VSドラゴン
「おいおい、マジだぜ」
階段の下を眺めたセツナが、いつになく興奮した様子で言う。
「マジですね」
ジンの目も、少年のように輝いている。
「あんたら、状況わかってるのかな~?」
リッカが呆れたような口調になる。
「だって、本物だぜ?」
セツナが、それから目を離さずに言う。
「あの鉄をも弾きそうな鱗。大きい翼に爪。人間なんか踏み潰しそうな大きな足」
「今からそいつと戦うんだよ」
「子供の頃に剣士物語を読んだ人間でドラゴンに憧れない人間なんていない」
いつになく子供っぽい口調でセツナは断言する。
「で、どうやって倒すの~?」
セツナは、黙り込んだ。
階下に視線を向けると、大きなフロアの中央で、赤い巨躯のドラゴンが体を丸めて眠っていた。
「私は本番まで呪いを二段階までしか解放できないので、あまり戦力にはなりませんよ」
マリは困ったような表情だ。
道中でこんな強敵に会うとは想定外だったのだろう。
「……眠ってるなら、起こさずに進めば良いのでは?」
ハクアの一言で、四人は我に帰ったような表情になった。
五人は壁の隅を、物音を立てないようにしながらゆっくりと進む。
ドラゴンは部屋の中央で体を丸めて眠っている。
どうにか、壁全体の半分を進んだ時のことだった。
「なあ、僕は気がついたことがある」
「あ、俺も」
「私も~」
「……私もです」
「あ、やっぱ皆もそう思うよねえ」
五人は顔を見合わせた。
セツナが、泣き笑いのような表情で口を開く。
「階段、見当たらないよな。このフロア」
「だよね~。ドラゴンの腹の下と見た」
「つまり結局、戦うしかないわけだ」
諦めたように、ジンは剣を鞘から抜いた。
他の四人も、それに習う。
「ブレス系は私が命がけで無効化するから。近接戦闘はよろしく~」
「ハクアさんはリッカの護衛をしつつ全体に神術を。ジンと僕は真正面から。マリさんはその身体能力で不意打ちを狙ってくれ」
「うわー、リスク高い場所に配属されてるなあ俺」
「腕を見込んでいるのだ」
「嬉しくないです」
言いながらも、ジンは駆け出した。その後に、セツナも続く。
ドラゴンは二人の足音を聞いて小さく体を震わせると、目を開け、侵入者に向って吼えた。
炎のブレスがセツナとジンに襲い掛かる。
二人の前に、炎の防壁が現れてブレスを受け流した。
しかし、このままでは二人は前進できない。
そう思っていたら、ブレスが止んだ。マリが、ドラゴンの背後に取り付いたのだ。ドラゴンは背中の邪魔者を食いちぎろうと首を伸ばす。
そうやって隙だらけになった首を、ジンの剣が襲う。
しかし、堅い鱗の前に剣は弾かれた。
「尻尾、来るぞ!」
セツナが後退しつつ言う。
彼の予知眼は正確に未来を予知する。
襲い掛かってきた大きな尻尾を、ジンは辛うじて後退して避けた。
「うわあああ」
背中にしがみついているマリが、振り回されて悲鳴をあげる。
「鱗が堅くて手に負えません。鱗のない箇所を狙いましょう」
「首の下だ」
そう言って、セツナはドラゴンの首の下に潜り込んで、剣を突き上げた。
剣が突き刺さった。
しかし、ドラゴンにとってそれは小さな傷でしかなかったようだ。怒りの咆哮を上げ、尻尾を縦横無尽に振り回した。
こうなってしまうと、ジンとセツナには近寄りようがない。
「ちょっと、師匠、助けて」
ドラゴンの背中にしがみついているマリが、情けない声をあげている。しかし、それも、ドラゴンの咆哮によって途切れ途切れにしか聞こえなかった。
「あの頭に剣さえ突き刺されば、脳を破壊できるのに」
セツナは歯噛みする。
そうだ。あの頭に剣さえ突き刺すことが出切れば、話は変わってくる。しかし、その箇所は堅い鱗で覆われているのだ。
武器が欲しかった。
全てを貫くような、武器が。
自分の能力の中で、そんなものを組み上げられないだろうか。そんな妄想が、頭を過ぎる。
一瞬、刀を大きく引いて、抜刀術のように構えた師匠の姿が脳裏に過ぎった。
妄想は、現実へと変わろうとしていた。
ドラゴンの背中から、マリが弾き飛ばされる。そして、ジンの傍へと着地した。
ドラゴンは咆哮するが、その場所から一歩も動くつもりはないようで、ジン達に近付こうとはしない。
「酷い目にあいました」
マリが苦い顔で言う。
「どうします? 手の打ちようがないですよ?」
「なんとか、階段の上から移動させれぬものかな」
話し合うセツナとマリに、ジンは相談を持ちかけた。
「なあ、あのドラゴンの頭。俺の目の前に落とせないだろうか」
「……斬れるのか?」
「斬れる、かもしれない。少し前から、考えていた技がある」
「かもしれないとは、不確かだな」
「師匠がそう言うなら、私はやりますよ」
マリは、迷いなくそう言った。
「考えが、あってのことでしょう」
「仕方ないな」
セツナも、他に手がなかったらしい。それに付き合うことにしたようだった。
「下から俺が攻めて気を引く。上からマリさんが不意打ちして頭を地面に叩きつけろ」
「承知」
セツナが駆け出す。ジンとマリも、その後に続く。
ドラゴンはそれを視認して、咆哮すると、炎の息を吐こうとした。しかし、球状の炎が顔の横で爆発したことに驚いたのか、口を閉じた。
ジンは立ち止まり、剣を大きく後ろに引く。
後は、仲間を信じて心静かに待つだけだ。
セツナがドラゴンの噛みつきを紙一重で回避していく。
その背後、跳躍したマリがドラゴンの後頭部へ飛び蹴りを放った。
ドラゴンの顔が、地面に叩きつけられる。
その瞬間、ジンは全ての力を篭めて剣を振るっていた。
引き足の爪先から、膝、腰、手首、様々な箇所の力が連動して動くのがわかる。
剣は加速して行き、ドラゴンの頭部に勢い良く突き刺さり、大きな一の文字を描いた。
ドラゴンが消滅していく。ジンの一撃は、十分な致命傷になったようだった。
五人は、狭い通路を歩いて行く。
「さっきのが天眼流の奥義、一の太刀ですか?」
マリが興味深げに聞く。
「いや、俺のアレンジだ。ただの一の太刀じゃ、ドラゴンの鱗は断てなかった」
「秘密を教えてくださいよ」
「そのうちな」
場違いな拍手が、周囲に響き渡った。
「一の太刀を覚えましたか。いや、流石だジン君。君の才、私にとっては妬ましい」
若い声だった。
しかし、どこかで聞いたような声だった。
通路の先に、男が立っているのが見える。
クロウと戦っていた、あの若い男だ。
五人の間に、緊張が走る。
あの時、戦場にいなかったリッカでも、この場に自分たち以外のチームがいるという状況だけで全てを察したのだろう。
「おめでとう。長い冒険の末に、君達は我々に追いついた。他の四人はこの先です」
「一人で五人を相手にするとでも~? それとも、案内役でも買って出てくれるのかしら~」
リッカが、挑発するように言う。
「いえ、私は一対一を所望しに来たのですよ。お互い、神術のフォロー付きの戦いなんて面白くないでしょう」
ジンは、唖然としていた。
どうして、今まで気がつかなかったのだろうと思った。
この男を、ジンは知っていた。
注視していなかったとはいえ、今まで気がつかないのがおかしかった。
「ねえ、ジン君。師弟対決の第二ラウンドを始めようじゃないですか」
若返ったイッテツが、そこには立っていた。
次回
全ての真相




