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「い、いやぁ~、俺は初めてですけど、こうやって皆で初詣に行くって、楽しいですね」
「そ、そうですね。そう思うよね、狗巫女ちゃん」
「は、はわっ!?え、えっと……。そうですね。わ、私もこんな大勢で初詣なんて初めてですし、賑やかで楽しいです」
「あ、あははは……」
俺は弘美ちゃん、狗巫女ちゃんと一緒に、とってつけたようなぎこちない会話をしながら、稲荷神社へと向かっていた。
もちろんその他に銀華さん達も一緒なのだが、前を歩く三人は、何やらお互いにピリピリしたオーラを発し合い、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
「そっ、それよりも、あの……」
「ん?どうしたんですか、狗巫女ちゃん」
「お、お体は大丈夫なんですか?」
「え……?どういうことですか」
俺は少しの間、こちらを心配そうに見つめる狗巫女ちゃんの言葉の意味が、理解できなかった。
そして、しばらく狗巫女ちゃんを見つめていると、なぜか彼女は少しばかり顔を赤くして、目を逸らした。
「はわっ!な、何だか鼻声だし、顔も少し赤いみたいで……。か、勘違いだったらごめんなさい」
「そういえば……。緋色さん、何だか熱っぽくないですか?」
慌てて頭を下げる狗巫女ちゃんだったが、弘美ちゃんも少しばかり俺の様子がおかしいことに気付いたようだ。
そして当の本人であるて俺は、ようやく自分の体調の原因に気付いた。言われてみれば、確かに風邪っぽい。
「ああ、ちょっと汗をかいて、布団を跳ね除けて寝ちゃってたものですから。体が冷えちゃったのかもしれません。でも大丈夫ですよ。具合が悪いわけでもないですし、銀華さんからもらったこのコート、随分と暖かいですから」
まあ、少しばかり頭がボーッとはするが、別段気になるほどでもない。むしろ心配させてしまい、申し訳ない気持ちになる。
「それよりも、二人ともプレゼント使ってくれてるんですね。大した物じゃないですけど、気に入ってもらえるか心配してたんで、よかったです」
弘美ちゃんを見れば、胸元には俺のプレゼントしたペンダントが、狗巫女ちゃんの両手には、手袋がはめられていた。
もちろん、俺と出かけるということで気を使ってくれたのだろうが、あまりに趣味に合わないものであれば、身につけてはくれないだろう。
そういった意味では二人の好みに合っていたようで、少しばかりホッとする。
「いえ、こちらこそありがとうございます。すっごく可愛いし、嬉しいですよ。ねえ、狗巫女ちゃん」
「は、はい。嬉しいです。で、でも、せっかくのプレゼントなのに、お返しもしないで……」
「い、いいんですよ。弘美ちゃんにはいつもお饅頭をいただいてますし、狗巫女ちゃんには、時々仕事を手伝ってもらってるお返しですから。むしろこっちこそ、そんな立派な着物に、不釣合いな安物を送ってしまったみたいで、何だか申し訳なくて……」
別に謙遜ではなく、心底そう思う。
狗巫女ちゃんはともかくとして、弘美ちゃんの着物はお母さんの物なのだろう。男の俺からしても、相当に高そうなものだとわかる。
そんな着物に安物のアクセサリーでは、少々気まずくもなるというものだ。
「そっ、そんなことありません!」
突然の弘美ちゃんの大声に、俺は少しばかり驚いた。
「プレゼントは値段じゃありません。いかに相手の喜ぶものを考えて送るかだと思います。このプレゼントからは、緋色さんが私達に似合いそうなものを考えてくれたって伝わってきます。もちろん、だ、誰から貰ったのかも大事ですけど……」
「そ、そうです。その……、この手袋だって、とってもあったかくて、そ、その、ひ、ひ……さんに、て、て、手を握ってもらってるみたいで……。その……」
真っ赤になってうつむく狗巫女ちゃんに、俺は本当に喜んでもらえているのだと感じ、少しばかり嬉しくなる。
「なんだいヒロ君。クリスマスプレゼントの話かい?」
弘美ちゃんの大声が気になったのか、少し前を歩いていた銀華さん達が、立ち止まりこちらに声をかけてきた。
おそらくは、プレゼントの話に反応したのだろう。なぜなら……。
「ふふん。やっぱりヒロ君のセンスは最高だね。やっぱり僕にくれたのが、一番可愛いよ」
銀華さんの胸元にも、小さな花びらがあしらわれたネックレスが光っていたからだ。
「でも……」
銀華さんは、横目でリルさんを睨む。
「なんでリルが、ヒロ君のプレゼントを付けてきてるのさ。ひょっとして……」
そして、少しばかり離れた所からこちらを見るリルさんの耳にも、イヤリングが光っていた。
リルさんに合いそうなデザインを選んだとはいえ、正直、普段から大人っぽい格好をしているリルさんが、俺の選んだ安物のアクセサリーをつけてくるとは意外だった。
まあ、何だかんだと優しい人だし、皆と同様に俺に気を使ってくれたのだろう。
「な、何を変な勘ぐりしてんだい。ア、アタシは別に、一回くらい本人の前で付けなきゃ悪いって思ったからで……」
「ふ~ん、なんか怪しいけど……。まあいいや。おやぁ~、それよりも、確かリサリサだっけ?キミはヒロ君からのプレゼントを貰ってないのかな」
「……」
銀華さんはニヤリと笑い、これ見よがしにネックレスを見せつけながら、上から目線でリサリサさんを見下ろしている。
ここは銀華さんをたしなめ、リサリサさんのフォローをするべきなのだろう。だが、俺の感がこの争いに加わってはいけないと警告をしている。
だが、勝ち誇った銀華さんをあざ笑うかのように、リサリサさんが動いた。
「ふふ、知らないって幸せでいいっすね」
「な……、どういうことさ!」
「見たところ、そのアクセサリーと手袋っすか?少しばかり着物とは浮いてるし、間違いないでしょうね。でも、プレゼントにしちゃ少しばかり安上がりっすね」
「し、失礼な!これはヒロ君が一生懸命考えて、僕達に似合う物を選んでくれたんだよ」
銀華さんの言葉に、狗巫女ちゃん達が一生懸命うなずいている。
「もちろん、真面目で優しいセンセーっすから。ちゃんと皆のために選んだんでしょうね。でも、クリスマスプレゼントにしては、少し定番すぎないっすか?」
「ど、どういうことさ?」
「つまり、皆さんへのプレゼントはあくまで日頃の感謝の気持ちであって、本命の高価なプレゼントは、誰か他の人にあげてるとか……。しかも、これ見よがしにわかるようにじゃなく、さりげない感じにね」
さりげなく少しばかり高価そうな髪飾りを触りながら、意味深な表情でリサリサさんは笑う。
瞬間、再び空気が凍りつくような、ザワリとした感触が俺を襲う。
「ヒ、ヒロ君?もしかして……」
「アンタ、この子に……」
「ちょっと、何言い出すんですか!違いますからね」
慌てて否定するが、俺はふと気付く。そのザワザワとした気配が、背後からも感じられることに。
「ひ、緋色さん、いつの間に……」
「はわわわ……」
先ほどまでフォローに回ってくれていたはずの弘美ちゃん達の目が、今は少しばかり怖いんだが……。
「リ、リサリサさん!妙な嘘はつかないでくださいよ」
「え~?アタシは別に、センセーから貰ったなんて言ってないっすよ」
ニヤニヤと笑いながら、リサリサさんは髪飾りをいじっている。いや、これ絶対にワザとやってるだろ。
だが、凍てつくような皆の視線は変わらない。取りあえずこの場の空気を変えようと、俺は必死で考える。
「あ!ほら、稲荷神社が見えてきましたよ」
幸いなことに、既に神社の目と鼻の先に来ていたようだ。少し先には、朱塗りの鳥居の頭が見えている。
「混雑してると大変ですし、早めに参拝したほうがいいでしょうから、急ぎましょうか」
「あ!ちょっとヒロ君、話はまだ……」
背後から聞こえる銀華さんの声を無視し、俺はまるで逃げるように、早足で神社へと向かったのだった。




