冒険者 対 国立桜紋騎士団
裏サイトが炎上し、サッカークラブで斎藤と野村が殴り合いになっている頃、我らがダンジョンマスター 一ノ宮 メイは、朝顔の観察日記をつけ、紙粘土で貯金箱を作っていた。
ラジオ体操から帰ってきてからのメイは、ワクワクした顔をしている。
朝、ラジオ体操が終わった後、「隣町の神社で夏祭りをやっているから、一緒に行かない」とアイナに誘われた。
小学生2人では許してもらえないかもしれないと、アイナは自分の兄を付き添いという人身御供に捧げ、メイの親の承諾を得やすいよう調整まで行っていた。
「メイはホント、アイナちゃんと仲が良いわね」
「で、行っていい?」
「宿題もちゃんと終わらせているみたいだし、問題ないわよ。浴衣、着てく?」
「暑いからいいや」
○○○
17時。メイは、電車に乗り目的地の駅の改札口で天田兄妹と合流した。
アイナもアイナの兄も、浴衣や甚平姿と夏っぽい格好であった。
ジャージ姿のメイを見て、2人は訝しい顔つきになる。夏祭りなのに浴衣じゃないから、と言う理由ではない。着ているもの芋っぽいジャージだからだ。
アイナは朝のラジオ体操の時も、この芋ジャーを見ており、目つきが兄よりも鋭くなっている。
「メイちゃん、浴衣じゃないんだ」
「暑いと思って。着てこなかった」
「暑いからこそ、浴衣は着る物なのでは?」
「アイナのお兄さんは知らないかもだけど、おしゃれ浴衣って着てると変な汗をかくんですよ。そして全身汗疹になるんです」
「それはただの拒絶反応だよ」
「おしゃれアレルギーでは?」
アイナ兄妹が声を合わせ、返答する。
「まぁ。メイちゃんは“慢性おしゃれ欠乏症”だから仕方ないか」
「急なおしゃれの投与でショックを起こすかも知れないな」
「えっ、何その奇病。やだよ」
天田兄妹にツッコミを入れられながら(入れながら)、メイは鳥居を潜り、出店が並ぶ参道を歩くことになった。
その間、ずっとメイはキョロキョロと出店を見ていた。
隙あらば綿飴、隙あらばイカ焼、と大量の食料を購入しては舌鼓を打っていた。
だがこの光景に、昔からのメイを知っているアイナは、テンションが高過ぎると違和感を覚えていた。
メイは、どちらかと言うと世の中を冷めた目で見るタイプ。“早く来すぎた中二病”な感じだった。
だが、今のメイは百歩譲っても、お祭りをはしゃぐ子ども、にしか見えない。
元々おしゃべり好きなメイからすれば、1学期の無視される時間を取り戻すつもりで、しゃべっているだけであった。お祭り騒ぎも、おばあちゃんから「人間がわいわいして祝うのが、お祭りと神様へのマナー」と教わっていたので、マナーに則りわいわいしていただけであったのだが。
アイナは、勉強家なので、両親の仕事の資料などを読むことがある。
資料によると、精神的に不安定になると、多弁症状が見られることがあるらしい。双極性障害の躁病期に見られる症状が、それなのだそうだ。変にテンションが上がったり、自信過剰傾向になったり、万能感を抱いたりもする、と書いてあった。
1学期の自分たちのした浅はかな行為が、彼女を壊してしまった、とアイナは1人考え込んでしまっていた。
「ごめんね、メイちゃん」
「えっ」
とうもろこしを食べていた手を止め、アイナを見る。
「無理しなくていいからね?無理にテンション上げて、馬鹿なハムスターみたいにとうもろこしに齧り付かなくて良いから。ね?」
「えっ。なんで急にディスったの?」
「アイナ。何か変な深読みしてるみたいだけど、メイちゃんは元々こんなんだぞ」
「天田家は私に恨みでもあんのか!」
○○○
あー、楽しい。ちょっと、アイナちゃんが変なことを言うけど。とっても楽しい。
好きな格好をして、好きな人に囲まれて、好きなことをする、というのはとっても幸せだ。
どうしてお祭りの焼きそばやフランクフルトは美味しいのだろう。
普段なら絶対食べないくらいのぼったくりなのに、つい手が出てしまう。
この調子で買い食いしてたら、御賽銭が無くなってしまいますなぁ。
そんなことを考えながら、参道を進んでいると、彼女の目に、社務所の前にいる女子のグループが映り込んだ。
「高野さん達だ」とアイナちゃんが言う。
高野さんたちは、サッカークラブのファンの子たちだ。私が斎藤くんから嫌がらせをされ始めたくらいに、一緒になって嫌がらせをしてきた。
取り合わなかったら、遂に体育館の裏に呼び出されて囲まれたりもした。
無視するタイプではなく、実際に手を出してくるタイプの人たち。
そんな奴らが、何故神聖な神社にいるのだろうか。
“邪”が入って来てしまっているのでは、結界の意味がないじゃないか。
そんな変なことを考えながら見ていた。
さっさと目を逸らしておけば良かったのに。
すると、たまたまだろうか。グループのうちの1人が、私たちに気づいた。目が合ってしまったのだ。
その子が他の2人に何かをしゃべった後、他の2人もこちらを見る。
「早くお参りして帰ろう?」と私が天田兄妹に話しかけたが遅かった。
ちょうど同じタイミングで人混みの向こうから「何してんのよ、ブス子」と話しかけられたのだった。
○○○
「いや、私たちはお祭りに来ただけよ」と私は淡々と返す。
それ以外に理由はないし、何もしていない。
質問に答えたのだから、さっさと居なくなって欲しい。時間は有限なのだ。
「アンタのせいでクラスみんなが大変なのに呑気なものね」
「私のせい?」
心底わからない、と言う顔をする。
十中八九悪夢のことだろうが、私とアバドゥンのことは、現実的には証明不可能だ。
私のせい、と言う意味が分からない。
「アンタが地蔵の首持ってたりするから、クラスみんなが祟られてんのよ」
「お前のせいなのに、何楽しそうにしてんのよ。ふざけてんの!」
「つか、アイナも何一緒にいんの?裏切り?」
3人の矛先がアイナちゃんにまで向く。
切れたナイフか。
なるほど。餓鬼たちのところの首無し邪神像から、『悪夢の原因はお地蔵さんの祟り』へ持っていったのだな。
私も誘導した感じではあったが、まさかここまで持って行かれるとは。
ちょっと面白い。
突けば、お地蔵さんの首を私の体操服入れに入れた犯人も漏らさないかな?
「お地蔵さんの首は、勝手に私の体操服入れに入れられていただけだし。私も被害者なんだけど」
「加害者が被害者ぶってんじゃねーよ!当たり屋かよ!」
「斎藤くんたちに買おうとしてた、厄祓いの御守り、お前が買えよ。賠償して誠意を見せろ」
「ていうか、クラス全員分買って詫びれよ!」
どう言う理論でそうなるのだろうか。
理解に苦しみ、私は頭を抱える。
「えーっと君たち、メイちゃんのクラスの子たちなのかな?」
高野さんたちが喚いていると、アイナちゃんのお兄さんが話かけてきた。
「だから何なのよ!」と高野さんが悪態をつく。相手は中学生なのに、よくも啖呵を切れるものだ。感心すらする。
一呼吸置いた後
「お祭りでテンション上がるのはしょうがないとしても、天下の往来で金品要求の恫喝とは中々の暴走っぷりだね。恐喝は立派な犯罪。通報したから逃げないでね」
アイナちゃんのお兄さんが冷たい笑顔で、高野さんたちに言い放った。




