もう一度ダンジョンをつくろう
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「さぁお嬢さん。もう一度作り直そう。君を虐げた者を虐げるダンジョンを。君を傷つけた者を傷つけるダンジョンを」
アバドゥンがそう言うと、夕闇に浮かぶ霧と沼地の迷宮は、姿を歪ませる。
ダンジョンのリメイクを行うのだ。
「どんな風にしたい?お嬢さん」
アバドゥンが聞いてくる。
さっきまでの寂しげな顔から一転して、少し楽しそうだ。
「......私が味わったものを体験させたい」
声を絞り出し答える。
「と言うと?」
「善光寺の胎内巡りみたいな。私の死をアイツらにも体験させてやりたい。最初は擬似で。そして最後は本物を!」
「ほう!これはまた。なかなか」
アバドゥンが楽しそうな顔をする。
私の発想が楽しいらしい。アバドゥンは。
つまりはそう言うことだ。
アバドゥンに取っては、これは暇を持て余した王様が、自分の矜持をもって、平民に暇潰しを要求しているに過ぎないのだろう。
存分、私はアバドゥンを楽しませることが出来ていたので、死の淵に手を差し伸べてくれたのかもしれない。
そんなことを思いながら、ダンジョンマップを再構築していた。
アバドゥンが無言なので、気になり見ると、さっきよりも寂しそうな顔で私を見ている。
「我が輩は、そんな薄情ではないぞ?」
薄情?
王様の暇潰し、と言う発想が、だろうか。
「ありゃ?顔に出てた?ごめんね」
突然アバドゥンに話しかけられ、びっくりする私。
「いや。言葉に出していないのだから、お嬢さんの自由なのだが。言っておらんかったな。我が輩と親和性が高いダンジョンマスターとは言葉が不要となる。以心伝心と言う奴であるな。お嬢さんとは、どうも波長が合うようなのだ。玩具や道化としてではなくな」
ほんの少し抱いた邪念がアバドゥンを傷つけてしまったようだ。
「王様の暇潰しに合格したから助けてくれたのかと思ったわ」
「我が輩が、友人の紹介をしようとしたであろう?」
「うん」
「友人を紹介するのは、友人だけじゃ」
「嬉しい言葉だわ」
「友人が黙って去ろうとするのを、指を加えて見逃すはずがあるまい?」
「......ありがとう、アバドゥン」
ちょっと心が暖かくなった。
「うむ。では我が友よ。前と同じ要領である。ダンジョンの構成である3つ“舞台となる迷宮”、“登場するモンスター”、そして目的となる“宝物”を作り、自分はクリア出来て、他の人間はクリア出来ない難易度とするのだ」
「ええ!」
○○○
「普通の世界に“死”を追加していくように作るわ」
ダンジョンのスタートは、学校。
昼。終業式後のホームルームを再現した。
アイツらにとっての普通の世界の代表だろう。
突然始まるホームルームに戸惑うかもしれないが、“私を殺して解放されたかもしれない安心感”と“取り戻したと思わせられる日常感”は、その後の地獄へのスパイスだ。
「教室の外はどうする?」
「無人で、現実のまんまに」
少しずつ日常が奪われたままであることに気づかせる。
もし帰りたいなら、無人の自宅にも帰れるようにしよう。
町の外には出れないけれど。
「ふむ、スタートは学校で良いのだな?ゴールは前回同様、お嬢さんの家で良いのかな?」
「いえ、私に謝りに来させるの変わりないけれど、今私がいるのは家じゃないわ。病院よ」
多分、死にかけている私の治療をしているのは、隣町の大学病院だ。
アイナちゃんとアイナちゃんのお兄さんとで行ったお祭りをやっていた神社の近くにある。
歩いていくのは難しい。
だから
「今回は電車をダンジョンのギミックとして取り入れるわ」
「ほほう。大規模なダンジョンであるな」
アバドゥンが楽しそうに聞いてくれる。
「時間の経過でダンジョンに変化を入れたいのだけれども」
「任せたまえよ」
○○○
ダンジョンのリメイクをした。
現実世界と同じ構造の無人の世界で、スタートは学校。
学校から駅に行き、電車で隣町に行き、神社を突き抜け、病院に。
病院の集中治療室、つまり今私がいるであろう場所がゴールだ。
前のダンジョンと異なり、電気関連の物は電車を除いて、全て動かないし、動かせない。
多分色々みんな試すだろう。
また、夕闇のダンジョンとうってかわり、今回は時間経過で昼から夜に変わる。
魑魅魍魎が跋扈する夜。
時間経過でモンスターの出現条件を解除していくようにするので、日が沈むタイミングで、ゲームオーバーだ。
なので最短クリアは、学校からすぐに出て、電車に乗り、病院に来ること。
答えを知っている私は、テストプレイで無傷でクリアすることが出来た。
だが、チャレンジする奴らのことなど知ったことではない。一切遊びのない驚異の難易度に仕上げてみた。
夕方くらいになれば、電車が唯一の人工物の灯りであることに気づくだろう。
注意深く探索していれば、電車の音もヒントになるだろう。
ただ、夕方くらいになっていた頃にはモンスターはだいぶ解き放っている。
実質詰んでいる。
自分たちの観察力不足を悔いながら、死んでいって欲しい。
○○○
それに電車は罠でもある。
隣町以降の駅には停車しない。
お父さんが、見せてくれた特撮を参考にしてみた。
サラリーマンのおじさんが「あけてくれ」と言いながら、空を飛ぶ電車で叫ぶシーンは、かなり怖かった。
翻って。降りなければ、永遠に暗闇の中を走り続ける電車に乗り続けなくてはならなくなる。
よく見れば、駅のホームの路面図に隣町の次の駅が記載されていないのに気づく。
これもヒントだ。
気づかなくていいが、アバドゥンの公平性を重んじて記載した。
「乗り続けるとカルパネルラになる銀河鉄道、とは何ともロマンチックであるな」
迷宮の再作成はこんな感じで良いだろう。




