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「さて、もう一度整理しよう。確かに弘美の持ってきたお饅頭は5つだった。そして、この場にいる皆は1つしか食べていない。そうだね?」


 銀華さんは腕組みをして、ソファに座る皆の前に立っている。その様子は先ほどとは違い、随分落ち着いているように見える。

 だが、その口調とは裏腹に、顔はまるで般若のようになっている。よほど饅頭を食べられたことが口惜しいのだろう。


「それは間違いないですよ。だって、人数分をお皿に並べたのは俺ですし」

「ああ、もちろんヒロ君を疑ってるわけじゃあないさ。だが、間違いなくお饅頭は無くなっているんだ。誰かが僕の分まで食べたのは間違いない」

「そ、それはそうなんでしょうけど……」

「だが、犯人は大きな過ちを犯した。それが何か……。ヒロ君なら、当然わかるよね?」

「はい?」


 一瞬、意味がわからずに考え込むが、銀華さんの恨みがましくも自信に満ちた視線が、ある一点に集中しているのに気付く。

 

「ちょ、ちょっと、なに睨んでんのさ。まさかアンタ、アタシを疑ってんじゃないだろうね!?」


 そんなリルさんを無視し、銀華さんは自信たっぷりに言う。

 

「それは、この場には名探偵がいたということさ。つまり、僕にはもう犯人はわかっている!」

 

 そして話は、冒頭へと遡るわけである……。




「なっ、なに考えてんだい馬鹿猫!アタシがそんな意地汚い真似、するわけないだろ!」

「はわわっ……!リルさんも銀華さんも、落ち着いてください。そもそも、リルさんがそんなことするわけ……。も、もちろん私も、1つしか食べてません」

「そ、そうですよ。私達ずっとここにいましたけど、リルさんも狗巫女ちゃんも、もちろん緋色さんも1つずつしか食べてません。あ、もちろん私だって。そもそも私は、食べようと思えば家で食べられますし」

「うむ、そうじゃ。皆仲良く1つずつじゃったぞ」


 確かに、俺が皆に配った時には確かに5つあった。それに、食べている最中はさすがにお喋りはしていなかったし、誰かが余分に食べようとすれば、かなり目立ったはずだ。

 

「いいだろう。あくまでシラを切るつもりだね。だったらいいさ。不思議、怪し、妖怪、幽霊、この世の不可思議困り事、この猫猫飯店店主『銀華』の名にかけて、お饅頭の恨みを晴らすため、万事解決してみせよう」


 銀華さんはキメ顔をして、まったくキマらない私怨が理由だが、キメ台詞で事件解決を宣言したのだった。




「さて、まずは皆の話しから、今回の『事件』を整理しようじゃないか」

「事件って……。ちょっと大げさじゃないですか?」

「う、うるさいなぁ。とにかく、弘美ちゃんがお家から持ってきたのは、確かに5つで間違いないんだね?」

「は、はい。最初の予定は、ここで三人で1つずつ食べて、残りはお二人で明日にでも食べてもらったらって思ったんで、間違いないです」

「それについては間違いありませんよ。銀華さんだって箱を開けて自分の食べる分を決めてたし、その時に皆中身を見てますからね」


 それは間違いないはずだ。全員が中身を見ているし、俺の話にも皆うなずいている。

 

「うん、それは僕も認めよう。では次に、誰かが周りの目を盗んで2つ食べた可能性は?」

「それはないと思いますよ。だって、全員この場から動いてないですし、さすがに誰かが2つ目に手を出せば気付きますよ」

「ふむ。その時の皆の様子は?」

「え?いや、そもそも皆お饅頭に集中していましたから、さすがに全員は見てませんけど……」

「集中していた……ねぇ。要するに、皆下を向いてお饅頭を食べていたということだね?つまり、誰かが素早く2つ目を食べていたとしても、誰も気付かなかったかもしれないと」

「そ、それは……」


 食べ物の恨みがよほど強烈なのか、いつもと打って変わり銀華さんの推理が冴えている。

 だが、俺の中ではそれはない気がしている。よほど腹が減っていたとか、何が何でも食べたかったんならともかく、あの上品な味を知ってなお、一口に飲み込むような真似をする者がいるだろうか?

 現に、俺が見ていたかぎりでは、皆味わうようにゆっくりと食べていた。そのことを銀華さんに伝える。


「う……、で、でも実際に、お饅頭がなくなってるじゃないか!」

「ハッ、お馬鹿さんだね。緋色の言うとおりじゃないか。だいたい、食べ終わったのは皆同じくらいの時間だよ」

「う、うるさい。リルが犯人の最有力候補ってのは、変わらないからね!」

「なんだって!」

「落ち着いてください。とにかく、証拠もないのにリルさんを犯人扱いは良くないですよ」

「だ、だったら、次の整理をしていこうか」


 痛いところを突かれて、少しばかり冷静になったのか、再び銀華さんは次の推理を始める。

 

「じゃあ、次に皆の性格から考えてみよう。まず、可能性の薄い人を見れば、ヒロ君だ」

「俺ですか?確かに食べてはいませんが……」

「普段の嗜好を見るかぎり、ヒロ君が甘いものに固執している様子はない。飲み物に砂糖を入れることはないし、時々僕に自分の分のデザートをくれたりする」

「はわ~。緋色さん優しいです」

「もちろん、これが長期に渡る、壮大な計画の可能性もある。だが、今日弘美がお饅頭を持ってくるのも、ちょうど5人揃うのも偶然だ。だからヒロ君が犯人だというのは考え辛い」

「いや、壮大な計画って……」


 なんだよそれは。俺がたかが甘いものを食べるために、どんだけの策略を巡らせてるんだよとツッコミたくなるが、長引いても面倒だし黙っておく。


「さて、次に弘美だ」

「わ、私ですか?」

「知ってのとおり、弘美は満月庵の跡取り娘だ。家で食べられるものを、わざわざリスクを冒してまで盗み食いをする必要はない」

「そ、そうですよ」

「だが!」


 ホッとした表情の弘美ちゃんだったが、銀華さんの一言でそれは一変する。


「それはあくまで、内情を知らない僕等の考えだ。普通、お金持ちのお嬢様といえば、何不自由なく贅沢をさせてもらってると考える。だが、話を聞くかぎりでは、弘美の両親はかなりしっかりとした教育をしている。お小遣いも少ないし、店の商品をむやみに食べさせていることもないはずだ」

「た、確かに、家のお饅頭を無条件に食べられるのは、ここに遊びに来るっていう時くらいですけど……」

「つまり、普段厳しく育てられている弘美が、好きなだけお饅頭食べたさに……、ということも考えられる」

「そ、そんな!私は……」

「ちょ、ちょっと待ってください銀華さん」


 俺は慌てて割って入る。確かにいい線だと思うが、銀華さんの推理は根本的に無理があるのだ。


「確かに考えられないことはないです。でも、そもそも弘美ちゃんがそんなに饅頭を食べたいなら、わざわざここで危険を冒さずとも、家に来る前にどこか途中で食べてしまえばいいじゃないですか。今日だって、もともとは三人分のつもりだったんですから、2つを食べて、3つにしてから持ってこればいんですから」

「あ……」


 たった今気付いたかのように、銀華さんは気まずそうに弘美ちゃんを見る。


「ま、まあ、そういうことも考えられるってことで……」

「まったく。そんなことで友達を疑わないでくださいよ」

「うう……。ごめん……」

「い、いいんですよ。私は気にしてませんから」


 なぜか、疑われた方が気を使う結果となっている。

 

「ま、まあこれで二人の疑いは晴れたわけだ。さて、次だけど」

「はっ、はわわっ……」


 銀華さんは鋭い目つきで狗巫女ちゃんに向き直る。


「さて、次はクミちゃんになるわけだけど……」


 銀華さんに睨まれ、狗巫女ちゃんからゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。

 

「ま、クミちゃんがそんなことするわけないから、そこは飛ばして……っと」


 『ガタン』


 まるでコントのごとく、ソファーに座った三人がずっこける。

 

「な、なんだいそりゃ!ちゃんと分析して推理するんじゃないのかい!?」

「え?やだなぁ。クミちゃんがそんなことするわけないだろ。一緒に住んでるくせに、そんなこともわかんないのかい?」

「ハッ!そんなのは、アンタよりわかってるに決まってんだろ。はは~ん。なるほどね。この推理は茶番で、初めからどうあってもアタシを犯人に仕立てあげるつもりだね」

「おや?仕立てあげるなんて人聞きの悪い。僕は元々犯人はわかっているし、それを白日の下にさらすだけだよ」


 銀華さんは不敵に笑う。当然、リルさんも黙ってはいない。二人の視線の間に、火花が飛び散る。

 

「ちょ、ちょっと銀華さん。決め付けるのは良くないですよ」

「そ、そうですよ。緋色さんのいうとおり、もう少し落ち着いて……」

「ふふふ、優しい友人を持ってよかったね、リル。だが、もう犯人は君しかいないんだよ」

「ふざけんじゃないよ、証拠はあんのかい?後で土下座して謝っても、許してやらないよ!」

「ふふふ。土下座して謝るのはどっちかな」

 

 もはや二人には、俺達の言葉は届かないようだった。

 

「はわわっ!あ、あの、お饅頭を食べた人なんですけど……」


 なぜか二人の間に、狗巫女ちゃんが慌てて割って入る


「クミちゃん。今さら庇い立てしなくてもいいのさ」

「そうだよ狗巫女。これはアタシと、この馬鹿猫の問題なんだから。アンタは引っ込んでな」

 

 だが、二人の気迫にあっさりと跳ね返される。

 

「いいさ、決着をつけてあげるよ!」

「ハン!臨むところさ!」

「はわ……。あ、あの、お饅頭を食べた人……」


 もはや二人の対決は、誰にも止められぬところまできていたのだった。

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