バラバラになりゆく者たち
夏休みが始まり1週間が経った。
祖父母の家に行っていたので、今日がこっちでの初めてのラジオ体操になる。
1学期のことを振り返る。
この公園に来るメンツは、アイナちゃんも含めて、無視するだけで特に危害を加えてこない人たちだったと思い、参加することにした。
だが実際参加してみると、6年生は私とアイナちゃんしかいなかった。
この地区には、もっといたはずだ。
少なくとも、いっつも仲良くくっついていた3人組がいたはずなのだが。
目が合うとアイナちゃんが私に駆け寄ってきた。
昨日振りに会ったアイナちゃんは、実に清々しい顔をしていた。
憑き物が落ちたような表情、とでも言うべきか。
まぁ実際、憑き物が落ちたわけだが。
「おはよう、メイちゃん」
ジャージにサンダル、寝癖は少し直しただけ、の私と違い、朝からお出かけ用の可愛い服を着ている。
女子力の差だろうか。
「おはよう、アイナちゃん」
こんなことなら、髪くらいは整えてからくれば良かったと思いながら返事をする。
「ところでアイナちゃん。6年生の出席率悪くないかしら?私としてはありがたいけど」
どうせ無視されたり、踏み込んでも陰口を聞こえるように言われるくらいだが気にはなる。
7日間もの情報の空白がある。
アイナちゃんへの挨拶ついでに、情報収集もしておくことにしたのだ。
「2日前までは、もう少しいたんだけどね。仲良し3人組は、なーんか分裂してね。玉木さんが他の2人にブチ切れてからは見てないなぁ。何かあったんだろうね」とアイナちゃんがしみじみと言う。
「共通の敵を作ってた間だけの友情だったんでしょ。無視する相手が、私からお互いに変わったってだけよ。無視されるのは辛いわよ〜。でもお高いカステラが食べれるんなら、たまには無視すれるのも悪くないわよ〜」
後半は、半トーン声が上げて、ちょっと嫌味っぽくニヤニヤしながら言ってみる。これくらいの戯れなど、大したことじゃないだろうし。
実際アイナちゃんも気にしていない。
悪ノリに乗ってくれるようだ。
「兄さんに借金して買ってみたカステラのお味は如何でしたでしょうか、お嬢様?」
「美味だったわ〜。パーフェクトよ、アイナちゃん」
「感謝の極み」
スカートの端を持ってカーテシーなんてしちゃって。淑女なメイドか!とツッコむ。
久しぶりに人とくだらない話をし、笑うことが出来た良い朝だった。
○○○
メイが帰省し、ラジオ体操に参加したことが学校の裏サイトに記載された。
この裏サイトは、1学期の時に、斎藤が作ったケータイのサイトだ。
ブス子ゲームに参加すると、サイトのパスワードを教えられ、中の掲示板を見たり、書き込みができるようになる。
1学期の間は、ひたすらメイに関する悪口や、嫌がらせの報告や提案が書き込まれるだけのサイトだった。
なのでメイは存在すら知らない。
メイと仲良くしていた何人かも知らないだろう。
サイトの名前は、人気ゲームの名前から取り、『ハンターギルド』となっていた。
しかし今、ハンターギルドは、悪夢の迷宮の攻略情報やパーティの組み合わせの表明をする書き込みでいっぱいだ。
チョークや重曹でアシナガサマが倒せる情報が載ったあたりから活性化したのだ。
『ブス子とかどうでもいいし。それより鬼が倒せない』
『アイツらを迂回しようとしたけど沼しかない』
『焼却炉にあった木材じゃ勝てなかった』
『アイツら、火を吐くぞ』
『最近、口内炎が出来やすいんだけど、アイツらのせいかな?』
『俺、病院でヘルパンギーナって言われた。口の中超痛え』
『誰か早く攻略しろ』
そんな書き込みが毎朝書き込まれている。
ちなみに、チョークや重曹での攻略法が発見されてからはカーテンロープ脱出法は、一気に廃れた。
その際に『アレには騙されたところわ、チョークも重曹も拾えなくなるし』だとか『罠かよ』『考えるだけならまだしも、間違えた方法ばら撒くとか、スパイかよ』などの、遠回しなカスミへの批判が大量に書き込まれた。
『私は、私なりに脱出方法を考えただけよ。罠なんかじゃない』
『無能のくせにでしゃばるな』
『ずっと1人でカーテンで編み物してれば?』
『匿名掲示板で、私って(笑)』
『カス子特定しました』
『カス子はもっとマシなこと思いついたら書き込んだら?』
メイへの嫌がらせのブームは過ぎ、ネットではカスミへの誹謗中傷が溢れることがしばしばあった。
その為か、アイナがメイと合流したことなどは話題にも上がらない。
ブス子からあやかり、カス子と呼ばれるようになったカスミ。
彼女は今、夢の中でも、ネットでも1人になってしまっている。
女子グループ内でのメイへの無視を扇動したり、囲んで脅したり、悪口の落書きなどを私物に入れたりなどした主犯格にしては、お似合いの末路を辿っていると言えた。
ただ、そういう背景はあるものの、それだけではこの状況は生まれ得なかった。
元々、嫌がらせのために作ったサイトであることと、匿名性、精神的に追い詰められているストレスが、ただでさえ少ないネットリテラシーを欠如させ、団結しなくてはいけない場面での結束を阻害し、ひたすらに弱者を見つけては、叩いて発散しようとする醜い感情の吹き溜まりとしたのだ。
それは、現代における悪夢の迷宮と言える有り様であった。
○○○
そんな悪夢の迷宮に、誰かが攻略について書き込む。
『鬼の群れがいるところに、変な鬼の像があるんだけど、何か気づいた奴いない?』
『あれ、校舎の裏にあるのも考えたらさ、6地蔵なんじゃねーの?』
『もしかしたらヒントなんじゃね?』
『詳しく調べたら何かわかるかもな』
その書き込みの後、複数の人間が地蔵へ向かっていった。
そこで首が折れている地蔵を見つけた1人が、更に悪夢を加速させる一言を書き込むことになる。
『この夢、首を折った奴へのお地蔵さんの祟りかもしれないぞ!』




