動き出した冒険者
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「いじめられっ子同盟がクリアであるか。まぁ、彼奴らのような手合いはそうであろうな。さて」
オタク勇者パーティがダンジョンの攻略を成し遂げた同じタイミングで、アバドゥンは他の冒険者たちを眺めていた。
しかし、彼らの無様さに、ただただため息が漏れ出ている状態であった。
○○○
裏サイトの掲示板が更新できなくなり、新規の攻略情報のやり取りが無くなった。
野村や高野の言動から、日常的ないじめや体勢の不備が指摘され、冒険者たちは教育関係者ならびに警察関係者から事情の聴取をされることとなった。
更には、家族からも言及叱咤懲罰があり、彼らに休まる時間はなくなり、ただひたすらに精神を摩耗していた。
それは生徒だけではなかった。
メイのクラスの担任である大塚の教師間の評価は低落した。校長も教頭も報連相がなかった事案、更には分かって無視をしていたらしい節を聴取しており、完全には庇えないと判断していた。
教育委員会はまだしも、メイがマスコミや人権団体への情報提供を行う可能性も考慮した結果、これまでの実績や各々の家庭を守りためにも、きちんと仕事をしなかった大塚の尻尾切りを検討している段階であった。
それを暗に示唆された大塚も、また精神は摩耗し、こんなことになった原因である、メイは元より彼のクラスの生徒全員に敵意を抱くようになっていた。
お互い様の精神摩耗。
図らずとも、メイの発言の通りになって行きつつある状態であった。
彼らには安息はなく、ゴールの見えない悪夢に苛まれ、その悪夢への策を練る時間も、情報を共有する時間も与えられることはなくなった。
そうなって来ると、洗練さに欠き、創意工夫はなくなる。
“お地蔵さんの祟り”を信じ、そこから発想の転換が出来ない者たちは、首無し邪神像への土下座RTAを図り、グールたちの火炎吐息の餌食となっている。
また、現実でも拝みに行ったりと、小学生たちの異様な行動は、知れ渡るようになっていた。
思考を放棄して挑む様をアバドゥンは見せつけられていた。
練りに練り、細工を施したダンジョンへ雑に死にに来る冒険者たちを見、アバドゥンも退屈になってきていた。
「骨があるのは此奴らが最後だったのかのぅ」
今しがたクリアしたオタク勇者パーティを見て呟く。
彼らは、過去の嫌がらせや中傷、非難により精神汚染への耐性を獲得していた。
所謂、感覚の鈍磨なのであるが、彼ら的には『経験値獲得によるレベルアップで手に入れた状態異常耐性と防御力』であった。
更には、それとなく自分の子どもがいじめられていたのではないか、と察していた彼らの親たちは、他人のいじめに自分の子どもたちが関与するとはつゆにも思わず、更なる言及などもなく、負担もそれ程無かった。
更には、同じ境遇の連帯感と、非日常への空想力と適応力があった。
精神を蝕むダンジョンの冒険者としては、個性も特性も経験値も周囲環境の理解も、その全てが揃っていた。
それが彼らのクリアの要因であった。
だが、普通の生活を送っていた者、自分のカーストは高いはずと安全なところから他人に石を投げていた者たちは、その精神的安全性を崩され、ただでさえ精神が追い詰められているところに、社会的地位まで削られてきている。
他人への疑心暗鬼から、夢の共有は外れて、外からの情報は無くなり、時間の経過が次々と他者への憎悪を生み出している。
寝なければ夢を見ない、と睡眠を忌避するようになった者も出ており、体力的にも周囲の理解をも失ってきている。
ギルドとギルドマスターを失った冒険者たちは、烏合の衆と化していた。
「つまらんのぅ」
○○○
「野村くんが入院したらしいよ」
小林くんが言う。
「詳しくは知らないんだけど。口も顔も火傷みたいになってるみたいでご飯が食べられなくなってるんだって。餓鬼道の地蔵菩薩を壊した罰が当たったんじゃないか、って言う人もいるんだ」
今、我が家には小林くんがいる。
正解には、小林くん“も”いる。
アイナちゃんがいるのは、まぁ良しとして
「いや、やはりあのグールは餓鬼のメタファーであったのだよ。言った通りだ」
「我らの考えは正しかったのであるな。出来れば、施餓鬼米などを用意したいところであったが」
「一ノ宮さんの助言で、脱出出来たわけであるし、もう試せないな」
オタクくんたちまで我が家にいる。
サラッと、グールのモデルが餓鬼さんたちであることまで当てている。
超怖い。
「オタ......竹井くんたちってメイちゃんと仲良かったの?」
アイナちゃんが聞く。
私的には仲良くなったつもりはない。
「うむ、我ら“虐げられし者同盟”の幻の4人目という立ち位置である」
「“夢の共有”はできなかったが、いじめられっ子エピソードの共有は出来た。言わば魂の共有結合」
「火焔魔神が見掛け倒しであることも教えてもらい、クリアしたともなれば、4人でクリアしたも同義。言わば運命共同体」
楽しそうに3人が返す。
これでは、いじめられっ子同盟......。
被害者の会、じゃないか。
「えっ!?クリアしたの?自力で?」
小林くんが聞く。
「一ノ宮さんの力も借りたが、クリアしたぞ!」
竹井くんが答える。
アイナちゃんと小林くんが、信じられないものを見るような目で彼らを見ている。
私が解呪の呪文を使い、脱出した彼女らと、ラスボスまで攻略して自力で解呪した彼ら。
しかも、日陰者の3人が、だ。
驚くのも、分からないでもない。
「すげー」「すごいわね」
ため息をつきながらそう漏らした。
「うむ。秋氏!竹井氏!小林氏と天田氏にも、攻略法を教えてあげるべきであろう」
「そうだね。特に天田さんは、女の子だし。口とか顔とかに影響が出ないうちにクリアした方が良いよ」
「我々4人の知識の結晶に関しては、こちらのパワーポイントをご参照いただきたい」
絶好調だな、こいつら。
「あ、私たち。もうあの夢見てないから大丈夫よ」
「なんとーッ!」
「迷宮の先駆者でありましたか!」
「小林くんも天田さんもすごいね」
だいぶ騒がしい。
だが、これはこれで楽しい。
近所迷惑にさえならなければ、時々なら我が家の客間への招待もありだな。
○○○
「ブス子たちがあの夢を見なくなったんだって!マジわけわかんない!」
「は?ブス子が?たちが?なんで」
「夢を攻略した、とか言ってるのを聞いたのよ!アイツら以外にも何人かいた。私らがこんな目にあってんのに!普通、逆よね」
「攻略したってんなら、ブス子に吐かせましょ。なんなら、しゃべるまでウサギ小屋にでも閉じ込めればいいし」
「面白そうだけど、アイツをこれ以上わかりやすくいじめんのはヤバいっしょ」
「そーね、他には誰がいたの?」
「覗き魔とかキモオタとかがいるのは見えた。後、何故か小林くん」
「小林くん?なんでブス子の家にいんのよ!ふざけんなし!」
「私、キモオタに聞くとかないわ。ブス子より無理。小林くんに聞こう?優しいから教えてくれるかも」
「なら私が聞く。アンタたちはブス子かオタクどもに
「いや、それはないから。逆ならまだしも」
「アンタだけ先にチームから外れたの忘れたの?そういうところよ?」
「立ち位置考えなよ?」
「......」
「じゃあ、私とモモは小林くんに聞いてくるから、ブス子とかにはマリちゃんが行ってねー?わかったー?」




