ハードモードを選ぶ者たち
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「小林 ジンくん、いらっしゃいますか?」
○○○
一ノ宮さんの家で、みんなで宿題をした。
流れだ。
ラジオ体操後、自然と一ノ宮さんの周りに集まるようになり、天田さんの宿題が遅々として進んでいないことが発覚した。
天田さんが案外、勉強が出来ないタイプであったことにびっくりした。
また懇切丁寧に一ノ宮さんが教えているのも気になったが、オタク3人がそれぞれ得意分野があるようで、詳しすぎるまでの解説をし、天田さんを混乱させていたのも気になった。
「日本で1番高い山は、時代によっては阿蘇でもあるし、新高山でもありますからなぁ。いつ時点の設定か
「滑車の場合、摩擦係数と牽引する媒体の質量で実際の
「自学の範囲、敢えて円周率計算の証明を行うなどいかがで
「あああああっ!うっさいッ!!」
「そんな声出せたの?アイナちゃん」
あれは面白かった。
うちの家族も『いじめていた子と和解して、その子と勉強をすることになった』と言ったら、毎回美味しいお菓子を包んで持って行くように言われた。
「謝って許してもらうなんて最低限の礼義。寧ろ、向こうの人間性に依存するだけの迷惑人間。謝罪を契機により人間関係を深めることが出来て初めて一流の社会人」と父さんが言った。
お小遣いを減らされ、一ノ宮さんへのお土産に変わったが、いじめのペナルティとしてはとても軽い。
命の危機が無いのだけでも、全然違う。
サッカークラブは辞めさせられ、斎藤や野村とのつながりが無くなったが、おおむね元の生活に戻れたのだ。
ただ、刻一刻と知り合いに死が近づいている。
オタクの3人組は特殊だ。
スルトの炎がこけおどしだったのだから。
だから自力で攻略出来た。
だが、他の人たちはどうだろうか。
出来ることならば、一ノ宮さんへの謝罪へ誘導して、彼女に解呪の呪文を唱えてもらい、死を回避して欲しい。
だが、どうしたものだろうか。
原因とは言えない。
だが、説明に矛盾は出来ない。
「ジンちゃん、クラスの子が来たわよ」
自室のベッドで悩む僕を母の声が現実に戻した。
○○○
「忙しいところごめんなさい。小耳に挟んだんで聞きたいんですけど、小林くんはもう、あの夢を見ていないんですか?」
山本さんが挨拶も早々に聞いてくる。
「えっ?」
「マユ、話早すぎだよ。ごめんね小林くん。気がせっちゃってて」
山本さんを制するように江崎さんが喋る。
「玄関では何だから、中へどうぞ」
「ありがとう、小林くん。モモ、早く!」
「だから、マユ。慌てないの」
この2人は、この2人で仲が良さそうであるが、確かもう1人いたはずだ。
一度パーティを組もうとした時にいたのを覚えている。
桜田さんが癇癪を起こして、バラバラになったのは記憶に新しい。
場所を客間に移す。
母さんが2人に麦茶を持ってきていた。
「あら、暑いでしょう?上をぬがれては?」
確かにだいぶ暑そうだ。
長袖に長い靴下。
それにマスク。
「お構いなくです、寒がりなんで」
そんなレベルか?
汗かいてるし。
おそらくは隠すための無理だろう。
「やっぱり、僕の部屋に行こう」
○○○
「ありがとう小林くん、優しいね」
「流石、気がつかえるね」
部屋に移動し、ガンガンにクーラーを効かせることにした。
僕としては寒いが、肌や口を見せたくないのは分かる。
「あの夢の影響だろ、分かるよ。僕は気にしないからお茶飲みなよ」
「......嬉しいけど、やっぱり見せたくない」
「小林くんは、肌も口もほとんど何もないですね。やっぱり噂の通りなんですね」
半袖半ズボンから露出している僕の手足を見て彼女らは言う。
少しだけ悔しそうな印象のトーンも混じえて。
「噂の通りだよ。僕はもうあの夢は見ていない」
「「やっぱり!小林くん、すごい」」
2人が感嘆する。
「どうしたら夢を見なくなれるの?」
「モモたちにも教えて、小林くん」
どう答えるべきか。
この夢が一ノ宮さんの復讐だと言ったら、彼女たちはどう行動するだろうか。
短略で粗野な印象がある。
理性的な対応にならないかもしれない。
最悪の事態も予想できる。
それに。なんなら、彼女らは一ノ宮さんとアバドゥンを巡り合わせた影の主犯とも言える。
教えてあげる義理は無いと言えば無いのだが。
だが、既知の者が死に行くのは......。
「最初に脱出したのは僕じゃないんだ。一ノ宮さんなんだよ。僕は彼女のアドバイスで脱出出来た感じなんだ」
「えっ、ブ......メイさんが?信じられなーい」
「へー、ふーん」
「だから、彼女の受け売りを教えることが出来るけど、最後は自分で何とかしなくちゃいけなかったよ」
「で!?どうすれば良いの?小林くん」
「......教えてあげるけど、ちゃんと一ノ宮さんにお礼と“謝罪”をしなくちゃいけないよ?」
「「......」」
少しの間があり
「そーだね、メイさんには後でお礼しなきゃねー」
「1学期のことも謝るんだよ?どのみち学校側は動いてるんだから、いつか謝ることになる。“早めに”、“直接”、“誠心誠意”謝るべきだよ」
「うん、わかったー」
彼女らの返事を受け、僕はダンジョンの攻略法についてを説明した。
モンスターの特性は話していない。
スルトの火力に関しては、口頭説明の攻略法ではどうにもならない。
彼女らが謝罪し、一ノ宮さんのヘイト値が下がるか、解呪の呪文を使ってもらうしかないだろう。
一応、“無限階段への回避法”も説明したが......、アレは......、使われないことを願うのみだ。
○○○
「スタート地点に首があるなんて、探しもしなかったね」
「というか、小林くん。ブス子への謝罪に念押しすぎっしょ」
「思ったー。サッカークラブ辞めさせられた原因だし、ブス子のこともっと嫌ってると思ったんだけど。やっぱカッコいいわー」
「アンタ、斎藤くんファンだったじゃん」
「“サッカークラブの”斎藤くんのファンだから。サッカークラブの」
「あー、ねー」
「マリどーする?」
「別に良くね?どーせ、夢だと別々だし」
「んじゃ、かーいさーんってLINEしとくわ」
「やっと終わるねー、マジ野村の奴、クソだったわ。入院したらしいけど、乙女の皮膚の責任取れっつー感じだわ」
「マージ、それー」
小林家から帰宅した彼女たちは、マリとは合流せず、一ノ宮家に立ち寄ることなく、今夜も悪夢へと導かれるのであった。




