身体の損傷になるように、夢の中の癒しは、現実世界の癒しになる、と思うの。だから」
生命の樹の葉っぱが仄かに光出す。
本当に薄明かりしか残っていなかった病院の廊下を、暖かい光が照らす。
「......ありがとう、メイちゃん」
○○○
見た目、傷や怪我が無くなったメイちゃん。
包帯を取ってみると、痛々しい縫い目はあるが、痛みはないみたい。
「良かったぁ」
生命の樹の光が消えていく。
完全な暗闇。
お互いの顔も見えない暗黒の世界がやってきた。
「......あっ」
メイちゃんの声だけが聞こえる。
「急いで!アイナちゃん!」
メイちゃんが私の手を引き、集中治療室の扉であろう場所に連れて行ってくれるが
「あっ......開かない......」
握った手が下へと離れていく。
「どうしよう、開かない......このままじゃ......」
「メイちゃん?」
焦るメイちゃんが、言うには、この先がゴールらしい。
そして、1人でもゴール出来れば、このダンジョンは全員が攻略出来たことになる。
逆に3日間かけることで、命の吸い出しは終わり、呼び込んだ者たちを殺すことが出来る。
今はもう、回復も出来た。
そして、私たちを殺すつもりもない。
そのために、後は、私がゴールをすれば良いのだ。
だが
「時間......切れだわ......」
メイちゃんがそう呟いた時、床が揺れた。
地響きのような、余震の様な。
私は、さっきまで外の灯りが見えていた廊下へ駆ける。
窓の外を眺め、遠くに光の塊があることを確認した。
「......ムーちゃん。私のダンジョンの守護者。このダンジョンは、ムーちゃんの羽化前にクリアしなくちゃいけなかったの......」
ムーちゃん。
メイちゃんが以前語ってくれた、人工物以外を踏むと捕食してくるダンジョンワームだ。
元々は、メイちゃんの家に飼っていたオガサワラシジミのムーちゃんだ。
それの......羽化?
「かなり遠くなのに、なんか蝶の羽が見えるよ?」
「......250mある巨大蝶々だから」
「なんか、飛んだら下が光ってるよ」
「......鱗粉がプラズマ化して、飛び散った場所が爆発するから」
「守護者?」
「......ムーちゃんがラスボス。倒さないとゴール出来ないようになってるの」
「弱点は?」
「......クリアさせる気なんてなかったから......」
遠くから地響きが聞こえ、窓が揺れる。
その窓の先を、私とメイちゃんは見つめていた。
○○○
「ごめん......ごめん......、こんなつもりじゃなかったの......。こんな弱い者いじめみたいなこと、本当は......」
俯いて座り込んだメイちゃんが、ずっと謝罪の言葉を繰り返す。
「......アバドゥンさんに止めてもらえない?」
「......無理、ごめんなさい......、ダンジョンが完成した後は、手を出せないの......」
「そっか......。
じゃあ、ムーちゃんを倒せばいいんだね!」
「えっ......」
私の言葉に驚くメイちゃん。
暗闇で表情はわからないが、目を白黒させてるんじゃないかな。
「大丈夫!私、ドッチボール強いし!虫だから、きっと殺虫剤でやっつけれる!......だから、泣かないで、メイちゃん」
自分でいいながらも無理がある理論。
でも、もう他には誰もいない。
いないんだ。
○○○
病院屋上。
どんどん近づいてくる爆撃音。
圧倒的な破壊力を持った巨大生物。
こんなの倒せない。
そんなことは、わかってる。
でも、もう私しかいない。
私がムーちゃんを倒して、ゴールしなければ、みんなが死ぬ。
何より、私やオタクくんたちが死んだらメイちゃんが耐えられない。
だから頑張るしかない!
出発前に、私は聖女役だって、タータロウスさんが言っていた。
なら、奇跡だって起きる。
奇跡なら聖女のお得意技だ!
殺虫剤を握り、私は叫ぶ。
聖女の自分に!
奇跡を起こしてくれるかもしれない神様に!
誰かに!
「お願い!メイちゃんを!メイちゃんを、助けて!!」
「「「......任せろ」」」




