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「う……、リルさん……。だ、大丈夫ですか」

「ああ……。何とか……ね。うぷっ……、この鼠共が、口の中に入ろうとするんじゃないよ!」

「リルさん!?」


 俺はリルさんにのしかかる鼠の山に向かい、右手の呪符を飛ばそうとする。しかし、右手は重くピクリとも動けない。


「くっ……」


 何とか首を動かし自分の体を見れば、俺自身も大量の鼠にのしかかられ、身動きが取れない。そのうえ左の手足には激痛が走っており、折れている可能性が高い。


「クーコッ!」


 叫んでみるが、何の反応もない。


「クーコッ、どうした!?」


 ガタガタいう音に首を回して見れば、地面に竹筒が落ち、その中に鼠が前足を突っ込んでいる。竹筒はブルブルと震えるだけで、クーコが出てくる気配はない。

 偶然に突っ込んでしまったのか、鼠は引き抜こうともがいているが、竹筒から手が抜ける様子はない。


「しまった。出口を……」


 基本的に、クーコは封印された竹筒の中では何も出来ない。ましてや、ああして出口を塞がれてしまっては成すすべがない。


「よすがいい、無駄なあがきはせぬものじゃ。御仏の教えのもとに、潔く浄土へと旅立つが良い」


 ふいに、しわがれた声が聞こえた。 

 声のするほうに首を動かしてみれば、そこに立つのは随分と小柄な、僧形の男であった。

 だが、よく見れば何かがおかしい。背丈は随分と小さいし、飛び出た鼻も人の顔のようで、人のものではない。背も四足動物のようにこんもりと丸まり、法衣から伸びた手足は毛むくじゃらで、鋭い爪が伸びている。


「お前は……、そうか、『鉄鼠(てっそ)』か!」


 『鉄鼠』、かつての阿闍梨(あじゃり)が、時の権力者に約束を反故にされ、強い恨みで怨霊に成り果てたモノである。


「なるほど、お前が旧鼠を操っていたわけか……。だが、なぜこんなことを?」

「知れたことよ。儂がどれだけ主上(おかみ)に尽くしてきたか。皇子の誕生とて、儂の尽力の賜物じゃ。それを、あ奴らはその恩も忘れ、あんな邪教徒どもを……!じゃが、奴らのことはもうよい。今はこの前の犬神や、そこな狼娘のようなモノが大手を振って歩ける時代。なれば、今こそ宿願を果たす時。儂の力でこの国を支配し、御仏の教えを広めるのじゃ」

「なるほど……。しかしなぜ、人間や怪を襲って食うような真似をする」

「フン、人間や怪の肉は格別じゃ。そこらの野良猫共とはわけが違う。それに、力のある人間や怪なら、食うほどに儂の力も強くなっていく。まさに一石二鳥というわけじゃ」


 そう言って薄く笑うと、鉄鼠は動けない俺の頭上に近付いてきた。


「ふむ、儂を見ても驚きもせぬとは……。見たところ、お主も何やら特別な力があるようじゃな。おおかた儂等を狩って食い扶持を得る、拝み屋の類か。それに、近頃はそ奴のように人間の真似事をして正義面をする怪もおる。少し餌を撒いてやれば、そんな奴らを誘い出すなど容易いことじゃしの」

「アタシのどこが正義面だって!?だいたい、そんないつの時代の事かわからないようなことを、いつまでもネチネチと。フン、女子供を罠にはめないと勝てないような奴等が笑わせるね。そんなんだから、主上とやらに愛想を尽かされたんじゃないのかい?」


 怒りに任せリルさんはもがくが、鼠の山は崩れることはない。


「なかなかに威勢のよい小娘じゃ。じゃが、お主は現実に罠にはまったのじゃ。もはやどうすることも出来ん。ありがたく儂等に食われ、御仏の礎になるがよい」


 鉄鼠は、ゆっくりとリルさんへと近付いて行く。


「ギイッ!」


 その時、怪我をした旧鼠が一鳴きした。


「何じゃ?おお、そうか、口惜しいのか。ならば仕方ないか。この娘はお主にくれてやろう。存分になぶり殺すがよい。この怪の血肉を食らえば、その体もすぐに治るじゃろう」

「ギッ」


 鉄鼠は足を引き摺りながら、リルさんへと向かって歩いて行く。その表情はまるで、これから起こる事を想像し、心待ちにしているかのようだった。


「まさか、こいつら知能が……」

「ほう、わかるか。その山には小物ではあるが、いくつかの怪の死骸もある。それを食らって、こ奴らも成長しておるのじゃ。いずれは、人間を超える知恵と力を持つこ奴らが大量に増えて、儂の手足となるのじゃ。その意味では、この前の犬神を逃がしたのは惜しかったがの。あれを食えば、随分と力が得られたはず。しかし、あ奴が餌になって、倍の得物が釣れたわ」


 リルさんを旧鼠にくれてやるつもりになったことで、鉄鼠は再び俺に近寄ってくる。


「さて、無駄話は終りじゃ。御仏の礎になれる喜びを感じながら食われるがよい」


 そう言うと鉄鼠は、鼠の群れに向かい一鳴きした。


「ぐあぁぁっ!」

「緋色っ!?」


 その声に応じて、俺の体に乗っていた鼠達が一斉に俺の手足に噛み付く。だが、振り払おうにも重みで体が動かない。


「フフ、動けなくなったところで、ゆっくりとはらわた(・・・・)から食ろうてやるわ」


 さすがに絶体絶命の状況を理解した俺は、必死になってもがく。だが、大量の重しとなった鼠の山から抜け出せる気配はない。


「クーコ……、クーコッ!!」


 懸命にクーコを呼ぶが、竹筒は鼠に封じられたままだ。


「くっ、これまでか……」


 俺は死を覚悟した。だが、せめてリルさんだけでも……。


「ヴゥナアァァァァァァァァァァァァァァァァゴッ!!」


 しかし、その時だった。下水道のコンクリート壁を伝わり、地の底から響くような声が聞こえてきたのだった。途端、鼠達の動きがピタリと止まる。


「ば、化け猫!?い、いや、こ、こ、この声はまさか、金華猫……!?」


 声を聞き、突如として鉄鼠は怯え出した。主の動揺が伝わったのか、俺とリルさんの上に乗っていた鼠達も、半分以上が逃げ出している。


「リルさんっ!!」


 俺はこの隙を逃さなかった。右腕の鼠を振り払うと、リルさんに向かい呪符を飛ばす。

 リルさんも俺の意図を汲んでくれたのだろう。避けることなく、それを体で受け止める。

 そして次の瞬間、リルさんの体が燃え上がった。


「ギィーッ!」


 リルさんに群がっていた鼠たちが、次々と燃え上がって行く。そして、炎と共に崩れ落ちた鼠の山から現れたのは、全身が紅蓮の炎に包まれた巨大な狼だった。

 狼の全身は炎に包まれているが、決して自身は燃えているわけではなく、全身に炎の毛皮を纏ったようになっている。

 狼は怯えて立ち竦む旧鼠に目をやると、一瞬の動きで腹に噛み付いた。


「ギィーッ!!」


 炎に包まれ断末魔の悲鳴をあげる旧鼠だったが、狼が力を込めると、ブチッという音とともに腹から真っ二つになり、やがて動かなくなった。

 その間に俺は、竹筒に手を突っ込んでいた鼠に呪符を飛ばし吹っ飛ばす。すでに俺に群がっていた鼠は逃げ去り、一匹たりとも残っていない。

 そして紅蓮の衣を纏った狼、リルさんはゆっくりと鉄鼠に近付いていく。


「よ、よさぬか!く、来るでない!」


 鉄鼠は大きく口を開けると、そこから大量の鼠を吐き出した。はたして何千匹いるのか、数え切れないほどの鼠がリルさんに襲い掛かる。だが、近付いた端から、ことごとく肉の焼ける臭いを漂わせて燃えていく。


「きゅ、旧鼠よ、儂を助けろ!儂を守れ」

「無駄だ、こいつはもう役には立たぬ」

「何じゃと!?なっ……!」


 突然聞こえた第三者の声に振り返った鉄鼠は、そこに見たものが信じられぬようだった。

 そこには、このような場所は不釣合いなほど美しい、小紋の着物を着た真っ白な少女が立っていた。

 だが、鉄鼠が驚いたのはそんなことではなかった。

 その少女は、残っていた旧鼠の首根っこを片手で捕まえ、軽々と持ち上げていたのだった。

 少女の身長とさほど変わらぬ大きさからすれば、旧鼠の体重は人間の大人ほどはあるだろう。

 だが、バタバタと暴れる旧鼠を片手で持ち上げているというのに、少女は微動だにしない。


「な、何じゃ?お主は……」

「愚か者が、我との力の差すら感じ取れぬとは。そんなことより、緋色様にこれだけのことをしたのだ。八つ裂き程度で済むと思うなよ。手足……、いや、その前に指を一本ずつ引き抜いてやろう。その後に手足で、最後は首だ」


 そう言うと少女は、旧鼠を掴む腕にわずかに力を入れたように見えた。


「グギーッ!」


 ボキリという音と共に、首がありえない角度に曲がる。そして口から血の泡を吐きながら、旧鼠は動かなくなった。

 少女は旧鼠を軽く放り投げた……かのように見えた。だが、どれほどの力で投げられたのか、壁に激突した旧鼠はベシャリと言う音と共に、風船のように弾け肉片となった。そしてそれに目もくれることなく、少女はゆっくりと鉄鼠に近付いて行く。


「ひっ……、ま、待て、お主も人ではないのだろう?ならば、人間など滅ぼし、ともに我らの極楽浄土を作り上げようではないか」

「つくづく愚かな。我が信じるのは緋色様のみだ」


 少女はゆっくりと鉄鼠に向かい手を伸ばす。だが、少女と鉄鼠の前に、燃え盛る狼が割って入った。


「何のつもりだ、狼よ。我は気が立っている。さっさとどかぬか」


 少女は真紅の瞳で狼を睨みつける。だが、狼は引く気配を見せない。


「いいんだクーコ。後は、リルさんの好きなようにさせてあげてくれ」

「しっ、しかし緋色様……!」

「お前が心配してくれたのは、ちゃんとわかってるよ。でも、今回は狗巫女ちゃんの敵討ちなんだ」

「はっ、わかりました」


 不承不承ではあるが、クーコは後ろに下がった。リルさんは、低い唸り声をあげて鉄鼠を見据えている。


「わ、儂の悲願が……。御仏の教えが……」

「ははは、無理ですね。あなたの望みは所詮、自らの宗派を発展させるためだけのもの。権力に対する欲望と執着に過ぎませんよ。だからこそあなたの望みも、時の天皇に認められなかったのではありませんか?」

「だ、黙れ!あれは奴らが……。あの邪教徒共の言葉に、主上が騙されたのだ!」

「まあ、どちらにしてもおしまいですよ。ねえ、リルさん?」


 俺の言葉を受けて、リルさんは大きく吼えた。それは周りのコンクリートでさえも振動させるほどの、凄まじいものだった。


「ひっ、ひいぃぃぃぃぃ!やめろぉぉぉ!」


 鉄鼠は絶叫するが、それは長くは続かなかった。一瞬のうちに飛び掛ってきたリルさんに喉元を噛み付かれ、次の瞬間には首をへし折られていたからだ。

 リルさんは息絶えた鉄鼠を放り投げる。そしてそのまま燃え移った炎が、鉄鼠の体を燃やしていった。

 鉄鼠の体が燃え尽きた後、それを見届けたかのように、リルさんの体の炎が消える。後に現れたのは、火傷一つない漆黒の狼だった。


「終わりましたね」


 俺の言葉と共に、狼が人の姿へと変わって行く。そしてそこに現れたのは、褐色の肌を持つ、全裸の美しい女性だった。


「やれやれ、アタシには無害な炎だってのはわかってたからいいんだけど、せめて服を脱いでから変身したかったんだけどねぇ。おかげで服はオシャカだし、レディの裸を見た責任は取ってくれるのかい?緋色」

「い、いや。だってあの状況じゃ仕方なく……」


 俺は慌てて目を逸らす。


「アハハ、冗談だよ。それよりアンタ、動けるのかい?」

「はあ、まあどうにか……、ぐっ!」


 力を入れてみるが、左の手足に激痛が走る。


「ちょっと、折れてるんじゃないのかい、酷い腫れだよ?まったく、無茶すんじゃないよ!」


 そう言うとリルさんは、俺の左側に回り自分の体を支えに俺を起こした。


「ちょ、リルさん!?」


 状況的に仕方ないとはいえ、リルさんは全裸だ。体中に柔らかい感触が当たり、骨折の痛みを忘れそうになる。

 とはいえ、こんな状況でここを出たら、銀華さんに何を言われるかわかったものではない。


「おっ、狼!緋色様から離れぬか。緋色様は我が運ぶ!」

「おや、いいのかい?アンタが緋色を連れてったら、表で待つ銀華にどう説明するんだい?」

「うぐっ……。そ、そのようなことはどうとでもなる!」

「お、おい、落ち着けクーコ。たぶん、どうにもならないぞ」


 俺は興奮するクーコを止める。


「大丈夫だ。リルさんには俺の上着を着てもらうから。それにこの状況を見れば、銀華さんもわかってくれるだろう」


 結局、リルさんは俺の上着を羽織っていくことになった。それでも、露出が多いことには変わりないのだが……。

 帰りの道中では、クーコが何度も、


「いいか、決して緋色様の体に触れるでないぞ!お、おい、今胸が当たったのではないか?き、貴様、わざとではあるまいな!?」


 無茶な注文を繰り返していた。


「クーコ……、大丈夫だから。とりあえず戻ってくれるか?」

「し、しかし……。くっ……、わかりました。緋色様が大きい胸がお好きということなら……。」

「おっ、おい、何勘違いしてんだ!?違うからな!」

「フフッ、いかに空狐といえど、そこに関しちゃ銀華と変わらないしね」

「くっ、食い殺す……!」

「おっ、おい止せ!」


 クーコは渋々ながら竹筒の中に戻って行った。そして俺は、リルさんに支えられながらゆっくりと出口へと歩いて行く。

 しかし、長身のリルさんといえど、男の俺を運ぶのはキツイのだろう。おまけに鉄鼠との戦いで消耗しているはずだ。俺の顔のすぐ横からは、リルさんの少しばかり荒い息遣いが聞こえてくる。

 それに俺の上着を着ているとはいえ、いろいろと隠し切れない部分から柔らかい感触が伝わってきて、妙な気分になる。

 しかも、上着の届かない下半身は尻尾を使って器用に隠しているのが、余計に扇情的になっている。


「しかし、今回ばかりはさすがに危なかったですね。でも、あの鳴き声はいったい何だったんでしょうか」


 俺は雑念を振り払おうと、わざと色気のない話をする。


「ハッ、そんな白々しいことを言わなくてもいいさ。この状況じゃ、銀華以外にないってわかってんだろ?それに、緋色だって気付いてるはずだよ。アイツの何か得体の知れない部分を」

「…………。じゃあ、狗巫女ちゃんは銀華さんの何かを知っていて……?」

「いや、それはないだろうね。でも、あの子だって犬神だ。何かは感じているはずだよ。まあ、単に鼠には猫って思っただけかもしれないけどね」


 あの時、地の底から響くような声に感じた気配は、確かに銀華さんに初めて会った時のものだった。言い知れぬ不安に襲われかけたが、


「でも、アイツが何であろうが、アタシにとっては馬鹿猫に変わりはないよ。今まで見てきた姿が変わるわけじゃない。アンタだってそうなんじゃないのかい?」


 リルさんの言葉に、俺ははたと気付かされた。そうだ、銀華さんが何者であろうと、俺の信頼は変わらないし、あの時手を差し伸べてくれた優しさは本物だった。

 それと同時に、唐突に銀華さんとリルさんの関係を理解した。

 この二人は、お互いに自分の持っていないものを持つ相手に対し、理想や嫉妬など、複雑に入り混じった感情を持っているのだろう。

 銀華さんはリルさんに対し、年齢以上に大人びた立ち居振る舞いや、女性として完璧な外見への『憧れ』を。

 一方で必要以上に大人に成らざるを得なかったリルさんは、子供のように無邪気に振舞い、皆から可愛がられる銀華さんへの『羨望』を。

 もしかしたらあの言い争いを通じ、お互いが一つになるような感覚になっているのではないかと、そんな風に思う。

 だが、お互いにそんなことは絶対に認めぬだろうし、聞くのも野暮だろう。

 俺は、ごくありふれた言葉を口にする。


「『友達』っていいもんですよね」

「はぁ?何だいそりゃ。アタシがあの馬鹿と?冗談はよしておくれよ」


 リルさんは、心底嫌そうな顔をする。


「しかし、つくづく惜しいね。銀華の所に居たんじゃ、アンタも存分に力を発揮できないだろ。本当にアタシの所に来る気はないのかい?」

「ありがたいお誘いですけど……。俺は猫猫飯店店主、銀華さんの助手ですから」

「ハッ。まったく、アレのどこがいいのか……。ま、無理にとは言わないよ。アタシもまだ、狗巫女と喧嘩したくはないしね」

「狗巫女ちゃんと?どうして俺が黒狼探偵社に入ったら、二人が喧嘩になるんですか?」

「ハハハ、まあ、そのうちわかるんじゃないかい。さて、ようやくこの臭いともおさらばだね」


 リルさんの言葉に顔を上げると、前方に外の光が見える。どうやら下水道の出口に辿り着いたようだ。




「ヒッ、ヒロ君!?大丈夫なのかい。それにリルのその格好……。いったい、何があったのさ!?」

「ちょっとばかり怪我をしましたけど、俺は大丈夫ですよ。リルさんに助けてもらいましたしね」


 俺は、かいつまんで中での出来事を説明する。もちろん、大幅に省かせてもらった部分もあったのだが……。


「う……、僕が行かなかったせいで、ヒロ君にそんな酷い怪我を……」

「い、いや、違いますって。あれは鉄鼠にしてやられたんですよ。それに、リルさんの活躍で無事でしたし。それよりも、あの時の鳴き声って……」


 珍しくしょげ返る銀華さんを見て、俺は慌てて話を変える。


「ん?あれかい?確かに僕の声だけど……。出発前にクミちゃんに言われたんだ」

「狗巫女ちゃんに?」


 話によれば、病室を出る前に呼び止められた銀華さんは、狗巫女ちゃんから頼まれたのだという。出口で待機し、何か嫌な予感がしたら、ためらわずに思いっきり鳴いてくれと。


「でも、狗巫女ちゃんは何でそんなことを?」

「う~ん、わかんないけど、鼠には猫って思ったんじゃない?」


 銀華さんはリルさんと同じ答えを返してきた。やはりこの二人は似たもの同士なのだろう。

 隣では、リルさんが苦い顔をしているが。

 おそらくは、旧鼠達の動きに何か嫌なものを感じた狗巫女ちゃんは、銀華さんの感の良さと、秘めた『何か』に賭けたのだろう。

 それに、そのおかげで無事だったのだ。これ以上の詮索は必要ないだろう。


「今回は3:7にしといてやるよ」

「え?」

「だから、何度も言わせるんじゃないよ!」


 不意にリルさんが口を開いたかと思うと、報酬の変更を口にした。


「で、でも、狗巫女ちゃんの入院費は……」

「ハン!黒狼探偵社を舐めるんじゃないよ。アンタんトコの何倍の仕事を請け負ってると思ってるんだい。金の余裕ならあるさ」

「リルさん……」


 おそらくリルさんは、自分の油断から俺に重症を負わせてしまったことに、責任を感じているのだろう。それに、この怪我では入院は避けられないだろうし。


「ふふん。やっとわかったかい?切り札たる僕の偉大さが」


 そんなリルさんの気遣いを知ってか知らずか、銀華さんは能天気にはしゃいでいる。


「さて、そんなことより、いつまで緋色をこのままにしておく気だい?アタシらと違って、緋色は普通の人間なんだよ。さっさと病院に連れてくよ!」

「そ、そうだ。急がなきゃ。……って、いつまでそんな裸みたいな格好で、ヒロ君にくっついてんのさ!僕が運ぶから、いい加減に離れなよ!」

「あんたみたいなおチビさんが運べるのかい?それに、どうせくっつくなら、緋色もアタシみたいなグラマラスな女のほうがいいってさ。最初に素っ裸でくっついてあげたら、まんざらでもない様子だったよ」

「ぐっ……。そんなことはないさ。そりゃあ、ヒロ君はちょっとエッチかも知れないけど……」

「ちょっと、何てこと言うんですか!」

「う……。と、とにかく、いいから離れなよ!」

「痛っ……。何すんのさ!」

「ちょっ……、痛っ!痛い痛い、やめてください!どっちでもいいですから、お願いですからそっと運んでください!」


 まったく、お互いに元気になったと思ったら……。

 いつもの日常が戻って来たことにホッとしつつ、俺は二人に支えられながら車に乗り込んだ。今から向かう先が、『我が家』ではなく病院であることを少し残念に思いながら。



~ 『黒き狼と灰色の犬。そして銀の猫』編 完 ~

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