堕ちた賢者
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吐いたことで少し楽になる私。
ただ、電車の中で吐いたので、片付けも出来ない。
そして
「天田氏、だ、大丈夫?......うっ」
澤本くんがつられて吐いた。
もらいゲロ......というやつか。
このままいくと4連コンボに繋がりかねないので、車両を移動することにした。
そこで私たちは
○○○
「お前ら!お前らは何で化け物にやられないんだ!」
隣の車両には、ぼろぼろになった先生がいた。
利き手の爪がなかったり、青あざだらけだったりと、まるで拷問を受けた後みたいになっている。
「お前たちが、あの化け物に何もされないのは何故だ!言えッ!」
目が血走り、口からも血が溢れている。
正気じゃない大人が、こちらに歩いて来る。
「何故言わない!何故大人の言うことが聞けないんだ!クソガキがッ!」
一歩ずつ近づいてくる。
「お前らガキどもが、いじめだ、いじめられただ、言うのは良い!低能同士で戯れあっていろ!クソガキどもッ!
だが、その馬鹿の尻拭いをさせられる側がどれだけ大変かわかるかッ!
苦労して大学に入り!必死になって卒業し!上に頭を下げ!少ない給料で夜遅くまで働き!お前らみたいなクソガキと、キーキー喚くだけのバカ親に笑顔振り撒いて!
もう少しで、こんなクソ学校から少しはマシなガキのいる学校の教頭になるところだった!
なのにッ!何なんだ、これはッ!」
唾が飛んでくる距離までにじり寄ってきた。
「お山の大将気取るクソガキが、コソコソとクソみたいなことをしたせいで、俺が築いてきた業績がパァだ!!
しかもクソガキどもがッ!化け物に手を出して、これだ!ふざけんじゃねぇ!
俺が何をしたッ!?あァ!?」
「......何もしなかったからこうなったんでは?」
「あァ!?何だと!?」
思わず声に出してしまった。
先生が私の胸ぐらを掴む。
「もういっぺん言ってみろッ!」
「......お金貰ってるんですから!仕事、やらなきゃいけないことは、やらないと」
普段なら言わないだろう。
だが、今だから言える。
この間違った大人が、すべきことをしなかった。だからメイちゃんが死にかけた。
なのに!
それを責任転嫁しようとしている!
そんな理屈の通らないこと、そんな筋が通らないこと、認められない。
認めてたまるか!
「あんな金で、何でガキのお守りまでしなきゃならねーんだ!」
「......労働条件に合わないんなら、やめれば良かったじゃないですか。お金は貰ってるのに、仕事はしないって、1番ダメなやつです!ガキでもわかります!」
「クソガキのいじめの解決なんてなぁ!元々の仕事に含まれてねぇんだよッ!ベビーシッターじゃねぇんだ!勝手に仕事を増やしておいて能書きを垂れるな!!」
「じゃあ、最初にメイちゃんが訴えた時に親に振れば良かったじゃないですか!もっと給料をもらってる校長先生に振ればよかったじゃないですか!自分の仕事じゃないって割り切ってるなら、良い顔しないで『俺の仕事じゃない』って断れば良いじゃなかったですか!中途半端な仕事してるからこんなことになったんですよ!」
先生の顔が真っ赤になる。
「てめぇッ!殺してやる、斎藤のクソガキみたいに!」
先生の手に入る力が強くなる。
○○○
息が出来なくなりそうになったタイミングで、竹井くんが備え付けの消火器を振りかぶり、先生の手を打った。
「クソガキがッ!」
私の手を離した後、先生の手が竹井くんに向かう。
秋くんと澤本くんが、竹井くんに伸ばされた手を掴み、足をかけて、転ばせた。
転んだ先生を上から押さえつける。
「クソガキどもがッ!大人を舐めんなッ!」
○○○
『大学病院前、大学病院前......』
電車のアナウンスが鳴る。
メイちゃんのいる病院に行くための停車駅だ。
ここで、今、降りなくては間に合わない。
でも。
オタクくんたちが。
暴れる先生の手が、彼らに当たり、秋くんなんかは鼻血を出している。
もうすぐ扉がしまってしまう。
「天田氏、先に降りて!」
「僕ら、次の駅で折り返します」
「ここは我らに任せよ!」
彼らが思い思いにしゃべり、私が電車から出るのを促してくれた。
足が動き
扉が閉まるギリギリで、私は電車から抜け出すことができた。
動き出す電車。
窓の向こうで、澤本くんが先生に殴られて、扉に衝撃が走った。
追撃しようとする先生を、秋くんと竹井くんが押さえ込む。
そんな攻防戦が私の目に映った。
動き出す電車。
祈ることしか出来ない。
電車が出ていった。
曇り空。
灯りのない街。
何も見えない世界がそこまで来ていた。
急ごう。
夜の帳が下りる。




