タータロウス顕現
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出発の日の朝、駅に小林くんがお見送りに来てくれていた。
小林くん曰く、私やオタクくんたちとは違うスタンスのやり方をしていく、のだそうだ。
メイちゃんを助けたいのはみんな一緒だ。
だが、やり方は違う。
考え方も違う。
存在が不確実なメイちゃんを助ける魔法の類いには頼らず、現実的な方法でメイちゃんをいじめた人からメイちゃんを守るスタンスを取る、と言う。
多分だが、ネット上にクラス名簿や裏サイトを上げたのは、小林くんなんじゃないかな、と思っている。
裏サイトの存在は、斎藤くんの周りの人しか知らないし、高野さんや女子グループの凶行は直接見た私以外では、メイちゃんちにいた面子しか知り得ない。
マスコミに情報を流すことで、世間の注目を浴びるようにし、隠れてメイちゃんを攻撃したり出来ないようにしたのだ、と私は考える。
よっぽど狂ってでもいなければ、マスコミと病院の警備を潜り抜けて、メイちゃんの元へは来ないだろう。
更に、今日一日、小林くんはできるだけ病院にいるそうだ。
私たちがいない間、現実世界で、病院に来る変な奴らからメイちゃんを守るために残ってくれるらしい。
やり方は黒くてエゲツないが......、メイちゃんなら同じことをしそうだな、なんて思ってしまった。
「ただ、クラスの人たちが死ぬってのも許容できないからね。それは天田さんたちが何とかしてよ」と言っていた。
「任された」
「いってきます」
「留守を頼みますぞ」
オタクくんたちがサムズアップで、小林くんに応じていた。
早朝の新幹線に揺られ、私たちはお坊さんと一緒に九州に行く。
メイちゃんを助けるために。
○○○
新幹線の車内。
小林くんのスタンスと異なるであろう、オタクくんたちのスタンスを聞いた。
彼らは、悪夢の元凶であるアバドゥンを何とかすれば、メイちゃんが魔法を使えなくなるのではないか、と考えているらしいのだ。
そのため、夢に関与できる魔法を利用し、アバドゥンに交渉を持ちかける方法を模索する、というのだ。
病院の食堂でお坊さんは
「拙僧の寺の倉には、呪いの品々が封印されておってな。その中に、悪夢を見せる鏡がある。悪夢の呪いに、関係しているかもしれんじゃろ?」
と、何とかなるかもしれないし、何ともならないかも知れない方法を教えてくれた。
こちらから夢に関与する、という大胆不敵な考えに乗って、そこから作戦を考えてみることにしたのだ。
もちろん無駄足かもしれない。
悪夢を見せる鏡、なんて眉唾だ。
普通なら聞く耳を持たない。
幸せになる壺、くらい怪しいから。
だが、このお坊さんの目には、呪いが見える。
それは本当だ。
その人がいうのだから、メイちゃんの魔法と同じタイプの呪いの物がある可能性があると考えた。
というか、その可能性にかけたのだ。
もう後戻りは出来ない。
他に選択肢もない。
「雲外鏡、と拙僧は呼んじょる」
悪夢を見せる鏡の名前をお坊さんが教えてくれた。
雲外鏡。
鏡の付喪神とかネットには書いていた。
だが、悪夢を見せる、なんてネットを探した時には書いていなかった。
つまり、ネットの雲外鏡と、お坊さんのお寺にある鏡は違うもの、そう考える。
でも、全然違うのなら雲外鏡なんて名前はつけないだろうし。
どういう類いのものなのだろうか。
願わくば、私たちをメイちゃんの夢の迷宮に誘う力が欲しいのだけれども。
○○○
新幹線と私鉄を乗り継いで、その後バスに乗って......
お坊さんのお寺、正光寺に着いたのは夕方だった。
かなりヘトヘトであったが、ここで力尽きるわけには行かない。
ここに来た目的はこれからだ。
「倉ん中んもんは、触ったらダメよ」
お坊さんに釘を刺される。
正光寺の倉。
目的の物は、この倉の中にあるらしい。
案内してくれたお坊さんが、倉の扉を開ける。
扉を開けただけで分かるやばさ。
本能的な嫌悪感と、入ってはいけないという魂からの警告音が体を振るわせる。
「おっきな鏡やけんね、こっちに持ってこれんのよ。足元気をつけてついてきぃ」
お坊さんが倉の中へ入っていく。
生唾を飲む。
オタクくんたちを見ると、彼らも冷や汗を書いている。
目が合うと、それをトリガーに勇気を振り絞ったのか、オタクくんたちも続いて入っていく。
足が竦むが、入らないわけにはいかない。
意を決して中に入って行った。
○○○
倉の中には変なものがたくさんあった。
座ったら死ぬ椅子、と書かれた西洋風の椅子を見て、澤本くんは「なんでこんなもんがあるんだ」と呟いていたのが気にはなった。
進んで行く。
そして倉の1番奥まで来た。
そこには、上半分が布に隠された姿見が鎮座していた。
「これが雲外鏡?」
「そう」
それは、外枠に何やら文字が書かれているただの大きな鏡だ。
別に普通の家具屋にあっても違和感はない。
だが、お坊さんの目には、これが禍々しいものに見えているのだそうだ。
「これと似たようなの、学校にあったな」と秋くんが言う。
もしかしたら、メイちゃんがアバドゥンにあったのは、学校にある鏡の力、なのかもしれない。
「それも、回収せんといけんな」とお坊さんが秋くんに言葉を返していた。
「お坊さん。これ、どういう風にしたら、悪夢を見せるようになるんですか?」と私は聞くが、「いや、それは拙僧にも分からない」と返ってきた。
うーん。
だが、時間がない。
試せることをしよう。
まず思いついたのは......
「「「おい!アバドゥン!姿を見せろ!!」」」
......そう、アバドゥンの名前を呼ぶことだったのだが......
これ、超常の存在に喧嘩売ったことには、ならないだろうか......
オタクくんたちの叫びの後、鏡を見続けると、私たちが写っていた鏡の遥か後、倉の入り口から1人の人が、倉に入ってくるのが見えた。
振り返ると、倉の入り口には誰もいない。
お坊さんを見ると、青い顔をして鏡を睨んでいた。
オタクくんたちは、叫んだ後はキリッとした顔をしていたが、今は青白いを通り越して、土気色になってプルプル震えている。
だんだんと、鏡の中の人が近づいて来た。
顔や姿、形がはっきりとしてくる。
はっきりすればする程に、人でないのが分かる。
そこにいたのは、ダブルボタンのダークスーツを着た、真っ黒いのっぺらぼうだったのだ。
「余の鏡で、アバドゥンの名を呼ぶとは。腹立たしい故見て来てみれば、躾のついていない童どもであったか。1度の無礼は許そう。迷宮の王、暗黒の支配者、全ての穴の主たる余の寛大さに感謝するが良い。余はタータロウス。冥府よりも深く昏い闇の皇である」




