出撃準備
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「タータロウスさん?アバドゥンじゃなくて?」
私は鏡の中の人ならざる者に聞く。
「そう。余はタータロウス。童は余をアバドゥンと思い呼んでおったな。何故、アバドゥンの奴を知っておる?答えよ」
答えるべきなのだろうか?
いや、答えるべきだろう。
そもそもに夢への干渉が出来るなら、アバドゥンと交渉し、メイちゃんを取り戻すつもりだった。
それだって、一分の望みだ。
それが叶ったのだ。
少し予定と違ったところで、出来すぎているレベルだ。
なので、私はタータロウスさんに、メイちゃんと今私のクラスで起きていることを話した。
タータロウスさんは、それに相槌を打ちながら聞いていた。
そして話終わる。
「相変わらず、アバドゥンは自分の眷属や“巫女”に甘い。面白みに欠けておる」
タータロウスさんはそう言った。
「そのメイとやらは、アバドゥンの巫女をしておるようで寵愛を受けて、命を繋いでおるのであろう。余らは、娯楽に飢えておる。アバドゥンは、よく面白い者を寵愛し、加護を与えるからな。過去にも数度同じことをしておる」
「どうなったんですか?」
「娯楽は娯楽。ルールに則り、冒険者を殺戮して終わりよ」
「そうですか」
「巫女を目覚めさせる、なんてことは先に言うておくが出来ぬぞ?ルールはねじ曲げられぬ。余にも」
沈黙。
「じゃが」
タータロウスさんが切り出す。
「以前、余のダンジョンに、アバドゥンやケケトの奴が加護を与えた冒険者を送り込んで来たことがある。特にケケトめは、余やアバドゥンと同様に闇の支配者であるくせに、神として人間どもに振る舞っておっての『光の女神』を語り、勇者を送り込んで来よった。まぁ、アレはアレで楽しめたが」
つまりは
「趣旨返しよのぉ。アバドゥンの巫女のダンジョンに、余が其方らを送り込むことは出来る、ということだ。余も加護を与えることは出来る。いつか、奴らのダンジョンに茶々を入れたいとは思うておった。実に良い。渡りに船というわけじゃ。ダンジョンを攻略すれば、冒険者は助かる。怒りに任せた殺戮のダンジョンなどという面白みに欠けるものに一石投じるのも、また趣きがあろう?」
私たちには手の届かない話だ。
ダンジョンを作り、神を騙り、加護を与え、互いに遊び感覚で潰し合う。
アバドゥンの巫女に選ばれたメイちゃんは、アバドゥンにとっては大事な駒......マスコット?ペット?みたいな扱いだから大切にされているのだろうけれど、他の人間なんてゲームの雑魚敵くらいにしか思っていないのだろう。
多分、このタータロウスさんも。
だが、都合は良い。
私たちはメイちゃんが助けられれば、それで良いのだから。
○○○
何やら、闇の中をみつめるタータロウスさん。
闇を見つめ、ぶつぶつと言っている。
「時間制限のあるダンジョン。うーむ。アバドゥンの奴め。なかなかに面白いダンジョンマスターを手に入れたな。あ、ダンジョンマスターとは彼奴の巫女のことよ。余も良いダンジョンマスターが欲しいのあるが、いかんせんセンスのあるものがおらぬ」
ダンジョンマスターとか何とかタータロウスさんは言っているが、まるで理解できない。
「おっ、アバドゥンの奴のダンジョンマスターめ、意図的に“スタンピート”を起こし、難易度を跳ね上げておるのか。本当にセンスが良いのぅ。奴が巫女にするわけじゃ」
スタンピート......?
ダメだ、さっぱりわからない。
「分かる?みんなは」
と私はオタクくんたちに聞く。
「エンカウントがエゲツなくなっているんだろうなぁ、というのは何となく」
「時間制限ということは、速攻でクリアすればなんとかなるのでしょう。時間をかけすぎるとゴールが無くなるとか」
「もしくは、ボスに時間経過でバフがかかり、攻略出来ないくらい強くなる、とかでござろうか」
理解できるのか。
マジか。
もしかして理系と文系の差、だろうか。
なんだか悲しくなる。
「......ほう!?」
オタクくんたちの発言に、タータロウスさんが反応する。
「そこの童らは、なかなかに見どころがあるな。余の発言だけで、そこまで読み解くのは、なかなかに賢。うむ。そうだな」
顔のないタータロウスさんだが、生き生きしているのは分かる。
「決めたぞ。余が、其方らに加護を与えてやろう。良きかな良きかな。アバドゥンのダンジョンに其方らを送り、完破して参るが良い。何、余はな、余を楽しませてくれるものに何よりも重きを感じるのだ。長く生きておる故、刺激を求めておる。こんな難易度の高いダンジョンを破れるのならば、奴の驚く顔が見れるじゃろうて。それは面白い。うむ。そうだ、そうしよう」
タータロウスさんの中で決定したらしい。
「そこな坊主。其方は、この童らを見てやるのだぞ?これから此奴らの魂をアバドゥンの巫女のダンジョンに送り込んでくる。身体を世話してやるのだ」
お坊さんにタータロウスさんが言う。
その瞬間、私の視界が歪む。
睡気。
意識が深い深い闇に落ちていく。
夏休み始めの日の夜と同じ感覚を味わって、私は意識を手放した。
○○○
「さて、童ども。見込みのある其方らに、余が加護を与えてやろう。1つじゃ。1つ、“力”を与えてやる。何が良い。言うてみよ」
闇の中、タータロウスさんが問いかける。
私の後ろには、オタクくんたちがいる。
彼らも私同様、今の状況の把握が出来ていない。
力。
それがどういうものかがわからない。
「出口を示す絹糸などはどうだ?クレタの迷宮で有名であろう?」
うーん。
「では、この櫛はどうだ?其方ら日本人ならば知っておろう?投げるとタケノコが生え、追っ手を巻くことが出来る。それとも、成田山の札などはどうだ?ちょうど3枚あるしのぅ」
未来の世界の猫型ロボットみたいに、スーツのポケットから色々な物を出すタータロウスさん。
そういう類いの物が欲しいわけではない。
意を決し、口を開く。
「わ、私は......、出来れば、回復出来る何かが欲しいです」
私は勇気を出して、タータロウスさんに伝えた。
「ほう。回復であるか!良いぞ。うむ、良い。余も少女には、癒しの担い手を命じたかった。“聖女”という奴であるな。面白かろう?」
うん。
だんだん分かってきた。
タータロウスさんは、面白いものに飢えている。
マジで飢えている。
面白い提案ならば、面白ければ面白い程食いつきが良く、乗り気になってくれる。
更に、アバドゥンやケケトという他の人の裏をかいたり、出し抜きをしたくてたまらない、という感じである。
なので提案する。
「私が癒したいのは、アバドゥンの巫女、メイちゃんです。“アバドゥンが命を繋いでいるのを、他所から来た奴に癒される”って、絶対にあり得ない横取りっぽくて、とっても面白くないですか?」
どうだ?
「うむ!」
「ん?」
「良い!良いぞ、童!それは大変面白い。アバドゥンめ。冒険者の命を吸い、巫女を癒すつもりであったのに、冒険者に直接巫女の命を救われれば、愕然としよう。そのアバドゥンを想像するだけで、抱腹であるわ!」
テンションがおかしくなっているタータロウスさん。
ひとしきり笑った後、タータロウスさんがスーツのポケットから、変な草を出してきた。
「エデンの園に生えてた木の葉である。実は与えられぬが、葉ならばくれてやれる。これを其方に与えよう。奴の巫女にくれてやるのだ」
「......実がダメな理由って......」
「其方らは知恵の実の方は食しておろう?これの実を食したら人には戻れぬぞ?」
「これ、そういう木の葉っぱなんですね」
ドン引きである。
○○○
「其方らはどうするのだ?」
タータロウスさんがオタクくんたちに聞く。
「話し合ったんですが、僕ら、勇者になりたいんですが」と秋くんが答える。
「このような物はいただけますでしょうか?」と竹井くん。
「真の勇者はかくあるべきを突き詰めたのですが、いかがでござろうか」と澤本くん。
何処から取り出したのか分からない資料設定集みたいなのを、タータロウスさんに提出していた。
目を通すと、大笑いし出すタータロウスさん。
「素晴らしい!素晴らしいぞよ、人間!あー、これは素晴らしい!......人間。これをこうしては如何か」
なんか追加をし出したぞ?
「おお!タータロウス殿、流石です」
「流石ダンジョンの作り手、我らが気づけぬ点をご指摘いただき有り難く存じます」
「これでお願いします!」
何だろうか。
しばらくして、オタクくんたちと合流する。
とてもご機嫌なタータロウスさんから、竹井くんはカブトムシ型の腕時計を、秋くんは新幹線型の腕時計を、澤本くんはライオン型の腕時計をもらっていた。
「何それ」
「「「勇者の証」」」
声が被る。
それを聞いて、タータロウスさんが転げ回りながら笑っている。
最初の印象からだいぶ変わってしまった。
というか、オタクくんたちに呑まれているのではないか、とすら思えてきた。
メイちゃんを助けにいくというのに、全然緊張感がない。
「あー、お腹痛いのぅ。さて」
空気が変わる。
まぁ、緊張感が無いのはタータロウスさんだけだ。
私は、メイちゃんを助かる一心で緊張しまくりだし、オタクくんたちは、キリッとした顔でずっといた。
「聖女、そして3人の勇者よ。準備は良いな?」
「はい」
「うむ」
「はい」
「おう」
「アバドゥンの巫女のダンジョン。名は“いじめられっ子ダンジョン”。其方らは出遅れてしまっておる。他の冒険者はもう悉く死に伏しておる。キーパーの目覚めも近いようじゃ。
其方らは、残る者たちを探し、合流し力を合わせても良い。本来の目的を真っ直ぐに達成しにかかっても良い。それは其方らが好きにするが良い。
だが、余を楽しませる、これを忘れてはならぬぞよ?良いな」
「はい」と返事をする私たち。
それに満足したようでタータロウスさんは、私たちに指を向ける。
「では、攻略して来るが良い」




