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 月明かりに照らされ、山々に薄桃色の淡い彩りが見える。季節はもう、春と言ってもいいだろう。

 こちらの里ではまだ早いかもしれぬが、あいつの居るところでは、そろそろ桜が咲いている頃だ。

 最後に見てからしばらく経つが、元気でやっているだろうか。いや、ここを飛び出した時と比べて随分と成長したようだし、成田君の話では、何かと賑やかに過ごしているようだ。余計な心配はいらぬか……。

 そういった意味では、本当に良い出合いに恵まれたのだと思う。

 そんな我が子の成長に、まだ若いと思っていた自分が、案外に歳を取ったのだと気付かされる。

 自室の襖を開け放し、里よりも少しばかり早く、まばらに咲いた山桜を眺めながら部屋の主……、御門蒼月は思う。

 そのまましばらくぼんやりと桜を眺めていたが、外から入り込む寒気にわずかに身を震わせる。

 初春とはいえ、御門の屋敷が建つ山中はまだまだ肌寒い。少しばかり名残惜しそうな素振りを見せながら、蒼月は襖を閉める。

 

「!」

 

 だが、襖は最後まで閉められることはなかった。なぜなら、突如として感じた身を貫くような気配に、蒼月がその動きを止めたからだ。

 やがて、慌しく縁側を走る音が聞こえてくる。

 普段であれば、屋敷内でそのような振る舞いは許さぬであろうし、また走ってくる男もそのようなことをすることもない。いつも冷静沈着を装った、紳士を絵に描いたような男である。むろん、本来の嗜虐性を隠した表向きは……、であるが。

 長い御門家の歴史の中でも、五本の指に入る実力者ではないかと噂される蒼月といえど、彼を式とするのには随分と骨を折ったものだ。

 

 五本の指にか……。

 

 こんな状況にもかかわらず、蒼月は自虐的に笑う。そんな力を持つと言われる自分にも、彼女を救うことはできなかった。

 

 だが、もしかしたら、彼女の血を引くあいつならば……。

 

 彼女の血を引くあの子は、幼き頃より才能は群を抜いていた。ならば、もしかしたらこれは最後のチャンスかもしれない。だが、才能はあれどあの子はまだまだ子供だ。それに、あえて辛い道を歩ませることもない……。

 そんな都合の良い考えを振り払い、縁側に顔を向ける。

 屋敷に住まう弟子達も、普段見ることのない男の慌てふためく姿が珍しいのか、何人かが部屋から顔をのぞかせている。

 

「そっ、蒼月様っ!」


 慌しく駆けつけた男は、漆黒のスーツに身を包んだ、痩身で顔色の悪い男。蒼月の式神である怪……、正体は蛟である夜叉丸だった。

 

「火急のことゆえ、無作法をお許しください。ふっ、封印が……」


 あまりに急いで来たのか、端正な顔立ちに汗を滲ませ、息を詰まらせ一息に伝えられない夜叉丸だったが、蒼月は彼が何を言わんとしているのか理解していた。

 なぜなら、それを施したのは蒼月自身だからだ。それが破られたとなれば、当然術者の己が一番に感じるはずだ。

 

「ふっ、封印が……。翠様の封印が……」


 夜叉丸の言葉に、蒼月は黙ってうなずく。そして再び襖を開け、まばらに咲く山桜を見つめる。

 その目は、何か強い意思を秘めているようにも見えた。

 

「翠様の封印が、解かれました!!」




 商店街に咲き始めた桜のアーチを潜るように、俺と銀華さんは歩いていた。頭上からは時おり、ハラハラと淡い花びらが舞い降りてくる。

 この調子では、咲いているのはせいぜいあと十日ばかりだろうか。俺の育った場所の山桜とは少しばかり違う咲き方に、新鮮さとわずかばかりの儚さを覚える。

 

「もう、せっかくだからクーちゃんも出てこればいいのに。こんなに綺麗なのはこの時期だけなんだよ」


 銀華さんの呼びかけに、俺の胸元から声がする。


「我は緋色様の式だ。片時たりともおそばを離れるわけにはいかぬ。それに、何度も言ったであろう。我を『クーちゃん』などと、気安く呼ぶでない!まったく、あの刑事といい、我を何と思っておるのか……」

「だって、クーコって呼び捨てにするのも変だろ?だったらクーちゃんでいいじゃないか。それに、いつまでもそこに引きこもってるのは良くないと思うよ」

「何だ猫又、もしや……。フフフ、うらやましいのか?」

「そ、そんなはずないだろ!ぼっ、僕はただ、ヒロ君にくっつきすぎじゃないのかって言いたいだけで……」

「ならば黙っているが良い。我は緋色様を守るためにここにおるのだからな」

「ぐっ……!」

「ちょっと銀華さん。こんなとこで喧嘩しないでくださいよ。それに、クーコもよさないか」

「う……」

「も、申し訳ございません」


 俺の言葉に一旦は大人しくなるが、この二人はお互いに、微妙に仲がよろしく無い気がする

 まあ、原因の心当たりである俺が言うのも何なのだが……。

 

「でも、商店街のおっちゃんたちもクーコの姿を見たがってたし、たまには顔を見せに出てきてもいいんじゃないか?」

「そ、そうだよ。まあ、そのおかげで僕のファンがクーちゃんに流れていったんだけどね……。なんでリルのファンじゃないのさ……」


 銀華さんは一人でブツブツと文句を言っている。いったい何のことかといえば、クーコが姿を見せた後、商店街の中でもガチの銀華さんファンだった店主達の中から、クーコファンに鞍替えする人達が現れ始めたのだ。

 中年層が中心となる店主の年代的にも、圧倒的人気はリルさんで間違いはない。だが、リルさん曰く一部のロリコン……。いや、婉曲に言えば一部の若い女の子好きからは、圧倒的な支持を得ていた銀華さんだった。しかしながら、クーコの出現でその地位が危うくなりはじめたのだ。

 健康的で明るい銀華さんの人気があるのは間違いないのだが、一方でクールでミステリアスなクーコの存在は彼等のツボを刺激したようで、今やリルさんに次ぐ人気となっている。

 中にはクーコに罵られたい、裸足で踏まれたいなどと要望する変態……、いや、個性的な店主もいるほどだ。

 もっとも、本人はそれに嫌気がさして出てこないのもあるようだ。あの時、虫を見るような目で店主達の要望を聞いていたクーコを止めなければ、本当に大怪我をする人が出ていたかもしれない

 では、もう少しロリ……、ではなく年下の狗巫女ちゃんはどうなのかといえば、こちらは本当に娘や妹的な扱いとなっているようだ。まあ、変態に興味を持たれないだけ良しとすべきか。

 おかげで、いまや銀華さんのファン層の中心は、店を隠居した先代店主……、つまりは、おじいちゃんおばあちゃんが多数を占める事態となっているのだ。

 まあ、孫のように可愛がられているし、それはそれでいいことなのだろう。

 だが、一見仲が悪いようでも、クーコはきっと銀華さんに感謝しているのだと思う。なぜならあの時、俺と己を信じ、受け入れてくれたのだから……。

 

 

 

「銀華さん。大事な話があります!」


 俺が銀華さんに切り出したのは、正月早々にひいた風邪が良くなった数日後のことだった。

 本来なら正月翌日にも話すべきだったのだろうが、あまりに甲斐甲斐しく世話をしてくれる銀華さんと、俺自身が弱っていたこともあり、少しばかり甘えてしまいすぐには言い出せなかったのだ。

 

「な、何?大事な話って。も、もしかして、ぼ、僕のこと……。もも、もちろん僕はOKだよ!」


 少しばかり勘違いをしているようだった銀華さんに、俺は自分のことを告げる。むろん、それでここを追い出されるかもしれないことも、覚悟の上だ。

 御門の家のこと、親父に反発して家を出たこと、クーコのこと、銀華さんとの出会いで衝撃を覚えたこと、そして、弘美ちゃんと出合った吸血鬼事件の真相。

 さらに、旧鼠事件での真実、狗巫女ちゃんとリルさんとの出会い、金華さんとの邂逅、女子高でのリサリサさんとのこと……は、置いておこう。いや、嘘を付くわけじゃないが、話を円滑に進めるために。

 母親が妖怪に襲われ亡くなったこと、前回のことで親父とのわだかまりが少し解けたこと……。

 一年にも満たない時間だが、本当にいろんなことがあった。ガキのように拗ねるだけだった俺が、ちょっとだけ広い目で周りを見られるようになった。

 だからこそ俺は、ちゃんと話すべきだと思ったのだ。

 そして、自分のことを語り終えた俺は銀華さんを見る。怒り、怯え、驚き……。どんな表情をされても、冷静でいようと決意をして。

 

 だが、銀華さんの反応は予想外のものだった。

 

「かっ……、かっこいい……」

「は?」

「だ、だって陰陽師だよ!映画も見たし、アニメとかにもなってるやつだろ?悪い妖怪やライバルの悪徳陰陽師を、陰陽術や式神でバッタバッタと……。くぅ~、すごいじゃないか!」

「は、はぁ……?」


 目の前で興奮する銀華さんに少々拍子抜けだったが、だが、彼女が見てきたものは、あくまで物語の主人公に過ぎない。

 もしかしたら、陰陽師が何のために存在するのかを、理解しきっていないのかもしれない。


「あ、あの……、御門の仕事は綺麗ごとじゃありません。人の世に害を成すと見れば、怪異を殺す仕事です。場合によっては、知り合いや、友達でも……」


 自分の言葉に、胸の奥がズキリと痛む。そうだ、場合によっては、大切なモノとて始末せねばならぬのだ。だが……。

 

「でも、ヒロ君は大丈夫なんでしょ?」

「え?」


 銀華さんは俺を真っ直ぐに見ると、優しく微笑んだ。

 

「正直に言うとね、何となくはわかっていたんだ。ヒロ君は普通の人間とは違うって。だってそうじゃなきゃ、あの吸血鬼事件は解決できなかったと思うんだ。いくら僕でも、自分が全く記憶の無い事件を解決できたなんて思わないさ。弘美も何となくだけど、何か隠してるみたいだったし……。それに、あの死霊術士(ネクロマンサー)の事件だってね」

「で、でも、死霊術士の事件は銀華さんが解決したようなもので……」

「どっちだっていいさ。ヒロ君が僕を助けてくれたことには変わりないんだから。でも、だからこそ嬉しいんだよ。だって、ヒロ君は本当に僕のヒーローだったんだからね」

「銀華さん……」


 正直、銀華さんの感の良さを舐めていたようだ。すでに俺や弘美ちゃんの態度から、薄々は感付いていたらしい。そしてそんな銀華さんの言葉は、涙が出るほど嬉しい。

 だが、そうである以上、様々な心配事は避けられない。そんな俺の心中を察したのだろう。

 

「ヒロ君の心配は、マ……、母様の血のことだろ?」

「っ!」


 図星を付かれた俺は、返す言葉が見つからなかった。

 

「わかってるよ。僕だって母様の血を引いているんだ。金華猫と猫又、怪異としての役割は違っても、僕にだって母様の特徴があわられるかもしれない。それは、周りに厄際をもたらすことだったり、人を食べたくなることだったり……」

「そっ、そんなことは……。考えすぎですよ」


 しかし、そう言いながらも銀華さんは、何かを確信しているように微笑んだままだ。

 

「でも、大丈夫なんだろう?」

「え?」

「ヒロ君は僕のヒーローなんだから、もしも僕が変になりそうになった時には、きっとそれを止めて、守ってくれるんだろう?」

「も、もちろんです!銀華さんのためなら、俺は……」

「へへへ、ならいいじゃないか。僕はヒロ君を信じてるし、ヒロ君は僕を守ってくれる。それでいいさ。ま、僕を騙してた成田っちには、ちょっと腹が立つけどね」

「銀華さん……。ありがとうございます」


 話に集中していたのか、気付けば、予想以上に二人の顔の距離は近付いていた。それは、手を伸ばせば触れられそうなほどに……。

 

「ヒロ君……」


 わずかに吐息が顔にかかり、そして銀華さんは目を閉じる。その顔は普段の天真爛漫なものとは違い、ドキリとするほど大人っぽく感じられる。そして……。

 

「むぷっ……!」


 銀華さんの顔に、白い毛玉がへばりついていた。

 

「なっ、何これ!?もしかして、これがクーコちゃん?」


 なぜかはわからぬが、管狐状態のクーコが銀華さんの顔にへばりついていた。いや、わからぬことはないか。おそらく、いい雰囲気になりかけた俺たちの邪魔をしたのだろう。

 だが、正直俺はクーコに感謝していた。あのままでは、もしかしたら雰囲気に流されていたかもしれない。

 いや、もちろん銀華さんが嫌というわけではない。

 ただ、自分の中で答えがハッキリしていないのに、そんなことをしてはあまりに失礼だろうと思う。

 

「可愛い~。モフモフだよ!ヒロ君」


 そんなクーコの気持ちを知ってか知らずか、銀華さんは無邪気にクーコを捕まえようと手を伸ばす。

 だが、クーコはその手をするりとかわすと、少しばかり離れた場所で少女の姿へと変身する。

 

「えっ!?か、可愛い……。あれ?どっかで見たような……」


 その姿にさしもの銀華さんも驚いたようだ。だが、稲荷神社で会ったとは気付いていないらしい。しばらく無言でクーコを見つめていたが、やがて俺に向き直る。

 

「えっと……、ヒロ君?」

「はい……?」


 なぜだか幾分低くなった銀華さんの声のトーンに、俺は嫌な予感を覚える。

 

「クーコちゃん……、随分と綺麗な人だね?」

「え、ええ……。世間一般ではそう見られるでしょうね」

「ふーん。ヒロ君もそう思うんだ?」

「え?ええ、まあ……」

「そんなクーコちゃんと、ヒロ君は子供の頃から一緒なんだね……?」

「そっ、そうですけど……。いや、でも、何ていうか……。そういうんじゃないですからね!」

「う~ん、それはそれで失礼な気もするけど……。まあいいや、初めましてクーコちゃん。あ、クーコちゃんってのも長ったらしいな。よし、これからよろしくね、クーちゃん」

「クッ、クーちゃ……?ぐっ、猫又風情が馴れ馴れしい……」


 クーちゃん呼びはお気にめさなかったようだが、俺が世話になっている手前、強くも言えないようだった。

 

「そうだ、もうヒロ君やクーちゃんのこともわかったんだしさ、窮屈な竹筒で過ごさなくても、ここで一緒に住めばいいよ。二階に空き部屋もあるしさ、クーちゃん用に一つ使えばいいさ」

「いいんですか?俺だけじゃなく、クーコまで世話になっても」

「もちろんさ。ヒロ君の子供の頃から一緒に過ごした、大切な式神なんだろ?」

「ありがとうございます」


 俺は銀華さんの優しさに、心の底から感謝する。式神は主の命を聞くものとはいえ、御門の屋敷にいたときと違い、クーコにはかなり窮屈な思いをさせていたはずだ。これでクーコも少しは羽根を伸ばせるだろう。

 だが、彼女の返答は意外なものだった。

 

「せっかくのお申し出ですが、お断りさせていただきます」

「「はい?」」


 思わず銀華さんとハモってしまった。

 なぜかクーコは、せっかくの銀華さんの好意を拒否したのだ。

 

「お、おいクーコ。せっかく銀華さんが……」

「そっ、そうだよ。窮屈な竹筒より、暖かいベッドで寝たほうがいいだろ?」


 だが、銀華さんの誘惑にもクーコが首を縦に振ることはなかった。

 

「せっかくのお誘いですが、私は緋色様を守る式。片時足りとて、主のそばを離れるわけには参りません」

「クーコ、お前……」


 ここは、俺がクーコの忠誠心に心を打たれる場面だろう。だが、俺は見てしまった。ほんの一瞬ではあるが。クーコが銀華さんに向かい、勝ち誇ったような笑みを浮かべたのを。

 そしてそれに気付いた銀華さんが、一瞬ではあるが物凄い形相でクーコを睨みつけたのを。

 

「い、いや、でもね。ヒロ君は紳士だから大丈夫だけど、女の子が男の子と一緒の部屋で過ごすってのは、本来は良くないことで……」

「おや、何を心配しているのですか?緋色様がそのようなことをするはずがないでしょうに。もっとも、そのようなことが起きたなら、それは私のことを選んだからではないでしょうか?」

「ぐっ……。と、とにかく、ヒロ君から離れなよ!」

「断る!我に命令できるは緋色様のみ。猫又風情が緋色様に近付くなど、百年早いわ!」

「よっ、よせクーコ!銀華さんも、落ち着いてください!」


 そんなやり取りがあり、お互いにそりが合わないようなのである。だが、俺には最後にクーコがポツリとつぶやいた言葉が、ハッキリと聞こえていた。

 

「だが、緋色様を傷つけず、受け入れてくれたことは感謝する……」

 

 

 

 

「い、いや~。でも、桜が綺麗ですね~。田舎じゃ山桜くらいしか見れなかったからな。そうだろ、クーコ」

「ええ、緋色様と二人きりで(・・・・・)見た桜は綺麗でしたね」

「ふーん。ヒロ君は、クーコちゃんとよく(・・)デートしてたんだ……」

「デ……。ち、違いますよ!そんなんじゃなくて……」


 もはや何を言っても藪蛇にしかならない。そう判断した俺は、大人しく買い物をして、早々に帰ることに決めたのだった。

 急いで店に向かおうとしたとき、一陣の風が吹いた。それは、季節はずれの春一番だったのかもしれない。

 その風に吹かれ、咲き始めた桜の花びらが風に舞い、まるで花吹雪のようになった。

 

 いつの間に現れたのか、その花吹雪が晴れた先にその人は立っていた。

 

 透き通るような長く伸びた美しい緑色の髪に、淡く光る緑の瞳。どこか親父を思わせるような、上品に着こなした着物姿。初めて見たはずなのに、どこか懐かしい感覚。

 何より特徴的なのは、尾てい骨あたりから生えた九つの尾……。

 いや、俺はその人を知っているはずだ。ずっと前から、ずっと昔から見てきた人だ……。

 

「ああ……、会いたかったわ緋色。この日をどんなに心待ちにしたことか……。さあ、こちらに来て、もっと良く顔を見せてちょうだい」


 本来であれば、いきなり現れ何を言っているのかと思うだろう。

 だが、俺にはわかってしまった。

 なぜかはわからぬが、忘れていたはずの幼き日の記憶が、洪水のように押し寄せてくる。

 そうだ、俺はこの人の胸に抱かれ、この人の柔らかな尾にうずまり、この人とともに眠った。

 父様に怒られた時、友達と喧嘩をした時、修行で怪我をした時……。この人の胸に飛び込み泣いたのだ。

 そうだ、この人は……。

 俺の両目から、無意識に熱いものが流れ落ちる。

 

「か……あ……さま」

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