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「いや~、面白かったね!弘美が楽しそうに話してくれたのも、良くわかるよ!」

「そっ、そうですね……。いや、銀華さんが楽しそうで何よりですよ……」


 テーマパークの入場ゲートを潜ってから2時間ほど経過した頃、俺と銀華さんはベンチに座って小休止していた。


「それにしても……。くっ……、うぷぷぷっ。ヒッ、ヒロ君が……、ふふっ、あ、あんなに怖がるなんて……。くっ、くくくく、あはははは!」

「しっ、仕方ないでしょ!俺だってあんなもの初めて乗ったんだし、まさかあんなにすごい速さで動くなんて……。それに、人間があんな高い所から落ちるなんて、普通に生きてればありえませんから!」


 さっきまでの時間を楽しそうに語る銀華さんとは対照的に、俺は蒼ざめたまま、ぐったりとベンチにもたれかかっていた。


「ふふふ、いつもクールなヒロ君がねぇ。くっ……くくくくくっ」


 いったい、何が銀華さんをそこまで笑わせているのかといえば、話は1時間ほど前に遡る。

 入園後しばらくは、ビギナー二人ということもあり、コーヒーカップが回転するものや、列車に乗って園内を一周したり、洞窟内を船で探検する物など、比較的空いているアトラクションを中心に回って、穏やかな時間が流れていた。

 しかし、そんな穏やかな状況も、銀華さんが発した一言から一変したのだ。


「ヒロ君、次はアレに乗ってみないかい?」


 そう言って銀華さんが俺を引っ張ってきたのは、長蛇の列となっている、高速で線路を突っ走る列車。いわゆるジェットコースターだった。


「このテーマパーク一番の人気らしいし、乗ってみたいんだ。ちょっと時間はかかるけど、ダメかい?」


 上目遣いで俺を見る銀華さんを前にして、断れるはずがない。俺も少し興味があったし、二つ返事でOKしたのだが……。




「あはははは!すごい、楽しいねヒロ君!」

「ぎゃあああああああぁ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬしぬしぬしぬぅぅぅぅぅ!」


 ヤバい……。もうダメだ……。

 走行中のジェットコースター上で半分パニックになった俺は、その場から脱出を試みる。安全装置を外そうともがいていた所を、銀華さんに止められた。


「ちょ、ちょっとヒロ君?何やってんのさ!?ホントに死んじゃうよ!?」


 ようやくジェットコースターから開放され、ぐったりとしている俺に銀華さんは声をかけてきた。


「ご、ごめんね。まさかヒロ君があんなに怖がるなんて……。つ、次はもうちょっとソフトなものにするからさ」


 そうして連れてこられたのは、地上数十メートルの高さから、一気に落下するというアトラクションだった。


「これならあんなに長い時間乗ってるわけじゃないし、一瞬だからさ。それに、ほら。戻ってくる女の子達も皆笑ってるだろ?」

「は、はぁ……。わかりました」


 半分朦朧として思考力の弱っていた俺は、銀華さんの言葉に素直にうなずいたのだが……。


「うわぁ~。この、少しずつ昇っていく時のドキドキ感がたまんないね。これから『落ちるぞ~』って感じでさ」

「そっ……、そうですか……?」


 少しずつ上昇していくごとに、だんだんと楽しそうな表情になる銀華さんと反比例し、俺の顔は強張っていく。

 そして、頂点近くになった時、俺の恐怖心は限界に達した。

 俺は。この場から逃れる方法を必死で考える。そうだ!クーコの背に乗れば、ここから脱出できるんじゃないか?


「クッ、クー……」


 一瞬、クーコを呼び出しそうになったが、わずかに残っていた理性でそれを押しとどめる。こんな所でクーコを呼び出せば、どんな騒ぎになるか想像できる。


 そして、数秒後……。


「あははははははは!」

「ひっ、ひいいいいいいいいいいいいっ!」


 幸いにも、気絶したり粗相をすることはなかったが、地上に降り立った俺の足はガクガクと震えていた。

 そうして、現在に至るわけである。


「いや~、ごめんごめん。じゃあ、次からは怖くないヤツに乗ろうか」

「いえ、俺のことは気にしないでください。銀華さんが乗ってる間、俺は下で待ってますから」

「そっ、それじゃダメだよ!せっかく2人で遊びに来たんだから、一緒に乗らないと意味がないじゃないか!」

「いや、でも……」

「いいんだよ。こうやって、一緒に遊ぶのが楽しいんだから。それより、少し遅くなっちゃったけど、お腹空かないかい?」

「そういえば、もういい時間ですね」


 周りを見れば、時計が目に入る。確かに、出発が少々遅くなったのもあり、もうお昼はとっくに過ぎている。


「気分はどうだい?まだ食欲がないんなら……」

「いえ、大丈夫です。もう落ち着きました。とはいっても、あまり食べ過ぎると夜に差し支えますから、そこの売店でサンドイッチでも買ってきましょうか?って、俺は電車賃しか持ってないんですけど……」

「あ、いや、それなんだけどね……」


 銀華さんは何やらもじもじしながら、俺が持っていたカバンを指差した。


「じっ、実は、お弁当を用意してきたんだ。簡単なものなんだけどね。ほ、ほら、こういう所の食べ物はすごく高いだろ?だから節約も兼ねてね……」


 俺は、バッグの中身を取り出す。バスケットの中には、大小様々な形をしたおにぎりが入っており、小さな弁当箱にはまるで炒り卵のような卵焼きと、シンプルに焼いただけのウインナーが入っている。


「ヒロ君みたいに上手じゃないんだけど……。イ、イヤなら、そこの売店で買ってきても……」


 俺は、銀華さんの2時間の意味を理解した。きっと俺を追い出した後に、一生懸命慣れない料理をし、精一杯のおめかしをしていたのだろう。

 きっと、人並みの女の子のように過ごす時間を楽しみにして。


「いただきます!」

「あっ……!」


 俺は、言うが早いかおにぎりをほお張った。

 正直、おにぎりには塩も具も入っていないし。形も不恰好だ。ウインナーはともかく、卵焼きは銀華さんの好みなのだろうか?砂糖がたっぷりと入り、少々甘過ぎるくらいだ。


「ど、どうだい……?」

「うまいですよ。ほら、銀華さんも食べないと、なくなっちゃいますよ」


 だが、銀華さんの努力が隠し味として感じられる。

 おにぎりを食べた銀華さんは微妙な表情をしていたが、それでも10分程度で完食した。


「ご馳走様でした。さて、この後はどうしますか?」

「そうだね、絶叫系はヒロ君が……、ふふふっ、気絶するといけないからやめておいて、歩きながら探してみようか」


 それから俺達は、西部のガンマンになり悪人を倒したり、3Dシアターで宇宙船に乗り、宇宙空間へ旅立ったりした。

 鏡張りのミラーハウスの中では、鏡に映った銀華さんのパンツが思いっきり見えてしまうというハプニングもあり、盛大に怒られたりした。

 もっとも、不可抗力であったため、銀華さんも本気で怒ったわけではなそうだったが。


「ま、まあヒロ君もわざと見ようとしたわけじゃないんだし、僕も普段穿き慣れないスカートだし、ちょ、ちょっと短かったのもあるからね」

 

 しかし、くどいようだが見られて恥ずかしいなら、脱いだ下着もきちんとしておいてほしいのだが……。




「あった!ここに入りたかったんだよね」


 しばらく何かを探していた銀華さんが立ち止まったのは、朽ち果てた西洋風の建物の前だった。

 入り口には『モンスター・パニックハウス』という看板が掲げられている。

 朽ち果てているといっても、もちろん本当にボロボロなわけではなく、よく見ればそれ風に作られているだけだ。

 いわゆる、お化け屋敷というやつだろう。しかし、銀華さんは……。

 俺は気になって尋ねた。


「でも、銀華さんは夜目が利きますよね?お化け屋敷に入っても、周りが見えて楽しくないんじゃないですか?」

「ああ、普通のお化け屋敷ならそうかもしれないけど、弘美の話だと、ここは人間が直接脅かすとかじゃないそうなんだ。なんでもCGや機械を使ったりして、まるで本物のお化けみたいなのが出てくるんだって」

「へぇ~。そうなんですね」

「うん。面白そうだから一度入ってみたくてね。これならヒロ君もだいじょうぶだろ?それとも、怖いかい?」


 悪戯っぽく笑う銀華さんだったが、さすがにお互い専門家だ。怖いということはない。


「大丈夫ですよ。俺だって猫猫飯店店主、銀華さんの助手なんですからね」

「ふふ、頼もしいね。よし、じゃあ早速入ろうか。あ!でも、暗闇にまぎれてエッチなことはしちゃダメだからね!」

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