賢者 対 ダンジョンマスター
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小林くんの家から帰り、他所行きの格好をして待っていると、校長先生、教頭先生、担任の先生がやってきた。
「私のクラスでこのようなことが起きていたとは。生徒たちの動向を把握出来ず、一ノ宮さんには大変つらい思いをさせてしまったことを心よりお詫び申し上げます」
先生が私たちに頭を下げる。
この時点でフェイクが入っているのだが、最後にまとめてツッコむことにする。
家族に連絡をした時に、学校側が把握したこととしては、『斎藤くんが主体となり、裏サイトを使い、私へ嫌がらせをしていたこと』、『野村くんがお地蔵さんを壊して私の体操服袋に入れたりしたこと』、『匿名のため誰がやったか分からないが多数のいじめ行為の報告が裏サイトに書き込まれていたこと』がある。
それに高野さんたちの恐喝も加わり、現在学校側は、事態の把握にてんやわんやになっている、と言われた。
そして、頭を下げながら、学校側としては再犯防止を心がける、と言われた。
だが私が「具体的には何をしてくれるんですか?」と聞くと「速やかに検討します」というお決まり文句しか返って来なかった。
「具体案のない対策なんて欲していません。誰が何をして、それに相応しい注意と処罰を求めます」
「メイさんは犯人探しをしたいということですか」
「それは現状では限界があります」
「やってもいないうちから限界、ですか。では、“彼らが『自分がどういう悪いことをしたから怒られている』ということも分からないままどんぶり勘定で注意をして、事を有耶無耶にしよう”というのが先生方の方針であると捉えてよろしいですね?」
「いえ、そういうわけでは」
「それに先生には、何度も注意をして欲しいと訴えましたが、何もしてくれませんでしたね。ずいぶんと浅い限界ですね。では、検討したからと言って何が出来るんですか?教えてください」
私の発言にシーンとなる。
お父さんは担任の先生を睨みつけている。
「では、メイさんはいじめた人たちをどうしたいのでしょうか?」
教頭先生が私に問いかけてくる。
「質問に質問で返すんですね。わかりました。私をいじめた人たちには、同じ目にあって欲しいですね。そうしたら自分のしたことの重大さが分かるでしょう」
「復讐は何も生まないよ?メイさんが虚しくなるだけじゃないかな?それに今度はそれをきっかけに仕返しのループが始まるよ」
と担任が声をかけてくる。
白々しいなぁ。
「生産性の話はしていません。みんなに私のレベルまで精神を摩耗して状況のリセットを考えているだけです。
それに、何で私のタイミングでループを止めようとするんですか?私がされているタイミングでは止めなかったのに。早い段階で止め切れなかったそちらの責任であると思います。何でこれまで耐えた人間が、更に向こう側に譲歩しなくちゃいけないんですか」
「和解というのは、お互いが歩み寄ってだね」
「向こう側がいつ私に歩み寄ったんですか?学校側が率先して不平等に収束させるのが、先生方の子どもたちへの接し方、なんですか?」
「いや、そうではない。遺恨が残ると将来的に自分の首を絞めることになる。君にはそういう暗い人生を歩んで欲しくない」
「1学期の時点で人を真っ暗闇に落とした人間が言うには、あまりに立派で白々しい言葉ですね」
「......」
「私の言葉は届かなかった。文章でも目に入らなかった。そんな人間が他人の人生なんか語らないでください」
私は、焼却炉に捨てられていた何故書かされたか分からない反省文を机に広げる。
「助けを求めたら、反省文を書かされるような教育環境で、事態の終息は望めません。もう1度聞きます。再犯防止の具体案って何ですか?」
「......」
しばらくの沈黙の後、校長先生が口を開く。
「1度持ち帰らせていただけませんか?他のクラスメイトの子たちとメイさんが歩み寄る方法を早急に検討します」
「申し訳ありません」
「すみません」
「いえ、今考えてください。私は何もしていないのに反省文を書かされて、書き終わるまで家に帰してもらえなかったんですから。私にして先生たちが出来ないなんてことは無いでしょ」
「「......」」
「......申し訳ありません。メイさん。すぐには答えが出せないんです。ご理解ください」
校長先生が頭を下げながら、謝罪をする。
「......いじめの理不尽を飲み込んでください、孤独の寂しさを飲み込んでください、生徒だから教師の命令を飲み込んでくださいと来て、更に私にお願いをするんですね。......お願いされてばっかりですね。私、七夕の短冊じゃないんですよ」
はぁ、とため息をつく。
「私は『みんなが自分のしたことを反省し謝ってくれる』のを望んでいますが、先生方は、私が全部を飲み込んで早期の幕引きを図ろうとされているのでしょう。いつまでも平行線です」
何一つ建設的な意見が出ないのがわかった。私ももう限界だ。
「大人な君が、先に許すことで
「反省していない人間を許すなんてことは私はしません!」
ダン!と机が大きな音をたて揺れる。
「もう時間の無駄です。私を懐柔し、楽に事を納めようなどと甘い考えを抱いていらっしゃる先生たちには心底うんざりさせられました。私はこれで失礼します!」
椅子から立ち上がり、部屋から出る。
「「一ノ宮さん」」
「メイさん」
「「メイ」」
教員と家族の呼び止めも聞かず、私は外へ飛び出した。
「それにもう将来の遺恨が残らないよう手は打ってあります。今度こそは取り返しがつかなくなる前に対処してくださいね」
○○○
「で、うちに来たんだ」
メイちゃんが私の家に来た。
「うん。家にいたらイライラしちゃうからね。出来れば匿ってくれるとありがたいかなー」
「それは良いけど。超大荒れだね」
「大荒れですよ。何が、君が先に許してあげるんだ、だ!どんだけおんぶに抱っこなんだよ。いじめられっ子に頼るなよ!」
まぁ、そりゃあそうだ。
悪いことした人が先に謝るのが道理だ。
先生たちの話は道理にそぐわない。
「あんな奴らに教わってたんじゃあ、道徳なんて身につかないわなぁ。そりゃあいじめで人を殺そうとしても何も感じないだろうし、私も仕返しで誰が死のうが知ったこっちゃない感じになるわ」
とメイちゃんがケラケラと笑う。
だんだんとメイちゃんがドス黒いオーラを見せるようになってきている。
人を信用出来なくなっているのか、見限るのが早くなってしまったのかはわからないけれど。
人の命に無頓着になってきているような気がする。
きっかけはいじめによるものなんだろうけど。
本当にそれだけなんだろうか。
もしかして、“アバドゥン”とかいう奴のせいなんじゃ。
「謝るだけでいいのに、なんで出来ないんだろうね。アイナちゃん」
本当、早くみんなメイちゃんに謝って欲しい。
このままだとメイちゃんがメイちゃんじゃなくなってしまうかもしれない。




