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 翌週の朝、俺はいつもより早く学校へと向かった。まだ、教師も生徒も誰も学校には来ておらず、守衛さんが到着するのとほぼ同じ時間だ。

 当然守衛さんは訝しがったが、俺は実習のレポートを集中してまとめたいからと適当なことを言って、校内へと入れてもらった。

 気の良いおじいさんで、『うちの孫も、将来アンタの生徒になるかもしれないしな。頑張れよ、未来の先生!』などと言って見送ってくれた。


 俺が最初に向かった先は、摩耶さんの担任するクラス、つまりは、自分がサポートを受け持つ教室だ。

 教室に入った俺は四方を見る。カーテンのあるグラウンド側はともかくとして、入口側は少々骨が折れそうだが、考えたとおり何とかなりそうだ。

 

 俺は持っていたカバンから、小さく折りたたんだ符を取り出すと、まずは窓側のカーテンの裏へ目立たぬように貼り付ける。

 少しばかり申し訳なく思いながらも、近くの机に乗ってカーテンの最上部へと貼り付けたため、簡単に見つかることはないだろう。まあ、土足ではないし、申し訳程度にハンカチで拭いておいたため、その席の生徒には勘弁してもらおう。


「うん、こっちの二箇所は予想通りとして……」


 俺は、廊下側の前後の扉を見る。

 

「こっちは、やっぱり外すしかないか……」


 俺は意を決して、引き戸を持ち上げレールから外す。予想していたことだが、無駄に大きく立派なため、想像以上の重さだった。

 さすがに校長が誇るお嬢様学校というべきなのか、この学校は何から何まで作りが立派なのである。

 だが、気を抜いて倒したりして、ガラスを割ったり扉を破損させてしまったら、それこそ大変だ。


「ふぅ……。クーコがいれば楽なんだけどなぁ」


 汗をかきながら何とか扉を外し、扉の下側へ細く折った符をしっかりと貼り付ける。滑車との隙間があるため、擦れて破れてしまうことはないだろう。

 

「さて、もう一箇所……」


 教室前方の扉を戻し、後方へと向かう。そして、同じように符を貼り付ける。これで、教室の四隅に符を貼れたわけだ。

 

「結構時間がかかったな……。あといくつ出来るんだ?」


 そして俺は、目星を付けた次の教室に向かったのだった。

 

 

 

 結局、学校に人の気配がし出すまでに仕掛け終えたのは、自分のクラスの他は1年生の一クラスと、文芸部の部室だけだった。

 まあ、同時に全ての場所を見られるわけでもないし、様子のおかしい生徒を見かけた場所には仕掛けられた。

 そして俺はここしばらくと同じように教員生活を過ごし、放課後を待ったのだった。




「御門先生!ど、どうでしたか!?」

「ええ、素晴らしいと思います。まるで本物の作家が書いたようでしたよ。特に、犯人が使ったトリックなんかは斬新で……」


 放課後、俺はまず本を返しがてら、文芸部へと向かった。

 

 予想通り、彼女達は自分の書いた小説の感想に夢中で、他の本のことは聞いてこない。

 俺は土日を利用して、取りあえず彼女達の書いた本を徹底的に読み、その他はあらすじを覚える程度にとどめておいた。そうでなければ、とても二日で読める量ではなかったし。

 まあ、誰しも自分の作ったものの感想のほうが気になるだろう。

 

 これだけ効果があれば、銀華さんの冷たい視線を浴びながら、慣れない読書をした甲斐があったというものだ。


 話しながらも四隅の符に気をかけるが、別段何の変化もない。

 

「先生?どうかしたんですか」

「え?ああ、何でもありませんよ。すみません、残念ですけど、そろそろ校内の見回りに行かないと……」

「そうなんですね……。お忙しい先生を引き止めてしまってすみません」

「いえ、いいんですよ!本の話は楽しかったですし。では、僕はこれで」

「あ……、ま、待ってください。それなら……!」


 文芸部を出た俺の両手には、更に大量の本が抱えられていたのだった……。




 その後、もう一箇所仕込んだ一年生のクラスを覗いてみたが、やはり符に変化はない。

 

「やっぱり、実際にコックリさんをしている時でないとダメなのか……?」


 俺が教室の四隅に仕込んだ符、それは妖怪や悪霊に対する簡易結界だった。

 

 簡易というとおり、クーコなどの大物ならば、結界があることすら気付かずに通り過ぎてしまうだろう。それに低俗な動物霊ですら、抜けるのに多少の時間を要するだけで、通り抜けは可能だろう。

 なぜ、そんなさして意味のないものを仕掛けたかといえば、あえて今回の事件の犯人に通り抜けてもらうためだ。もちろん、強固な結界なら一時的に遠ざけることはできるだろうが、根本的な解決にはならない。

 何より、こちら側に強力な何かがいると感付かせ、警戒させるだけだ。

 

 その点、この程度の結界であればこちらの力を見誤り、相手も油断するだろう。


 俺が結界を張るのにクーコを連れてこなかった理由も、クーコの気配が残ることを恐れたからだ。

 気にしすぎかもしれないが、クーコの妖力が残り香のように残って、相手に警戒をさせる可能性もある。

 

 そういった意味で、一人で仕掛ける必要があったのだ。

 

 そしてこの結界は、いわゆる怪を立ち入らせない目的の『結界』としては、一風変わっている。

 最も特徴的なのは、特殊な呪文により、入るのは容易いが、出るのには少々時間がかかるという所である。

 もちろん、大物には全く効果はないが、今回の犯人と目される動物霊程度であれば、一度入れば簡単には抜け出せないはずだ。それに、もしもそのような大物が通ったとすれば、符は簡単に燃え尽きてしまい、どの程度の怪が現れたのかわかる。

 

「まあ、まだ仕掛けた初日だしな」

 

 俺は気を取り直し、自分の担当するクラスへと向かったのだった。




「やっぱり遅すぎたか……」


 俺が教室に着いた時には、すでに部活へ行ったか下校したのか、誰一人教室には残っておらず、ガランとしていた。

 やはり、文芸部で時間を取られすぎたのがマズかったのだろう。

 

 仕掛けた符にも変化はないし、来週に仕切り直しかと思っていた時だった。

 

「あれ?センセー何してるんすか?」

「リサリサさん?」


 声をかけてきたのは、リサリサさんだった。


「なにセンセー、誰かとデートの約束?もしかして、クラスの子に手ぇ出しちゃったとか?」

「そ、そんなわけないでしょ!あまり大人をからかわないでください」

「ふ~ん。オトナ(・・・)ねぇ……」


 なにやら意味深な表情で、リサリサさんは笑う。


「な、何ですか!?」

「ん?別に何でもないっすよ。それよりもセンセー、占いって信じてる?」

「え?」

「知ってる?今うちの学校でコックリさんが流行ってるの。よかったらセンセーもやってみない?」


 リサリサさんの提案に、何かを見透かされているようでドキリとするが、同時にこの上ないチャンスだとも感じた。

 今までは全て、様子のおかしくなった生徒を後から見るだけだったのが、実際にコックリさんをしている現場を間近で見られるのだ。

 

 しかし、危険かもしれない行為に、生徒を巻き込んでいいのだろうか……。

 

 そんな俺の葛藤を、どう捉えたのだろう。


「ん?もしかして怖いんすかぁ?へ~、男の子なのにお化けとか怖いんすね~。フフ、気にしないでいいっすよ。誰だって苦手なものはあるっすから。ま、そ~ゆ~トコがセンセーの可愛いトコっすけどね」

「そ、そんなことはありませんよ!じゃあ、少しだけ……」


 挑発的なリサリサさんの言葉に、結局俺は事件解決以前に、男としてのプライドを守ったのだった……。




「じゃあ、次の質問!」

「ちょ、ちょっと待ってください。これ絶対、リサリサさんが力ずくで動かしてますよね!?」

「え~?そんなことないっすよ。コックリさんの力っすよ」


 いや、絶対に嘘だ。リサリサさんはニヤニヤと笑っているし、さっきからリサリサさんの望む方へとコインは動いている。


 それに、わざと反対の方へと行こうとすれば、コインに乗せた俺の指の上で、リサリサさんの指が俺の指を潰さんばかりに、思いっきり力を込めてくるのだ。

 あまりの痛さに抵抗を止めれば、結局力ずくでリサリサさんの思う答えへと導かれてしまう。

 だが、本当にこれがコックリさんのやり方ならば、実際に何も起きそうな気配はない。

 

「しつも~ん。緋色センセーには、今付き合ってる彼女がいますか?」

「なっ……」


 俺とリサリサさんの指を乗せたコインは、力強く『いいえ』のマスへと移動をする。いや、実際にはリサリサさんの意思なんだろうけど……。

 

「ふ~ん。センセー彼女いないんだ~」

「いや、だからこれはリサリサさんが……。ま、まあ、いませんけど……」

「そっか……、そうなんすね……」


 なぜかリサリサさんは急に真顔になると、つぶやくように言った。


「じゃあ、次の質問!センセーには、今気になってる女の子がいますか?」

「い、いや、そういう意味で気になってる人は……。痛たたたたた!」


 俺の指が潰されんばかりの勢いで、『はい』のマスへと動かされる。

 

「そっか、センセーには気になる女の子がいるんすね」

「だ、だからこれはリサリサさんが……」

「んじゃ、次の質問っす」

「いや、ちょっと!」


 俺の返事を無視し、リサリサさんは次の質問へと移る。

 

「センセーの気になる子は、アタシっすか……?」

「なっ……!そ、そういう冗談は……」


 力強く『はい』のマスへコインを持って行こうとするリサリサさんに抵抗し、俺はコインを必死にその場へ留めていた。

 いくら冗談でも、限度というのものがあるだろう。

 

 しかし……。


「がはっ……!」


 一瞬、何が起きたのか解らなかった。

 

 だが、背中全体に何か硬い物が当たったのは感じられる。その衝撃で呼吸が苦しい。

 

 見上げる先には、教室の白い天井が見えている。

 

 ああ、そうか。俺は転倒して背中を打ち、教室の床に横たわっているのだ。軽く頭も打ったのかもしれない。少しばかりボォッとする。

 

 だが、なぜ……?

 

 少しばかり体が重い。

 

 そうか、リサリサさんが俺の体の上に乗っかっているからだ。どうりで重いわけだ。


 でも、なぜリサリサさんが俺の上に?なぜ俺をを押さえつけているんだ?


 なぜ、そんな熱に冒されたような瞳で俺を見下ろしているんだ?

 

 そもそも、何でこんな体勢になっているんだ?

 

 ああ、そうだ。リサリサさんが突然飛びかかってきて……。

 

 なぜ……。

 

「っ……!リサリサさんっ!?」


 急激に意識が覚醒する。


 俺の体の上には、その細い体の何処から出ているのかという力で俺を押さえ付けて、虚ろな瞳で俺を見下ろす、リサリサさんの姿があったのだった

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