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「いや~、えらいすんませんなぁ。なんせうちの人ときたら、早とちりなもんですさかい。六花(ろっか)が随分お世話になったゆうんに。ほれ、あんたもさっさと謝りぃや!」

「ウ……、モ、モウシワケナイ。オレ、ムスメガユウカイサレタト、カンチガイシタ」

「い、いえ、そんなことは気にしてませんから。頭を上げてください」


 その大きな体をちぢこませて頭を下げる大男に声をかけるが、彼は恐縮しきりで平身低頭している。

 

「なんせこの人、こんな図体なうえに口下手やしね。気のいい人なんやけど、初めて会った人はたいてい誤解するんですわ。ご近所さんにも、初めは随分警戒されましてなぁ、ま、イエティやし勘弁したってください。ほれあんた!ちょっと六花抱いといてや」

「ワカッタ、オイデ、ロッカ」


 言われた女の子は、嬉しそうに大男の胸に飛び込んで行く。


「イ、イエティですか!?あの伝説と言われる……」

「へぇ~。さすがにアタシも初めて見たよ」


 イエティとは、雪山に住むといわれる伝説のUMA(みかくにんせいぶつ)である。確かにめったに見ることはない存在ではあろう。

 だが、正直俺は初めて見たイエティよりも、目の前の雪女の母親のインパクトに驚いていた。

 彼女も雪女であることは間違いないようで、純白の着物を纏い、それに負けぬほどの真っ白な肌と光り輝く髪を持った、とても美しい女性だった。

 その儚げで幻想的な美しさは、すれ違えば街行くほとんどの男達が振り向くほどではないかと思う。

 おまけに彼女が娘、六花というらしいが、を抱いている姿は、まるで絵画から抜け出たような美しさと、深い母性を感じさせる。

 そんな彼女が、失礼ながらなぜイエティと夫婦であるのだろうか。二人の姿は、まさに美女と野獣である。

 見ているかぎり、イエティは実直で優しい性格なのだろう。六花ちゃんも、父親の胸の中で無邪気に甘えている。もちろん、他人の趣味にどうこう言うつもりはないのだが……。

 だが、その美しいイメージを全て吹っ飛ばしているのが、その容姿には全くそぐわない、まるで関西のオバ……、いや、賑やかな性格と、マシンガンのような喋りであった。

 

「しっかし助かりましたわ。この人に預けて買いもんしとる間に、六花がおらんようになったいうし、なんや変質者が出たゆうて大騒ぎになっとるんを心配してみれば、この人のことらしいし。やましいことはありませんけど、騒ぎになるのもなんやろ?見ただけで、動物園から逃げ出したゴリラかと思われる人やしなぁ。おかげで気ぃ使ぅて表立って歩き回ることもできんし、苦労しましたわ。まぁ、そもそもうちの人が目ぇ離さんければ……」

「い、いえ、いいんですよ。旦那さんも、ワザと目を離したわけじゃないでしょうし。それよりも……」


 放っとけば、雪女はいつまで喋り続けるかわからない。俺は父親に抱っこされる六花ちゃんに近付く。

 

「ちゃんとお父さんとお母さんにくっついて、もう迷子になるんじゃないよ」


 六花ちゃんは俺の言葉に、コクリとうなずく。

 

「ほら、リルさんもお別れを……」

「ハッ、別にアタシいいよ。成り行きで面倒を見ただけだし」

「そんな……」


 リルさんは、まるで関心がなくなったかのように、そっぽを向いている。だが、不意に六花ちゃんが手をのぼすと、リルさんを掴んだ。


「ねーちゃ、あいがと。だいちゅき」

「なっ……。フ、フン、別に気にすることじゃないさ。さてと、こっちも忙しいんだ。用が済んだんなら、もう行きな」


 強がってはいるが、少しばかり寂しげな表情を見て、雪女たちもリルさんの気持ちを察したのだろう。

 

「また、この子を連れて遊びに来ますさかい。それに、あんたらなら何の心配もいらんて。すぐに賑やかになるわ」

「何の話だい?」

「あんたら若いんやし、えらい仲良さそうやないか。心配せんでも、じゃんじゃん子供こさえたらええんや」

「「なっ!!」」


 リルさんと二人で、思わずハモってしまった。

 

「ななな、何言ってんですか!俺とリルさんはそんなんじゃ……!」

「そ、そうだよ!だいたい、緋色は狗巫女と……」


 しどろもどろの俺たちを見て、雪女は俺たちの関係を理解したのだろう。

 

「なんや、まだ付き合うてへんのか?ま、でもあんたらお似合いやで。あんたのが年上やろ?姉さん女房らしく、しっかりリードしてやればええねん。それに、今日はせっかくのイヴなんやし、これから二人してホテルでしっぽりしてくればええやんか」

「だっ……、だから……」

「スマン、ウチノオクサン、セワヤキババア……」


 後ろでは、イエティが六花ちゃんの耳を塞ぎながら、申し訳なさそうに背中を丸めていた……。

 

「さて、いつまでも二人の子作りの邪魔はできんし、うちらもそろそろ行かなならんしな。なんぞお礼でもと思うたんやけど……」

「い、いいんですよ。そんなことは気にしないでください。こ、子作りはしませんけど……」

「ま、あげられるもんゆうても、なんもないしな……。そや!これはあんまやると怒られるんやけど、今日はイヴやし、軽くならええやろ。あんた、ちょっと手伝ってや」

「ワカッタ」

 

 雪女とイエティは、不意に空を見上げると両手を突き上げた。すると、二人から強烈な妖気が発せられる。

 

「なっ!何を!?」

「心配いらへん。もう少し待ちぃや」


 確かに、妖気は強烈だが、敵意や不穏な気配を感じさせるものではない。しばらく大人しく見ていると……。

 

「え!?」


 上空から、ひらひらと舞いながら何かが落ちてくる。

 

「これは……、雪?え!?結晶のままだ!」

 

 空から舞い落ちてきたのは、純白の雪であった。しかも、それは不思議なことに結晶が目に見える状態で降ってくるのであった。

 それは晴天にも関わらず降り続いているため、日の光を反射してキラキラと光り輝き、辺り一面に宝石が散りばめられたようだった。

 イエティの胸に抱かれたまま、六花ちゃんはキャッキャと笑いながら、無邪気に手を伸ばしている。

 

「綺麗……」


 その幻想的な風景をうっとりと眺めるリルさんの表情は、まさに歳相応の女性のものであり、俺はその横顔に少しばかりドキリとする。

 

「どや?ホワイトクリスマスには一日早いけど、ええムードになるやろ。最近は都会でやりすぎると、交通網がマヒするとか、怪我人が続出するとかでいろいろうるさいねん。せやから、こんくらいしかできひんけどな」

「いえ、じゅうぶんに素敵な贈り物ですよ」

「さよか?本当なら、あんた等がホテルの窓から外を眺めてる時に降らせてやりたいんやけどな。盛り上がって子供なんかすぐできるでぇ」

「い、いや、だからそれは……」

「カサネテスマン……」




 ほどなくして雪は止み、親子は帰って行った。六花ちゃんは姿が見えなくなるまで、こちらに手を振り続けていた。


「やれやれ、うるさいのがいなくなって、やっと静かになったね」


 リルさんは悪態をつくが、少しばかり寂しげな表情からは、それが強がりだとわかる。俺は何も言わずに黙っていた。

 

「さて、あの馬鹿にも報告しなきゃいけないし、帰るんだろ。少しばかり遅くなっちまったし、アタシも狗巫女に収穫なしの報告をしなきゃいけないし。それともなにかい?アイツの言うように、ホテルにでも寄ってくかい?」


 悪戯っぽく笑うリルさんの言葉に、俺は慌てて竹筒を押さえる。こんな町中で、クーコに暴発されてはたまらない。


「フフ、冗談だよ。さて、アタシは帰るよ。あーあ、服が伸びちまったし、ミルクで染みが出来ちまったよ。まったく、ガキの相手なんてロクなことがないね」


 リルさんを見送った後、俺は少しばかりその場で考え込んでいた。

 

「緋色様、いかがなさいましたか?」

「ん?ああ、ちょっと思うことがあってな……」


 俺の足は猫猫飯店へと向かわず、反対方向へと向いていた。




「ただいま戻りました」

「やあ、お帰りヒロ君。聞いたよ、無事に見つかったみたいだね」

「ええ、おかげさまで」

「そんな、僕は何もしてないし、むしろ迷惑をかけたんじゃ……」


 帰る前に肉屋の店主に連絡を頼んでおいたおかげで、すでに銀華さんの元には情報が届いているようだ。

 だが、銀華さんは六花ちゃんの具合が悪くなった時に、何もできなかったことを気にしているのだろう。

 

「仕方ないですよ。あの子が雪女だったなんてわかりませんでしたし。それに、初めに銀華さんが遊んでいてくれたおかげで、随分と助かったんですから」

「そ、そうかい?」


 だが、それも少しの褒め言葉でいつもの調子へと戻る。

 

「そ、それよりもさ、これなんだけど……」


 なぜだか銀華さんは少しばかりモジモジとしながら、背後に置いてあった大きな紙袋を手に取る。

 その綺麗にラッピングされた状態を見れば、いくら俺でもそれが何を意味するものかはわかる。

 

「俺に……、ですか?」

「う、うん。ほら、ヒロ君が着てるのは、秋物に近いやつでしょ?これからもっと寒くなるんだし、風邪でもひいちゃたら……、ね」


 俺は銀華さんの了承を得て、紙袋を開ける。そこに入っていたのは、暖かさそうなフードのついたコートだった。

 

「ありがとうございます。ちょうど買おうかと思ってたんですよ」

「そ、そう?じゃあ、早めに渡しておいて正解だったね」


 嬉しそうに銀華さんは微笑む。その笑顔を見て、俺はちょうどいいタイミングだと思い、ポケットからラッピングされた小さな箱を出す。

 

「え?」

「その、銀華さんのプレゼントみたいに、高価なものじゃないですけど……」

「そ、そんなことないよ!嬉しいさ。開けてみてもいいかい?」

「はい」

 

 銀華さんが箱の中から取り出したのは、小さな花びらがあしらわれたネックレスだった。

 

「可愛い……。これを僕に?」

「そんなに高い物じゃなくて申し訳ありませんけど、日頃お世話になっているお礼をと思いまして」

「そ、そんな!金額なんてどうでもいいのさ。ヒロ君がくれたっていうだけで、僕はもう……」

「銀華さん……」

 

 銀華さんは余程嬉しかったのか、少しばかり目が潤んでいる。そんなに喜んでもらえるとは、俺も少しばかり意外だった。

 銀華さんは俺に向かい一歩近づくと、少しばかり首を上げてこちらを向く。そして、ゆっくりと目を閉じた……。

 

「ヒロ君……」

「あ、そうだ。このあとリルさんの所と、弘美ちゃんにもクリスマスプレゼントをあげてきますんで、少し出かけてきますね」

「は!?」

 

 だが、俺の言葉を聞いた瞬間、閉じた目をカッと見開くと、恐ろしい形相で俺を睨み付けてきた。

 

「ちょっとヒロ君!皆にプレゼントって、どういうことさ!?」

「え?ど、どういうことって……。日頃お世話になってるお礼にって、さっき言いましたよね?」

「え……?あ……。そ、そうだね。お礼ね……」

「リルさんにはイヤリングで、弘美ちゃんにはペンダントです。狗巫女ちゃんにはまだアクセサリーは早いと思うんで、手袋にしました」


 ちなみに、ここでは言えないがクーコの分も買ってある。もっとも、買い物をするところを見られているので、何のサプライズにもならないのだが。


「うん……。皆喜ぶと思うよ。じゃあ、気を付けてね……」


 そして、なぜか急激にテンションの落ちた銀華さんに見送られ、俺は皆にプレゼントを配りに出かけたのだった。

 ちなみに、プレゼントは皆に好評だったのだが、銀華さんの話をした途端、なぜか全員に憐れむような眼で見られたのが、少しばかり不思議だった……。

 

 

~『雪女の贈り物 ダイヤモンドが降る街』編 完~

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