人間の愛
この子は私の世界にいなくてはいけない存在だ、この子達は幸せになってもらいたい、昔の私のようになればチカは必ず壊れてしまうから...世界を、吸血鬼がいてもいい世界を創る。
子供達を全員ベッドに寝かした後お休み、と一言呟き部屋を出た。
ミシアは子供達に図書館として開いている書斎にこもり人間の事や神官の事などを徹底的に調べ始めた、吸血鬼は人間と違い何もしなくても血さえあれば生きていけるし、どんな屈強な人間に抵抗されても吸血鬼の力には到底及ばないので人間については調べない、と言うよりかは調べる必要が無いのだ。
なのに調べ始めた理由は他の意図があった、それは神官だったはずの人間が人間じゃなくなっていた事、それが何であるかという事に興味と恐怖を感じたから。
調べてもわからない、神官の情報もある程度しかなかった、無駄足だったようだ。
ミシアは出した本を元に戻している途中、妙に黒い本に目が止まった。
タイトルは天使と悪魔について記された古い伝説のような物に過ぎなかった、だがその伝説がミシアには本当に恐ろしく感じた。
本の伝説が、ではなく存在が恐ろしかった、そえ、ミシアは全く同じ光景を見ていたのだ、時を止められたかのように動かない物や人、何も無かった空間から出てくるもの、気配を感じられない、心を弄ぶ狂気、それは神官だったが異形の者になった見たままのシルクだった。
ミシアは激しい恐怖で足がガクガクと震え、ついには地面にへたりこんだ。
あんなものを相手にすれば確実に子供達は殺されてしまう、どうにかしないと、私が死んでもあれだけは殺す...、へたりこんでいたミシアにはその恐怖を潰す為の手段しか考えていなかった。
手に持っていた本をすぐに入れていた場所に戻すと館の外に向かった。
館を出るとまるで世界が滅んだように静かでミシアは不敵な笑みを浮かべて真っ暗な空を見上げた。
そこには綺麗で美しい満月が出ていてまるでミシアの身体を包むかのように光がミシアに当たり輝く、吸血鬼は夜の生き物だと知られているが、実際朝でも活動することは出来る、少々体に毒ではあるが太陽も浴びていられる、だが吸血鬼は太陽を嫌い外を出歩かない、だから夜の生き物というのは実際のところ本当である。
ミシアは子供達と自分の為に外に出ているだけに過ぎないのだ。
「ふぅ、今日はもうすこし調べようかしら」
ミシアが小さくため息をつき人間が消滅した街に向かい歩きだす。
人間がいなくなると建物などがダメになっていくというのはどうやら本当らしい、街の真ん中にある大図書館の中は人がいなくなり本は埃にまみれている。
ミシアは人間の歴史についてまず調べようとおもい棚に掛かっている系統わけされた札を見つけることにした、奥に行けばいくほど不気味になっていく、少し行くと歴史と神話という札が目に止まった、早速端にあった埃まみれの本を抜き取り、埃をはたくと予想外の量の埃が舞い気分が悪くなった。
かなりの時間が経ち、ある程度歴史について調べ終えたミシアは呆れた顔で呟く。
「どうして人間はこうも醜い争いをするのかしら...」
理解出来ないような内容だ、刀や剣、銃や爆弾、ミシアは人間に無知だが、調べた結果はっきりわかった、やはり人間は闇を創り出す醜い生き物だ、例外もあるがそれはほんのちょっとに過ぎない。
ミシアは埃で気分を害しているが歴史についての内容にも気分を悪くし、もう寝ようと決めて館に戻った。
戻る途中の静けさに安らぎを感じてゆっくり帰る、途中に上位の神官と会ったがその神官も静けさに安らいでいたのか何もしてくる様子はなかった。
館に戻ると時間を確認する、するともう深夜の3時だったミシアは疲れた体を癒すために入浴をした、心の疲れは天使達で治るのに...と自分で小さく笑いながらゆったりと湯船に浸かる。
静かな空間の中、水が滴りポツン、ポツンと音を奏でる、人間の中の風流というやつだろう、ゆったりと浸かり湯から出た後は眠りにつく。
「お姉ちゃん...お姉ちゃん!」
優しい声が聞こえてくる、チカだ、眠たそうな声で返事をすると少しだけ沈黙する。
まだ眠たくて寝ようとすると見張っているチカがまた起こしてくる。
最近は子供達だけでもご飯は作れるようになったはずなのだが...あくびをしながらチカに聞くと朝はしっかりと起きて朝ごはんを食べないとダメ、だそうだ。
チカに説教される、なんともまあ珍しいがこんな日常もいいかもしれない、チカ曰く朝は大事らしいのでチカの血を頂く。
ズズズと小さな音を立て吸っているとチカの力が少しずつ抜けていく、飲み終えるとチカが心配して聞いてくる。
「夜はちゃんと寝ないとダメなんだよ?昨日なんで遅くまで起きてたの?」
なぜわかったのだろうか、チカはしっかりと寝ていたはずだし行動もこれといって目立った事はしていないのに、気になって聞いてみたら意外な返事が返ってきた。
「ちょっと勉強してたのよ、でもなんでわかったの?」
「だってお姉ちゃん起きるの遅かったし...それに血、いつもより多く吸ったでしょ?お姉ちゃんにいっぱい吸われてもいいけど...無理しちゃダメ」
気づかなかった、本能的に血を多く吸っているのだろうがそれよりもチカの優しさは凄まじく大きいものだとわかった。
頭の良いチカなら答えに辿り着くのはそう難しいことではないだろうでも最後の一言が幼い時に優しさを受けたことの無いミシアには染みた。




