ダンジョンマスターとの取り引き
評価、感想、ありがとうございます
ラジオ体操の後、私はアイナちゃんも連れ、小林くんのお家にやってきた。
家に入る前に小林くんが、家族に大きな声で怒られていた。
彼、どういう出方をしたのだろうか。
だが、私とアイナちゃんを見ると、お説教は一旦中止となった。
「あら、お見苦しいところをお見せしましたね。ジン!この子らは?」
小林くんのお母さんが、私たちへの謝罪と紹介を求める。
お説教中に抜け出して、女の子2人を連れて帰る......端からとんだプレイボーイだ。
「えーっと、右が天田さんで。左が...... “例の”一ノ宮さん」
「「えっ」」
小林くんの両親が固まる。
例の、ってなんだ。
「この度は、うちの馬鹿が申し訳ないことをいたしました」
「こちらから伺うつもりでしたのに、重ねて申し訳ないことを」
小林くんの両親が頭を下げてくる。
そんなつもりでここに来たわけではない私は、ただただ戸惑うばかりだ。
「いえ、あの......」
「......一ノ宮さんが驚いてるよ」と小林くんが助け船を出してくれるも「アンタも頭下げなさい!」と轟沈していった。
夢の中と合わせて、3度目の謝罪をもらったのだった。
○○○
小林くんの家にあげさせてもらうと、美味しいお茶とパウンドケーキを振る舞われた。
カロリーの塊が目の前にある。
朝ごはんを食べてすぐなので、なかなか女子的には厳しいが、でもまぁ、頂かないのも失礼なのでいただく。
あ〜、罪悪感〜。
小林くんちは、意外と裕福らしい。
小林くんの部屋もしっかりとした机があり、置いてあるものもちょっとお金がかかってそうだ。
その小林くんの部屋に、私とアイナちゃんと小林くんの3人で座っている。
「私への嫌がらせ・いじめが校長先生や警察、教育委員会の預かりになりました。今日、話を聞きに来るそうだけれども、まぁここまで大事になるとはね」
と私が話を切り出す。
本題に急に入るのは端ないので、軽いトークから始めたのだ。
「いや、メイちゃんがされてたの、引くレベルだったし。無視してた私が言うのは何だけど」
「器物破損って普通に警察沙汰だし。仕方ないと思う。無視してた僕が言うのは何だけど」
全然軽く無い返ししか返って来なかった。
「まぁ、無視してたくらいで、ワーワーなっても可哀想じゃない?って思ったわけよ。反撃にしてみたら、何人かはやり過ぎな気もしないでも無いし」
「いじめに加担した人間を擁護するつもりも自己弁護をするつもりも無いけど、反撃のえげつなさはヤバいよ?」
「反撃?メイちゃん、仕返しとかしてたの?」
「してたよ。僕も昨日初めて知ったけど」
えっ、という顔をするアイナちゃん。
何か畏怖を抱く小林くん。
私が黙っていると、小林くんがアイナちゃんに一言。
「僕らが見ている悪夢。あれは一ノ宮さんの呪いだよ」
○○○
夏休み前、終業日にウサギ小屋でアバドゥンという夢の迷宮の支配者に出会ったこと。
いじめっ子に仕返しするためにいじめられっ子ダンジョンを作ったこと。
ダンジョン内で死ぬと、現実世界にも影響があること。
死に過ぎると、現実世界でも死ぬこと。
ダンジョンからの脱出させるための呪文を私だけが使えること。
「アイナちゃんと小林くんには、解呪の呪文を使ったから、もうあの夢は見ないよ。もう1回誘うことも出来るけど」
「誰が望むと思うの?」
小林くんが信じられないものを見る目で見る。
「ごめん、理解が追いつかない。つまり、メイちゃんは“自分をいじめてた人に死ぬ可能性のある呪いの夢を見せる魔法が使える魔法使い”ってこと?」
「そう。魔女っ子メイちゃんだね!」
「いや、魔王だよ。魔女っ子は魔物を配下にはしないよ」
「悪いことしたなぁ、って反省してくれたら解呪して終わりにするつもりだったんだけどね。何人かくらいしか救えないね、このままじゃ。いじめをゲームくらいにしか思ってなさそうだし。
だから、ゲーム感覚で殺されても仕方ないんだよ」
「......」
「......、ちょっと怖いよ、メイちゃん」
アイナちゃんが私から少し目を背ける。
だが、これはいじめられたことがないから言える余裕の発言だ。
体験してみろ、とは言えない。
でも
「アイナちゃん。いじめられたら分かるよ、きっと」
○○○
しばし、沈黙の後、話を再開した。
「私はしばらく、学校の先生や警察と話をしなくちゃいけないから、2人にお願いしたいことがあるんだ」
アイナちゃんと小林くんが構える。
とって食ったりしたりはしないのだが。
「だいたいされたことは覚えてるんだけど、何個か犯人が分からないのがあるんだよね。誰を許して、誰を許さないのかを決めるのに、情報収集をお願いしたいんだ」
「うーん」
「えー......」
嫌そうな顔。
分からないでもない。
つまりは、“遠距離殺人に加担しろ”ってことだし。
「......だよねー、嫌だよね。まぁ、いいや。もし分かったらでいいんだけど、『私が、トイレに入っている時に、上から水をかけてきた』馬鹿を探して教えて欲しい」
それはダメだろ、って顔の小林くん。
「ちなみに分かったらどうするつもり?」
アイナちゃんが恐る恐る聞いてくる。
「私は何も。スルトの火力が上がるだけだね」
「スルト?」
「アイナちゃんはエンカウントしてないね。敵、ラスボスだよ。小林くんが歩道橋の上で見た奴。私が恨めば恨む程温度が上がるんだ。何人かは、歩道橋に近づくことすら出来ないくらいの熱になってるね」
「ああ、あれか」
小林くんがしみじみした顔をする。
「ちなみにアイナちゃんは、スルトに出会っても、1日前に開けたホッカイロくらいの熱だったね」
「へー」
意外そうな顔をする。
「小林くんは......まぁ、斎藤くんたちといたから熱を持ってたけど、無視されたくらいだから熱めのお風呂くらいだったよ」
「......クリアできたかもしれないのか」
「だから、攻略させてあげたんだよ」
パウンドケーキを食べ終わり、一息つく。
「私の家がゴールってわかった時点で、ほぼクリアなんだけどね。後は私にした嫌がらせのレベル次第だね。ラスボスがどれくらいまで難易度が上がるか、だよ。もう攻略出来ない人がいるんだけど、現実世界で私に謝ってくるかどうかで、生きるか死ぬかが別れる、かな」
「そっか」
「ちなみにスルトが1番熱持ってるのは、先生だね。
......何が、いじめられる側にも問題がある、だ!何でいじめられて私が反省文書かないといけないんだよ!クソっ!」
思い出しただけでイライラしてしまった。
アイナちゃんは......怯えてしまっている。
ごめんよ。
「ああ。昨日会ったけど、いじめの原因を野村くんに押し付けて片をつけようとしてたよ」
小林くんも若干嫌な顔をする。
「やっぱりクソだな」
「そんな人だったのね」
そんなシメでお茶を啜った後、小林くんの家を後にした。
これから待つゴタゴタの前に、色々片付けることが出来、少しすっきりできた。




