いじめられっ子ダンジョン
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「ではモンスターの配置だ、お嬢さん」
アバドゥンが完成したダンジョンを見ながら私に言う。
「テナガアシナガサマや火喰いグールは対策を練られてるから、一からモンスターを配置し直しても大丈夫?」
「うむ。それは構わないが。縁もゆかりもない者は作れんのは、分かっておるな?」
「それは大丈夫。それと、既存のモンスターのパワーアップって出来る?」
アバドゥンが少し考えて返事をする。
「うーむ。条件や制限をかけるならば可能であるな」
「分かった。......じゃあ、今回配置するモンスターの種類を2種類に減らすなら?」
アバドゥンが驚いた顔をする。
「構わないが、どういう風にするのだ?」
「まず、キーパーをスルトからムーちゃんに変更するわ」
○○○
「スルトの能力を一部引き継いだモンスターと、パワーアップしたムーちゃんだけを配置するわ」
2種類だけのダンジョン、しかも片方はキーパーというスカスカダンジョン。
アバドゥンも「えー...」という顔をしている。
「更に制限をかければ、パワーアップにパワーアップを重ねることも出来るかしら?」
「どの様な制限なのだ?」
アバドゥンも訝しげに聞いてくる。
まぁ、殺す気のダンジョンを作ると意気込んでいたのに、スカスカのダンジョン宣言だ。
訝しむのも分かる。
「今までのムーちゃんって、幼虫のムーちゃんだったじゃない?だから、羽化したパーフェクトムーちゃんをキーパーにしたいの」
私の思惑をアバドゥンに伝える。
ムーちゃんは1学期の私の心を支えてくれたキーパーだ。
私の本気の殺気を示すのなら、ムーちゃんにとことん注ぎ、ダンジョンのキーパーとして猛威を奮って欲しい。
「初動までの時間制約まで含めての制限をかけるのならば、極限までの強化が可能であろう。ただ、つまりは最初はキーパーがいないダンジョンとなる。それでも良いのか?」
更に念を押してアバドゥンが聞いてくる。
「構わないわ」
○○○
“ムーの蛹”
かつて全長60mを誇ったダンジョンワームが蛹になった姿。羽化まで何も出来ない。
○○○
“弩級巨大翼龍蟲 ムー”
翼を広げると全長が250mを超える巨大なインセクトドラゴン。飛行による風圧と、飛ぶ度に落ちる超重質量の鱗粉が、飛んだ後の街を瓦礫に変えていく。クラスター弾をばら撒く爆撃機の様相を呈した巨大な蝶。もちろん風圧もクラスター鱗粉弾も人間の体では耐えられない。
ダンジョンマスターが冒険者を一掃するために愛と魔力を注いだいじめられっ子ダンジョンの最終防衛装置。彼は彼で、大好きなダンジョンマスターを守るため無慈悲に冒険者を屠るのを楽しみにしている。
羽化後はダンジョンキーパーに扱いが変わるため、撃破が必要になる。撃破しないとダンジョンマスターの待つ集中治療室に辿り着いてもクリア扱いにならない。
“インセクトドラゴンの攻略法”
羽化前にクリアする。
○○○
「ムー殿が目覚めると、夢が終わるわけであるな」
「“胡蝶の夢”ね。夢と一緒に彼らの命も終わるけど」
「なかなかにブラックなジョークであるな。......キーパーは何処に配置する?」
「前回のゴール、私の家に。家を潰して蛹を作っているようにしましょ」
「うむ。羽化までの時間はどうするかね?お嬢さん」
「日没が羽化の時間にしましょう」
ダンジョン攻略の制限時間が3時間に決まった。
○○○
「では、もう1種類のモンスターはどうするかね?」
そう言うアバドゥンを連れ、蛹に潰された私の家から、図書館へ移動した。
無人の街を歩くのは、なんだか奇妙な感覚だ。
「図書館の1階と2階の階段の踊り場に配置するわ。ここなら、“とても私と接点のある”モンスターが生み出せるはずだから」
「ほう。可視化してみるかね」
アバドゥンが踊り場を指し示すと、倒れ血を流す“私”が浮かび上がる。
「“マスターシャドウ”か。よく思いついたねぇ、お嬢さん」
「冒険者への恨みと殺意が1番あり、かつ私に関係する......私の生霊が最適解だわ」
「確かに。だが」
「弱すぎる、でしょ?分かってる。だから1つだけ特性を足すわ」
○○○
“マスターシャドウ”
倫理観を持たない抜け殻の一ノ宮 メイ。純粋な殺意だけを持ち、目に入った冒険者に暴力を振るう。
最初は1人だが、10分おきに彼女の影から新しいマスターシャドウが生み出される。2人、4人、8人、16人、32人......と増えていき、集団で拷問、殺戮を行う。
力や素早さは人間と変わらないが、躊躇がなく、集団で襲いかかる。
“マスターシャドウの攻略法”
人間と変わらないため気絶や殺害が可能。ただ、死体の影からも増えるため、キリがない。増え切る前にクリアする。
○○○
「増殖する殺意、であるか。スルトと違い、攻撃力に極振りしたのであるな」
「そう。トロトロしてたら1時間後には64人、2時間後には4096人にリンチ。3時間後には“6年1組対下関市”って感じになるわ」
「増え続ける栗饅頭の話を知っておるが、あれよりもタチが悪いのぅ」
「増え切る前にムーちゃんが大掃除してくれるから大丈夫よ」
「......さて」
笑っていたアバドゥンが真顔になる。
つられて真顔になる私。
「準備は良いか?“魔王殿”」
「そうね。後悔はないわ、“破壊神様”」
「では、迎え入れよう」
「ええ、お迎えしましょう」
「「いじめられっ子ダンジョンへ」」




