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「まったく。何で僕が見張り役なのさ!」

「まあまあ。狗巫女ちゃんの、たってのお願いなんですから。わざわざ銀華さんだけ呼び止めて何か伝えたってことは、何か重要な役割があるってことですよね?」

「う~ん……。まあそうなんだけど、正直よくわからないんだよね」


 病室を出る直前、狗巫女ちゃんはなぜか銀華さんだけを呼び止めた。そこで何やら秘策を伝えられたらしいが、銀華さんもそれが何を意味するのか、よくわかっていないようだった。


「それに、下水道ですよ。そんなに銀華さんが入りたいって言うんなら、止めはしませんけど」

「うっ……。ま、まあ、僕は切り札ってトコらしいからね。ボスはどっしりと構えて待つもんだし。(ゆう)ちゃんだってそうだったからね」


 さすがの銀華さんも、下水道内に入るのは躊躇するようだ。颯爽と活躍する自分の姿と、下水道内を彷徨う自分の姿を想像して葛藤していたようだったが、後者への抵抗感が勝ったらしい。

 せめてもの慰めとして、お気に入りドラマの俳優と自分を重ねている。


「ハン!緋色はアタシが守ってやるから、心配しなくてもいいさ。さて、それよりもだ。現実的な話をしようか。報酬の話だよ。後で揉めないようにね」


 リルさんが運転席から俺達に声をかける。


 俺達は、リルさんの運転する車で現場へと向かっていた。小型だがお洒落なヨーロッパ産のそれは、リルさんにとてもよく似合っている。

 それに、免許を取ってからそれほど経っていないと言う割には、運転は非常にスムーズである。そのことを伝えると、


「ああ、運転は14歳の頃からしてたからね」

「は!?」


 耳を疑う言葉が返ってきた。ああ、なるほど。『生物平等基本法』では、怪は14歳から運転ができるのかと、俺は現実逃避をしてスルーすることにしたが……。


「で、報酬だけど、8:2……と言いたいとこだけど、おまけで7:3にしといてあげるよ」

「ちょっ……、何だいそれは!?うちが3割?依頼に来ておいてそれはないだろ。3:7の間違いじゃないのかい?」

「ハッ!何言ってんのさ。元の依頼を受けたのはアタシだよ。7:3でも出し過ぎなくらいさ」

「何だい!だいたいそっちがが役立たずだったから、こんなことになったんだろ」

「誰が役立たずだって!?」

「ちょっと、落ち着いてください二人とも。リルさんも、前を見て運転してください!」


 ついには、後部座席に振り向いて口論を始めたリルさんを慌てて止める。このままでは旧鼠退治の前に、自動車事故で病院送りになりかねない。


「銀華さん、今回はリルさんの言うとおり、7:3で行きましょう」

「なっ、ヒロ君はこいつの肩を持つのかい!?」

「ハン、当然だろ。緋色はどっちが正しいかわかってるんだよ」

「ぐっ……。ヒロ君の裏切り者!」

「ち、違いますって……」


 俺は銀華さんを何とかなだめる。


「そもそも、リルさんがお金にこだわってるのは、狗巫女ちゃんの入院費の工面があるからじゃないんですか?」

「…………」


 急に静かになってしまった所を見ると、どうやら図星のようだ。


「うっ……。そういうことなら仕方ないか……。でも、今回のことは貸しにしとくからね!」


 狗巫女ちゃんというキーワードに、銀華さんも折れたようだ。彼女を妹のように可愛がっていることもあり、何だかんだと銀華さんもお人よしである。

 ただ、可愛がっているといっても、銀華さんが面倒をみているのか、それともみられているのかは微妙なところだが。


「まあ、金の話はこれで決着だね。さて、着いたよ」


 道路脇に車を停め、少しばかり歩いた所にその入り口はあった。


「へえ。もっと真っ暗で狭い所を想像してたんだけど……」

「今じゃこういう所も、近代化が進んでるみたいですしね」

「どっちだっていいさ。最初の予定通り、アタシと緋色が中に入るよ」

「ヒロ君、気をつけてね」

「心配ないさ。しばらくすれば、言葉どおりクサい仲になって出てくるよ。全身下水の臭いでね。さて、地下でのデートと洒落込もうか。行くよ、緋色!」


 そして俺達は、入り口に銀華さんを残し、中へと進んで行ったのだった。


 


「さて、どうします?しらみつぶしに横穴を探していくのも大変でしょうし、クーコに先行してもらいましょうか?」

「なに、どうせ向こうはこっちの様子を伺ってるんだろうし、正々堂々と正面から行けばいいさ。それに、何を言ったのか知らないけど、狗巫女のおかげで銀華をうまいこと留守番に回せたしね」

「ん?てことは、あれはリルさんの差し金じゃないんですか?」

「いいや。そもそも旧鼠ごとき、アタシ一人でじゅうぶんだったし、アンタんとこに頼むって言い張ったのは狗巫女だしね」

「へえ、そうだったんですね。きっと狗巫女ちゃんも、リルさんに万が一のことがあったらって、心配したんでしょうね」

「まったくあの子は……。でも、おかげでとんでもない戦力がそろったしね。しかし……」


 言いながら、リルさんは俺の胸元をチラリと見る。


「緋色も、よくそんなバケモ……、神仙を式神になんかしたもんだね。まったく、こればっかりはアンタの神経を疑うよ。実際に出来ちまったことも凄いけど、そもそも式神にしようと考えたこと自体がイカレてるよ」

「はぁ、まあ俺も幼くて、クーコのこともよく知らなかった頃のことですし……。とにかく強い式を……って」

「だからって……」


 その時、竹筒の中から低い声が聞こえてきた。


「おい、狼。緋色様に失礼な口は許さぬぞ。そもそも我が緋色様に仕えるのは、唯一我を負かした人間というだけではない。実力、人徳、その他において素晴らしき主と認めたからだ」

「ああ。別に悪い意味じゃないさ。その辺に関しちゃあアタシだって認めてるよ。うちに欲しいくらいにね。でも、アンタが緋色に仕えてる理由は、本当にそれだけかい?」

「……。どういう意味だ?」


 なぜかリルさんは、少しばかり悪戯っぽく笑った。


「なぁに、それにしちゃあ緋色の前に出る時は、随分と可愛らしい格好で出てくると思ってね。まあ、緋色はなかなかの男前だし、優しいし、いざって時は頼りになるからねぇ」

「きっ、貴様!な、何が言いたいのだ!?」

「おやぁ、図星かい?」

「きっ、貴様……。食い殺すぞ!」

「おっ、おい、どうしたんだ?落ち着けクーコ。こんな所で騒いだらさすがにマズイだろ」

「もっ、申し訳ございません」

「心配しなくてもいいさ。むしろもっと派手に騒いで、さっさと引きずり出してやろうじゃないか」

「フン、所詮は狼の浅知恵……、おい」


 クーコが突然黙ったの同時に、リルさんも立ち止まった。


「リルさん?」

「いるね。何かを食う音だよ。派手に音を立ててるってことは、こっちを誘ってるね。ハッ、所詮は鼠だよ。前と同じ手が通用すると思ってるようだね。アンタは後ろを頼むよ」

「わかりました」


 俺達は、周りを警戒しながら慎重に進んで行く。


「しかし、前に蛭を退治したって時は、臭いで感づいたんだろ?今回はアタシと一緒で、臭いが入り混じってわかんないのかい?」

「あれは、実際の臭いってより、妖気を感じるようなものなんです。小物であればあるほど、近付かなければわかりません。あの時は、まさに目の前でしたからね」

「なるほどね。そうそう便利なものでもないわけかい。……っと、いたよ!」


 少し離れた場所では、巨大な黒い鼠がこちらに背を向け、一心に何かを食べている。グチャグチャという音からするに、積まれた山の肉を食らっているのだろう。

 俺は呪符を右手に持ち、背後に神経を集中する。だが、何かが動く気配は無い。


「フン、もう一匹はビビッて逃げ出しちまったかい?じゃあ、とりあえずはコイツを始末しておこうかね」


 リルさんは腰からサバイバルナイフを抜き取り、低く身構える。。


「わざわざ変身するまでもないね。それに、アタシはいいんだけど、空狐の前で緋色にヌードを見せつけたりしたら、食い殺されそうだしね」


 そして、リルさんが旧鼠に飛びかかろうとした時だった。俺は視界の上部、つまり天井付近に何かが動くのを見た。


「リルさん!上です!!」


 俺の叫び声と同時に、空中からリルさんめがけ黒い塊が落ちてくる。そして俺が

呪符を投げつけようとするよりわずかに早く、リルさんは動いた。

 その場から転がるように真横に飛ぶと、落下してくる塊にナイフを投げつける。


「ギィッ!」


 ナイフは旧鼠の右後ろ足を貫き、天井に当たって地面に落ちた。リルさんはそのナイフを素早く拾い上げる。


「ハン、少しは知恵があるようだね。今度は作戦を変えてきたってことかい。けど相手が悪かったね。アタシにそんなちゃちな罠は通用しないよ」


 足を貫かれた旧鼠は片足を引き摺りながら、逃げるようにもう一匹の元へと向かう。だが、あの傷ではもう遠くへは逃げられないだろう。

 残りの旧鼠を仕留めれば、この事件は終了だ。


「さてと、これで依頼は完了だね」


 リルさんはもう一匹の旧鼠に狙いを定める。そして、ナイフを振りかぶった。


「いや、それは困る」


 俺達の背後は、目の前の旧鼠に気を取られ、完全に無防備となっていた。その背後からの突然の声に驚いて振り返った俺達が見たものは、目の前に津波のように襲い来る大量の鼠だった。


「なっ、何だいこいつら!?」

「しまった、罠はもう一つあったんです。こいつら、三匹いたんです!」


 そして俺達は、抵抗する間もなく大量の鼠の波に飲み込まれて行った。

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