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「いや~。ここはホント天国みたいな所だね。世界で2番目の美女と、世界で2番目に可愛い女の子が揃ってるんだから。家に帰りたくなくなっちまうよ」

「ハン!適当なこと言ってんじゃないよ。早く娘に会いたくて、毎日寄り道もせずにすっ飛んで帰ってるって話じゃないか」

「あ、わかる?いや~。ホント、凛子は毎日見ても飽きなくてね~。そうそう、昨日撮ったばかりの写真があるんだけど、見る?」

「何回見させられたと思ってるのさ。用が済んだんならとっとと帰りな!」

「あ……、私は見たいです。凛子ちゃん可愛いし……」

「おっ、さすが狗巫女嬢ちゃんはわかってるね!んじゃ……」

「狗巫女!こいつを調子に乗せるんじゃないよ。こっちはアンタの依頼の準備で忙しくなるんだ。もう用はないだろ!」

「そう?んじゃリルちゃん、今回の件よろしくね。狗巫女嬢ちゃんも、無理しないようにね」


 いつものごとく軽口を叩きながら、成田さんは帰っていった。仕事を丸投げしているようで一見無責任にも見えるが、でも実は非常に忙しい人だというのはわかっている。


「まったく成田のヤツ、調子いいことばっかり言いやがって。それに、死霊の(たぐい)は専門外だって言ってるのに……。こういう仕事こそ、あの馬鹿猫んトコに持って行きゃいいんだよ」

「リ、リルさん。せっかく成田さんが、お仕事を持ってきてくれたんだし……」

「わかってるよ。なかなかおいしい報酬を出してくれるし、国がらみの依頼だから取りっぱぐれもないしね。まあ単に、アタシはもっと、力で解決できるのが好みなだけさ。でも、金に関しちゃ除霊師の手配やなんかで、結構持ってかれちまうのは痛いけど……。それに、これは馬鹿猫じゃ到底解決できないだろ。ああ、そういや銀華んトコといえば……」


 リルさんは思い出したように、唐突に話題を変えた。


「最近住み込みの助手を雇ったそうだけど、アンタ何か聞いてるかい?」

「その……、詳しくは聞いてないんだけど、人間の男の子を拾ったから、助手として手伝ってもらってるって……」


 リルさんの質問に、つい先日商店街で買い物中に出会った、銀華さんとの会話を伝える。


「ハァ?拾ったって……、犬や猫じゃないんだから。まあ、アイツが拾われたとかなら、まだわかるけどね。しかも人間だって?人間なんて役に立つのかい?それとも何かい、除霊師とか、何か特別な力でもあるのかい?」

「そ、そこまではわかんないけど、一つ年上の、普通の男の子だって言ってた」

「……。そんなの雇ってどうすんだい?」

「わかんないけど……。で、でも家事が上手で、料理もすごくおいしいって言ってた……」

「なんだいそりゃ?お手伝いさんかい……。ま、あの馬鹿らしいか……。しかし、人間とはいえ、若い男と一緒に暮らすなんて……。大丈夫なのかね」


 リルさんの言葉に、私はちょっぴり笑いそうになってしまった。あれだけ憎まれ口を叩きながら、実は銀華さんの心配をしている、そんなリルさんに。

 でも、私は銀華さんはおっちょこちょいなようでも、人を見る目はしっかりしていると思っている。

 その銀華さんが信用して雇っているのなら、きっと心配することはないだろう。


 銀華さんとの出会いは、半年くらい前だったろうか。誰も入っている人がいなくて、いつ壊されるんだろうと思っていた向かいのビルに、突如として入居者が来たのだ。

 そのビルに掲げられた看板は、『猫猫飯店』。

 その看板を見て私は、中華料理屋さんが出来たのかと思った。ラーメンがおいしいといいなあと思いながら。


「あんな薄汚いビルに入る店なんか、ろくなもんじゃないよ」


 もっともリルさんは、そう言って近付こうともしなかったが。

 でも、そんな思いは、依頼に来たついでに聞いた、成田さんの話で消し飛んでしまった。

 なぜならそこはお料理屋さんなどではなく、私達の商売敵となる、探偵事務所だというのだ。

 しかも探偵をしているのは、私よりほんの少し年上の猫又の女の子だという。

 成田さんによれば、可愛いとか、明るくていい子だとか、凛子も成長したらあんな感じの子になってほしいとか、人柄や容姿に関することばかりで、猫又さんの仕事ぶりに関する話は、何一つ聞けなかったのだが……。

 結局、私と違って明るくて可愛いということくらいしかわからなかった。だけど成田さんの、 


「妙に運のいい子だね」


 という、よくわからない感想だけは印象的だった。

 今にして思えば、成田さんはあえて仕事の話を避けることで、私たちが仲良くできるように気を使ったのではないかと思う。軽薄そうに見えて、とても気を使う人だし、ここに来るときは必ず手土産にお菓子を持ってきてくれる。

 そしてそれを聞いたリルさんは、さっそく向かいのビルへ威嚇……、じゃない、偵察に向かったのだったが……。

 しかし、いったい何がそんなに気に食わなかったのか、二人は顔を合わせた途端に喧嘩を始めたのだった。私に対してはすごく優しかったのに、リルさんに対しては、いったいどういうことなのだろう。お互いに、どうにもそりが合わないというやつなのだろうか。

 今でも、お互いに顔を合わせた時もそうでない時も、ひたすらにお互いの悪口を言い合っている。

 でも、そんな態度とは裏腹に、意外と仲が良いと私は思っている。喧嘩するほど何とやらというやつだ。

 ただ、放っておくとひたすらにエスカレートし続けるので、どこかで止める必要があるのだが……。


「まあ、そんなことはどうでもいいさ。それよりも、除霊師に渡りをつけるから少し待ってな」


 そう言うとリルさんは、なじみの除霊師さんに電話をかけに行った。

 

 今回成田さんから持ち込まれた依頼は、霊の仕業と思われる現象の解決だった。 それは今から二ヶ月くらい前、ここからそれほど離れていないビルの屋上から、飛び降りて亡くなった男の人がいたらしい。

 銀華さんの所のビルの屋上からなら、運が良ければ骨折くらいで済んだかもしれない。けど残念ながら、周りのビルにはそんな高さの所は一つも無い。男の人は即死だったそうだ。 

 事件性もなく、仕事や人間関係に悩んでの自殺ということだった。

 飛び降りた場所も薄暗いビルの裏手の隙間で、人が寄り付く所でもなく、初めはひっそりと花が供えられていたりもしたが、いつしかそれも枯れてそのままになっていたという。

 しかし、一週間ほど経った頃から、妙な事が起こり始めたのだという。

 その出来事を知らないサラリーマンが、仕事をさぼってそこへ煙草を吸いに行った際に、奇妙な黒い人影を見たとか、ちょうどその場所に面したビルの窓越しに、こちらを見ている赤い目を見たとか、そこからブツブツと呟くような声が聞こえてきたとかである。

 さすがに気味が悪くなったのか、亡くなった男性が勤めていた会社は、僧侶に依頼してその場での供養をしたらしい。

 でも、問題は収まらなかった。それどころか、事態は悪い方へ進み始めた。

 ある日、深夜まで残業していた人が帰り道で、その隙間からこちらに来て欲しいと声をかけられたというのだ。

 そうした出来事が何度か続いたかと思ったら、今度はそこを通りがかった人が、突然何かに袖を引かれ、そちらへ引きずりこまれそうになったというのだ。

 たちの悪い悪戯か、それとも変質者の仕業かと警察も捜査に乗り出したが、少なくとも僧侶が供養に訪れて以来、一カ月以上もの間、そこへ人が入り込んだ形跡は無かったのだった。


 そうした事情もあり、この件は警視庁『特犯課』へと、話が持ち込まれた。

 そして、特犯課の出した結論は早かった。


『状況から見て、悪霊化している可能性がある』


 本当にそうであれば、早急に対処しなければ犠牲者が出る可能性がある。そうして、成田さんを通じ黒狼探偵社へと依頼が持ち込まれたのである。


「まったくアイツは、肝心な時に……」


 少しして電話を終えたリルさんが、何やら渋い顔をして戻って来た。そして私の顔を見て、言いたいことを察したのか、


「ああ、いつもの除霊師なんだけど、知り合いからの依頼で今海外に行ってるらしいんだよ。まったく……」


 リルさんはブツブツと文句を言っているが、向こうにも都合があるのだし、仕方ないだろう。


「しょうがないね。とりあえずアタシは他に頼めそうなのを当たってみるから、アンタは霊の状態を確認してきておくれ。程度によって頼むやつを決めるから」

「う、うん。わかった……」

「でもいいかい?アンタの役目はあくまで状況確認だけだからね。相手が……」


 結局出かけるまで、何回その注意を聞いただろう。


「うん、わかってる。私は怖がりだから……」


 その度に私は、同じ返事をしたと思う。


 怖がりの私が、それ以上のことをするわけがないよ。その時は、そんな風に思っていたのだけれど……。

 そうして私は、心配そうなリルさんの言葉を背中に聞きながら、運命の場所へと向かったのだった。

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