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遺跡の謎かけ

ラストバトルに向けて遺跡の中を前進します

 地下二十層に入った辺りから、ジンは自分が緊張しているのを感じた。

 もうすぐ、あの強敵達ともう一度戦わなくてはならない。その事実が、否応なくジンを緊張させるのだ。

 ただ、不思議と恐怖はなかった。決意が出来上がってしまっているということなのだろう。

 そして、地下二十四層から二十五層に移る階段の前に、五人は辿り着いていた。

「いないね~」

 リッカが、拍子抜けしたような口調で言う。

 積み重なっていた遺体も、どこかに行ってしまっている。

「もっと地下に潜った、ということかな。前回はここで待ち伏せていたようだったが」

 セツナが、考えながらも足を前へと進める。

「なんだ? これは……」

 戸惑うような声が、先に二十五層に入ったセツナから漏れた。

 四人は慌ててその後を追う。

 そこは、一面の白い部屋だった。置いてあるものを見ると、まるで倉庫のようだ。沢山の剣と、沢山の鎧が綺麗に並べられている。

 五人分の椅子がある卓もあった。

「休憩所、ですかねえ」

 戸惑うように言いながら、マリは卓につく。その背中には、何本もの剣がかけられている。マリも彼女が相手をするバクも剛力である。剣が折れた時の予備はいくらあっても良いのだろう。

「後は飲み物でもあれば良いのに」

 そう言ってマリが頬杖を吐くと、その前にコップが現れた。

 五人は集まって、コップの中身を注視する。

「匂いは、リンゴジュースだな」

 セツナが、コップの中身の匂いをかいで言う。

「私も試してみよっかな」

 リッカも卓について、頬杖をつく。

「新鮮なサラダが食べたいなあ」

 リッカの目の前に、サラダの入った皿が現れた。

「これが連中が長く遺跡に滞在できた秘密か?」

 呆れたようにセツナが言う。

「けど、今までこんな休憩所、入れたことないですよ」

 マリが戸惑いの声をあげる。それは、他の四人も一緒だった。

「キーがあるんじゃないでしょうか」

 ジンが言う。

「そう思うね~」

 リッカが同意した。

「元々この遺跡は、王家の剣を王族が取りに来る為に利用した遺跡でもあったから~。例えばカミトとフクノの家系の人間が揃っているケースにおいて、こういった休憩所が現れるのかも知れない~」

 まあ、とリッカは言葉を続ける。

「肝心の王家にまつわる人間がいないのに休憩所が開くって言うのも、変てこな話しだけどね~」

「それなら、思い当たる節があります」

 ジンは、気まずい表情でマリに視線を向ける。

 マリも、似たような表情をしていた。

「マリは、暫定的に姫様のガーディアンに選ばれています。カミトフクノの血の濃い人と、ガーディアン。メンツ的には接待を受けても良いですよね」

「なるほど~、そういうわけか~」

 リッカが納得したように頷いて、サラダを一口食べた。

「うん、毒は無さそうだね。新鮮そのものだ」

「このジュースも、飲んでも良いんでしょうか?」

 マリが、戸惑うように周囲を見る。

「私が毒見をしましょう。万が一があったら困る」

 そう言って、ハクアはマリのジュースを飲み干した。

 そのまましばらく経っても、異常は現れなかった。

「食料はここで追加できるというわけか。つまるところ」

 セツナは、目を細める。

「今日こそ、この遺跡の最下層を拝めるかもしれないと言うわけだ。急ごう。連中はもう既に、魔方陣に辿り着いているかもしれない」

「思うんだけどね~」

 リッカが口を挟む。

「彼らは魔方陣に辿り着いても、事を成せるのかな?」

「どういう意味だ?」

「事を成せるのなら、二十四層に陣取ってやってくる敵を返り討ちにする必要もなかったよね」

 もっともな話だった。

「彼らはここを独占して何かを探したかった。足りないものを埋めようとしていた。そう考えることも出来るよね~」

「つまり、連中はいつ引き返してくるかわからんと言う訳か?」

 セツナの一言で、周囲に緊張が走る。その中で、リッカだけが穏やかに水を啜っていた。

「そういうこと。臨戦態勢に入っておいたほうが良いと思う」

 リッカの言葉に、各々頷いた。

「……殺されなかった男、か~」

 リッカは、最後に誰に言うでもなくそう呟いた。


「しかし、世界平和か」

 呟くように、セツナは言う。

 五人は三十九層の中を歩いていた。

「考えてみればみるほど疑わしく思えるな。連中、世界平和を願うってメンツには見えなかった」

「世界平和を望むなら、最初から王家にそう申し出て調査の依頼をしてるでしょ~。下心があるってことだよ。独占するためにわざわざ争いの道を選んだんだからね。それはもうわかってる話じゃない」

「もしも、彼らが望むのが本当に世界平和を願う魔方陣だったら、どうします?」

 マリのシンプルな質問に、一同黙り込む。

「発動させても良いのかも」

 そう口にしたのはハクアだ。

「僕は嫌だね。人類は先へ進むために世代を超えてきたんだ。人類の積み重ねを全て無に帰すつもりか」

「けど、戦争がなくなるというのは魅力的に映ります」

「胡散臭い話しだと思うぜ、ハクア」

 ジンが、淡々と話に入ってくる。

「世界平和。その題目を掲げて連中は何人殺してきた。平和主義者のやることじゃあねえよ」

「……私も、彼らの言い分は疑わしいと思っています。けど、そんな優しい魔法陣があっても良いと、少し思っただけです」

 揺れている自分を、ハクアは感じずにはいられなかった。

 クロウと別れて以来、弱気になっている自分をハクアは認めずにはいられない。以前だったら、世界の人間を洗脳する魔方陣なんてとんでもないと憤っていたはずだ。

 実際に、敵を目の前にしたらハクアはもう迷わないだろう。ただ、優しいものがこの世界にあるとも思いたかった。

 その時の事だった。

 ハクアの足元の床が、崩れた。そのままハクアは、闇の中に落ちて行った。


 リッカは、痛む臀部を押さえて立ち上がった。

 突然、足元が崩れて床の下に落ちてしまったのだ。

 天井までは遠い。人間三人が縦に並んで届くかどうかという距離だろう。良く骨折せずに落ちたものだ、とリッカは感心する。

 周囲を見渡すと、セツナも立っているのが見えた。

 セツナは苦い顔でリッカを見ている。

「お前と二人きりか」

「私だって不本意だよ~。我慢しようね」

 何もない小さなフロアだった。出入り口も、どこにもない。ただ、空を見上げると、遠くに光があるのが見える。

「二人じゃ、肩車しても届かないね~」

 リッカは苦い顔をするしかない。

 セツナは壁などを叩いて、出口がないか探しているようだ。

「良く来た、王家の守人達よ」

 何処からともなく、部屋に声が響いた。

「そなた達に試練を与えよう。」

 突如、二人の目の前に三人の男が現れた。

「この部屋に、大きな偽りを混ぜた。そなた達の仲間の一人でもその偽りを壊せたならば、そなた達を次の階へ導いてやろう。無理なら、諦めて帰るが良い。遺跡の出入り口へと案内してやろう」

「謎解きか~。得意ジャンルだわ」

 どんな難問が待っているのだろう。リッカは不謹慎だと思いながらも、現状を楽しんでいる自分に気がついた。


「謎解き、ですか」

 床が崩れて落下した先にあった小さなフロアで、ハクアはジンと二人きりになっていた。

「……駄目でも遺跡の入り口へ送ってくれるとは親切じゃねえか」

 ジンは、どうでも良さげに言う。

「魔方陣の発動に、間に合わなくなっちゃいますよ」

「それもそうだな」

 ジンは、他人事のように言うと、腕を組んで考え始めた。

 その態度は、彼なりのリラックス方法なのだろう。

 突然、二人の目の前に、三人の男が現れた。

 一番右手の男が話す。

「中央の男は嘘つきだから、信じないほうが良いよ」

 次に、中央の男が話す。

「俺は嘘つきだ」

 最後に、左手の男が喋った。

「一番右手の男は嘘つきだから、信じないほうが良いよ」

 ハクアは、唖然とした表情をするしかない。

 ジンもそれは同じだ。どうでも良さげな仮面の表情が崩れて、呆然とした表情になっている。

「これ、問題として成り立ってるか……?」

 ジンが、疑わしげに言う。

「成り立ってませんよ」

 ハクアは、声が裏返りそうに鳴るのを必死に堪えながら答える。

 例えば中央の男を言葉の通り嘘つきだとする。すると、自分を嘘つきだと称する彼は嘘をついていないことになる。矛盾である。

 ジンも同じ考えに至ったようだった。

「いや、浅く考えれば良いんじゃないか。出題者もそこまで深く考えていなかったのかもしれない。中央は嘘つきだけどそれを正直に告白した、右はそれを証言した正直者、右を嘘つき呼ばわりする左の人間が紛い物だ」

「そんな単純な問題でしょうか。我々は、試されているんですよ?」

 ジンは、黙り込んだ。


「右の人間で決まりだ」

 セツナが言って剣を抜くのを、リッカは慌てて止めた。

「待って~。これ、問題として成り立ってないよ。妙だ。全員が架空の町から各方向にある場所を証言してるだけだもの。その町の現実の姿を知らない私達には答えようがない」

「しかし、右の人間が言うような場所があるとは思えない」

「そんな単純な問題じゃないでしょ~。出題の意図を考えないと」

 リッカは腕を組んで考え込む。

 しかし、答えは出てこない。それはそうだ、この問題にそもそも答えなど用意されていない。

 ただの足止めではないか。そんな予感を覚えたリッカだった。

「脱出口がないか、探してみよう。最悪、そこの三人を階段にしたら上から出られるかも」

「リッカもお手上げか」

 苦い顔でセツナが言う。

「ああ、正直お手上げだね~」

 架空の町の周辺の土地事情を知る。そんなこと、エスパーでなければ不可能だ。


「まあ、幸い食料はある。ゆっくり考えよう」

 ジンは座って、食事を取り始めた。

 ハクアもそれに習う。

「なんなんだろうな、この問題」

「わけがわかりません。どういう意図の問題なのか質問したいぐらいですね」

 沈黙が場に漂う。

「そういえば、俺達で二人きりになるって言うのも珍しいな」

 ジンが、ふと思いついたように言う。

「祭りの時とかは、二人でしたけどね」

 ハクアは、苦笑して応じる。

「ちょっと、感謝している」

 ジンの唐突な言葉に、ハクアは目を丸くする。

「こんな状況を用意してくれた、遺跡の管理者さんにな。ハクアとは一度、色々なことを話してみたかった」

「こんな状況で、何を言ってるんですか」

 ハクアは、頬が熱くなるのを感じた。


「お前とはもっと良く話しておくべきだった」

 セツナが唐突に発した言葉に、リッカは戸惑った。

「何の話~?」

「家のこととか、婚約のこととか」

「こんな時に、そんな話蒸し返さないでよね」

 思わず眉間にしわを寄せたリッカだった。

「この場所だと、僕はただのセツナで、お前はただのリッカだろ? 家のことなんか、関係ない」

 リッカは、目を大きく見開いた。

 そして、出入り口を探して壁を探っていた手を止めた。

「そっか……」

「わかってくれたか?」

 セツナが、愛しげにリッカを見つめる。

「うん、わかったよ~」

 リッカは微笑んだ。

 そして、セツナに歩み寄った、

 セツナが両手を大きく広げる。

 リッカはその腕の中に入って、彼の腹を剣で貫いていた。


「正答者が二名出た。そなたらの進行を許そう」

 気がつくと、リッカは他の仲間と共に下層への階段があるフロアに立っていた。

「正解はなんだったんだ?」

 セツナが、戸惑うように言う。

 ジンとマリは、どうしてか気まずげに互いの視線を逸らしあった。

「正答者は私と、誰かな~?」

 リッカが、周囲に尋ねる。

 ハクアが、小さく手を上げていた。

「見破ったか~」

「ええ。あの人はいつもマリさんの為に必死で。私を気にするはずなんか、ない。後は、迷うべきではないと思いました」

「そうだね。私の相手も、お家なんか、なんて言葉を口にする無責任な男じゃなかったよ。だから、上手く行かないんだけどね」

 複雑な心境だった。彼が家なんかどうでも良い、という男だったなら、どれだけ楽だっただろうとリッカは思う。

 ハクアも、思うところがあったのだろう。リッカと顔を見合わせて苦笑した。

「結局、正解はなんだったんだ?」

 セツナは、繰り返し問う。

「あんたね~、一緒にいて気がつかなかったの~?」

 リッカは、呆れたように言う。

「あんたと一緒にいた私、それこそが偽者だったの。だからそれを斬れば終わってたのよ~」

「お前、偽者とはいえ俺の形をしたものを斬ったのか!?」

 セツナが素っ頓狂な声をあげる。

「仕方ないでしょ~。偽者は偽者なんだから」

「間違っていたらどうするつもりだったんだ」

「神術使ってごめんねしてた~」

 ジンとマリは、気まずげにお互いの表情を凝視してた。

「偽者だったのか」

「らしいですね。おかしいと思ったんですよ。師匠がセクハラ気味なトークをしてくるなんて、と」

「そこは気付けよ、あからさまに偽者だろ。お前、俺を何だと思ってるんだよ」

「師匠こそ、なんで気がつかなかったんですか。私がここに至って決意が揺るぐ女にでも見えましたか」

 図星だったらしい。ジンは黙り込む。

「やめましょうよ」

 ハクアは苦笑する。

「これ、多分、チームワークを確認するためのクイズですよ。それでチームワークががたがたになったら本末転倒です」

「私達に戦場以外でのチームワークなんてないよ~」

「まあ、戦場で連携できれば十分だな」

「私も師匠に多くは望まないことにしました」

「何か引っかかる言い方だな?」

「行きましょう」

 ハクアは苦笑して、五人の前を歩く。

 そして、優しかった偽者のジンのことを思い出して、少しだけ切ない気持ちになった。

次回

VSドラゴン


の前に、現在の状況をまとめた文章を載せるかもしれません。

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