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 それから2時間後、俺はテーマパークの正門前に立っていた。

 不思議なことに、先ほどまでの話の流れからすれば、俺の傍らにいるはずの銀華さんの姿はない。

 そもそも、なぜ俺が一人でこんな所に突っ立っているかといえば、遊びに行くことを決めた直後のことだった。


「どうします?少し早いですけど、今から準備して出かければ、ちょうど開園くらいには到着すると思いますが」

「なっ、何を言っているんだい!?女の子は支度に時間がかかるものさ!それに、デ……、じゃないや……。とにかく、こういうのはやっぱり現地で待ち合わせるべきじゃないのかな!?」


 何やら妙なテンションで、銀華さんは力説する。

 いや、支度っていっても、すでに外出用にスーツは着込んでいるんだし、同じ場所から向かうんだから、待ち合わせる必要性がわからないのだが。

 俺が不思議そうな顔をしているのに気付いたのだろう。


「とにかく、女の子にはいろいろと支度があるんだから!ヒロ君は先に行って待っていてよ。行き方はわかるかい?」

「ええ、駅から電車で一本道ですからね」

「じゃあ……。そうだね、2時間後に正面の入り口前に集合ということで。さあ、ヒロ君は早く行きたまえ」

「は?」

「『は?』じゃなくて、先に行っていてくれと言っているんだよ」

「いえ、そうじゃなくて、ここからテーマパークまでは、20分もあれば着きますよね?」


 俺は、銀華さんの言葉の意味が理解できなかった。なぜ、こんなにも早くここを出発せねばならないのか。俺は正門前で1時間40分も持ち続けるのか?


「いやいや、銀華さん。別に俺は少し前に出発すればいいですよね?」

「もう、うるさいなぁ!ヒロ君はもっとデリカシーを持ったほうがいいよ。女の子の支度場所に一緒にいるなんて、野暮ってもんだからね!」

「…………」


 怒られた……。

 なぜか、銀華さんの頼みを聞いてあげているはずの俺が、怒られている……。

 正直納得できなかったが、まあ、この理不尽さも、銀華さんらしさと言えるのだが。

 

 そうして、追い出されるように猫猫飯店を出た俺は、現在ひたすらに正門前で立ち尽くしているのだった。


「あ、それと僕が招待するんだから、お金は電車賃以外持っていっちゃダメだからね!大船に乗ったつもりでいてよ」


 その一言で、どこかでお茶を飲んで時間を潰すことも出来ないまま……。




『ねえ、あの人ずっと立ってるよね?』

『あんまり見るなよ。彼女に振られたんだよ』


『あ~あ、可哀想だね~。でも、結構イケメンじゃない?ねぇねぇ、ちょっと声かけてみる?』

『やだ~、逆ナン!?でも、まだ高校生くらいじゃないの?あんた、そういうのが好みなの?』

「え~?冗談よ。でも、可愛くない!?ちょっと母性本能くすぐるタイプってゆーかー」

『あー、それはわかるけどね。でも、あんまお金持ってなさそうだよ?』


 そして俺は、入場していくカップルや、女の子達のひそひそ声を聞きながら、ひたすら銀華さんを待っていたのだった。

 それと同時に、入場ゲートの前で客を迎える役目のイメージキャラクターから、気ぐるみ越しに明らかに不審者を見るような視線を感じながら……。




 そして、テーマパークに到着してから、待つこと1時間50分ほど。


「遅い!」


 入場口に取り付けられた、テーマパークのイメージキャラクターを象った大時計を見れば、約束の時間はすでに10分ほど過ぎている。

 にも関わらず、銀華さんが現れる気配は一向に無い。

 周りを見渡しても、黒ずくめの銀華さんは見当たらない。

 まさか、銀華さんのことだから、ここに辿り着けず迷子になっているんじゃないだろうか?

 最初こそ少しばかり怒りも感じたが、だんだんとそんな不安がよぎる。だが、乗り換えもなく電車で一本道、駅の目の前がテーマパークの正面である。まさか間違えようがないだろう。

 だが、俺は携帯電話などの通信手段も持っていないし、連絡の取りようもない。

 いや、式神を飛ばせば連絡を取れないこともないのだが、さすがにそんなものを使ったら、銀華さんに俺の素性がバレてしまうだろう。。

 もちろん、そんなことで銀華さんの俺を見る目が変わるは思えない。だが、異形のモノにとって、陰陽師はけっして好かれる存在ではない。むしろ、敵視される場合が多いことは確かだ。

 話すにしても、もう少し自分の気持ちを整理する時間が欲しいのだ。

 そして、ふと思う。ああ、今朝の銀華さんも、こんな風に言い出すきっかけを悩んでいたのかも……と。

 

 あらためて周囲を見渡すが、やはり銀華さんの黒い姿は見えない。少し離れた正面には、俺と同じように誰かを待っているのか、銀華さんとは正反対の、全身真っ白な少女が立っているだけだ。

 いや、真っ白というのは少々大げさだが。

 だが、その表現が決して誇張ではないと思えるくらい、少女は白く輝いていた。

 少女の肌の色とキャミソールは、純白ともいえる白さだった。だが、その上に羽織ったカーディガンと、まぶしいくらいに足を覗かせるミニスカートは、淡いピンク色をしている。

 そして、服装からはアンバランスな、少しばかり大きめのカバンを両手で持ち、ポツンと立っている。

 あまり見ては失礼と思うが、ついつい目を奪われる美しさである。

 そういえば、先ほどから門を潜っていく人達の中にも見かけるのだが、やはりこのようなテーマパークには、人間以外のモノも遊びに来るのだろう。

 入場していく集団の中には、異形のモノもちらほらと見かける。

 彼らは皆、人間と一緒のグループであったり、はたまた怪異同士の集まりであったりするが、皆人間社会に溶け込んでいるように見える。

 そんな光景を見て、俺は少しばかり嬉しい気持ちになる。

 様々な意見はあるが、こうした光景を見れば『生物平等基本法』の制定は、きっと間違っていなかったのだと思う。

 銀華さん達のような、異形であろうとも、善良なモノが暮らしていける世を見ていると……。

 そして、俺の前に立つ彼女も、また人ではないのだろう。銀色の美しい髪を風に揺らし、頭上には猫の耳を生やしている。

 その姿は、さながら銀華さんのようであった。


「ん……?」


 だが、その時俺は、ようやく違和感を感じた。その少女は、銀華さんに良く似ており、まるで銀華さんのような美しさで……。


「ぎっ、銀華さん!?」

「もー、ヒロ君。気付くのが遅いよ!」

「い、いや、だって、その格好……」


 てっきり、先ほどまで身に着けていた黒尽くめのスーツで来るとばかり思っていたのだが……。

 しかし、銀華さんの姿は、頭上の耳も背後の二股の尻尾も隠すことなく、少しばかり顔を赤らめながらも、年頃の少女のような格好で立っていた。


「にっ、似合わないかい?せっかくのデ……、い、いや、せっかく遊びに行くんだから、少しばかりお洒落をしようかと……」


 銀華さんは顔を赤らめ、うつむき加減に聞いてきた。


「い、いえ、そんなことはありません。かっ、可愛いですよ」

「そ、そうかい?あ、ありがとう……。ちょっと恥ずかしいけど。頑張って着て来て良かったよ」


 銀華さんは、嬉しそうに顔を上げて微笑んだ。


「チッ……!」

「ん?」


 胸元から何か舌打ちが聞こえたような気がしたが、おそらく気のせいだろう。


「それよりも、遅くなっちゃったから、早く入ろうか」

「はい。そうですね」


 俺は、銀華さんのカバンを掴む。


「重そうですし、持ちますよ」

「そうかい?ありがとう!ヒロ君はやっぱり優しいね」」


 そして俺は、嬉しそうに笑う銀華さんと一緒に、テーマパークの入場ゲートを潜り抜ける。

 ただ、ゲートを通る際に、そこで歓迎してくれるはずの気ぐるみの視線が、不審者を見る目から嫉妬を感じる視線に変わったように思えたのが、少しばかり気になったのだが……。

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