ダンジョンマスターの問いかけ
評価、感想、ありがとうございます
「アバドゥン、面白いことになっているわ」
「こちらも面白いことになっているぞ、お嬢さん」
○○○
学校からの呼び出しに対し「お前らが来い」と返事をしたところ、「日程を調整する」と返された。
呼んでおいて、自分たちは来ないつもりとはどういうことだ!と父が電話口に怒鳴っていた。
私は母に「なんで相談しなかったのか」「辛くなかったのか」と問い詰められたが
「おばあちゃんから“因果応報”って言葉を教わったから乗り切れると思った。現に今、アイツらは追い詰められているわ」と返事をした。
変な顔をされた。
「明日、うちに来るそうだ」
電話をきった父が茶の間に戻ってきて、私と母にそう言った。
謝罪に来たい、という家族がいるそうだが、煩わしいので丁重にお断わりした。
本人達が謝るつもりがないのなら意味がないのだから。
今日は疲れた、と言うと特に何も言われず私は寝室へ行くことが出来た。
○○○
「現実世界もだいぶごたついておるようだのぅ」
「そっちはどうだったの?」
「テナガサマを攻略したパーティが出てのぅ。だが、ゴールが分からず、しらみ潰しに歩き、ムーの餌食になるというパターンが多かったがな。今日に限ってじゃが、たまたまかも知れぬが、歩道橋まで来れた者がおる」
「へぇ!やるじゃない」
「じゃが、スルトを見て、奈落の無限階段を下って行きおった。アレは死なぬし、ペナルティも無いが、代わりに誰かが起こすまで待機することになるからのぉ。もう一度スルトに向かえるかどうかじゃの」
「名前とか分かる?」
「小林、じゃったかな。最初にアシナガサマを避けてムーに食われた少年じゃ」
ああ、小林くんか。
彼は頭がいいから、もしかしたら何かに気づいたのかも知れない。
「他は?」
「夢の共有が絶たれておる者が続出しておるな。お嬢さんが現実世界で、奴らを掻き乱しておるのではないか?」
「さぁ。でも私をいじめていたのが、バレて警察沙汰になってるらしいから、クラスのみんなの心はバラバラよね」
「さすがは我が輩が選んだダンジョンマスター。冒険者を弱らせ、攻略困難にする。やるではないか」
アバドゥンがとても楽しそうに話す。
「でね。アバドゥン。明日、現実世界で冒険者たちと話し合いがあるのよね」
「ふむ」
「“最後通牒”をしとこうと思うのよね」
「ほう。面白いではないか」
私もアバドゥンも悪い顔をしている。これが悪代官と越後屋の密談の楽しさか!
少しハマっちゃいそうだ。
○○○
パーティで組んでいたが、今は1人だ。
監督、校長、教育委員会の先生、警察、家族と色んな人に怒られた。
2人の比ではないが、僕も怒られた。
一ノ宮さんへの謝罪も断られ、今更ながら何でこんなことになったのか、答えの無い問題を抱えて、ただ階段を降りている。
この夢は、夏休みに入ってからずっと見始めている。
この夢をおそらくクラス全員が見ている。
だから、クラス全員に共通した何かを探して、それを解決すれば見なくて済むようになるだろうと考えた。
だから、野村くんのしたお地蔵さんの首の祟りかも、というのは可能性を考慮する1つだった。
だけど、今日僕は見た。
先生も同じ夢を見ている、と。
なら、お地蔵さんは関係ない。
そして、先生も含めてクラス全員が共通していることは1つだ。
この夢の原因は“一ノ宮 メイへのいじめ”じゃないかと考えた。
朽ち果てた学校からの脱出ルートを現実世界に当て嵌めると、彼女の登下校のルートに一致する。
学校から出て、お地蔵さんとお堂を超えたら、歩道橋のある大通りに出る。彼女の家はその近くだったはずだ。
実際に霧の中を行くと、地獄まで繋がっているんじゃないかという大穴と、ぼろぼろの錆びた歩道橋があった。
歩道橋を登る。
これを渡り切れば、彼女の家だ。
そこに辿り着けば、許されるのではないか、そんな微かな希望でここまで来た。
だが、橋の真ん中に、明らかにヤバい奴がいる。
鉄の棒を持った生きた炎、だ。
まだ僕を捉えていないが、左右に逃げ場はない。100%殺される。
策が全く思いつかない。
パーツが足りない?
探索が足りない?
仕方なく、歩道橋を降り、あたりを捜索する。
すると、地獄の底へと続いているかも知れない穴への階段を見つけた。
遥か下に光が見える。
多分フェイクだ。
これまでの傾向を考えると、ただ取りに行かせるだけなんてことはさせないだろう。
この穴は、一ノ宮さんの帰宅ルートにはない。
だが、ここしかいけない。
これは
これからの人生が地獄、ずっと下り坂であることの暗喩なのかもしれない。
もしくは、1学期の一ノ宮さんの心境を擬似体験させる目的か。
それなら、分からないでもないか、と選択肢のない僕は、降り階段を重い足取りで降り始めた。
ずっと続くであろう、地獄への階段を。
○○○
「やあ、小林くん。だいぶ降りたね」
階段を降り続けていたら、背後から声をかけられた。
振り返ると一ノ宮さんがいた。
「ここまで来れたのは、小林くんが最初だよ。頭いいもんね、小林くんは」
1人で喋り続ける一ノ宮さん。
「この先にゴール、あると思う?」と聞いてくる。
「......」
「あっ、ここでも無視?そっか。それは思いつかなかったよ」
「いや、そうじゃないよ。いや、何ていうか」
「ん?」
「何でここに一ノ宮さんがいるんだろうって考えてた」
僕の見ている夢なのに、一ノ宮さんが出て来て、喋りかけてくる。
パーティじゃない。
最初からいたわけじゃないから。
なら一ノ宮さんは何故出てきたのか。
夢には願望が現れるというけど、ならこんな悪夢は見ないはずだ。
なら、この一ノ宮さんは
「ここにいる一ノ宮さんは、本物の一ノ宮さんなのかな。で、この悪夢は、一ノ宮さんの夢なのかな?」
「......すごいね、小林くん。本当に頭良いんだね」
一ノ宮さんが僕を褒める。
つまり、正解なのだろう。
「なら、これは、クラスみんなへの復讐、なのかな?」と続けて聞く。
「そうだね。そう。この“いじめられっ子ダンジョンは”はみんなへの仕返しのための悪夢の迷宮だよ」とあっけらかんに答える一ノ宮さん。
「理不尽でしょう?逃げられないでしょう?孤独でしょう?辛いでしょう?訳わからないでしょう?助けて欲しいでしょう?
それをお前らは、ずっとやってたんだ」
一ノ宮さんが低い声で言う。
「ちなみに、斎藤くんは『お前のせいでサッカークラブを追い出されたし、親に死ぬ程怒られた。絶対許さないぞ』って苦情を言われたよ。野村くんは、今2時だけど、まだ夢の中にいないね。まだ起きてるみたい」
「アイツらは......。本当、馬鹿だな」
「そうだね。小林くんは、その馬鹿に乗せられて痛い目にあった馬鹿だね」
「ああ、馬鹿だよなぁ」
乾いた笑いしか出ないな。
「そんな小林くんに質問です」
低い声から打って変わる一ノ宮さん。
「何かな?一ノ宮さん」
「これからどうしたい?この階段、立ち止まらなければムーちゃんも出てこないから、ある意味セーフゾーンだよ。起きた時のペナルティもないし、安全牌と言えば安全牌だね」
「ペナルティなんてあったんだ」
「ムーちゃんに食べられた後、足怪我しなかった?」
「そうだね。起きた後、カミソリで怪我したり、小指を机の角で打ったりしたかな。あれがペナルティ?」
「そう。ちなみに、今は軽いけど、だんだん重くなって最悪“車とガードレールに挟まれて両足が千切れる”とかまでいくよ」
絶句した。
かなり重たいじゃないか。
「ちなみに学校の巨大スライムは?」
「テナガアシナガサマのペナルティは、皮膚炎。日焼けレベルから、水ぼうそう、帯状疱疹、皮膚から血液にバイ菌が入って最悪、皮膚が腐り落ちるね。海に行くなら、傷口からバイ菌が入って“人食いバクテリア感染症”になるかもね。
ついでに言うと、グールのペナルティは、それの口内炎バージョン」
軽く言っているが、死ぬレベルのペナルティだ。
毎晩そんなリスクを負いながら、過ごしていたのか。
「一ノ宮さんは、クラス全員を殺すつもりだったの?」
恐る恐る聞いてみる。
「面白いことを言うね、小林くん。うつ病の自殺率って知ってる?15%だよ。クラスみんなで私を殺そうとしてるのに、自分たちは大丈夫だなんて、虫が良すぎるって思わない」
一ノ宮さんが笑って答える。
本気の仕返しだ。
しかも、呪いの類いでの殺人。
この国では、呪いでの殺人を法的に裁くことは出来ない。
社会的に追い詰められ、呪いでじわりじわりと肉体も精神も追い詰めようとしている。
僕は、魔王に反感を買われてしまったのか。
「さて、話を戻そっか。小林くんはどうしたい?他の人たちみたいに苦情があるなら、今日までは聞くよ」
「最後通牒なんだね」
僕は一ノ宮さんを見ながら言う。
「本当にすみませんでした、一ノ宮さん」
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朝、目が覚めたらすぐに着替える。
父も母もカンカンに怒ったままだ。
僕が外に行こうとすると怒鳴って止めようとする。
だが、それどころではない。
夢の中の一ノ宮さんが、本物ならば、今日の朝がラストチャンスだ。
指定されたラジオ体操の会場の公園に着いた。
そこには、天田さんと楽しそうにおしゃべりする一ノ宮さんがいた。
「あ、小林くんだ」
「メイちゃん、大丈夫?こっちに来るよ?」
「一ノ宮さん。本当にすみませんでした!」
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小林 ジン
テナガアシナガサマへの対処法発見済
校舎からの脱出達成
火喰いグールへの対処法発見済
ダンジョンからの脱出法発見済
スルトへの対処法未発見
ダンジョンマスターによる解放でクリア




