第七章 継承者の問い
入り江に座礁船が見えた時、和真はようやく舵を握る手の力を緩めた。
朝、三人に見送られた浜には人影がない。もうテントへ戻っているのだろう。波の静かな場所を選んで艇を寄せ、岸へ上がれるだけの水深と足場を確かめる。係留を済ませてエンジンを止めると、それまで聞こえなかった波の音が戻ってきた。
「詩乃さん!」
荷物を肩へ掛けながら呼んだが、返事はなかった。座礁船の陰にも、乃亜が座っていた場所にも誰もいない。和真は救命胴衣を艇へ残し、テントへ続く斜面を上った。
漕ぎ続けた肩が重く、足を踏み出すたびにバッグの紐が同じところへ食い込む。それでも、途中で休む気にはなれなかった。隣島のことを伝えなければならない。電話も使えず、診療所にも人がいなかった。これからどうするか、三人と話したかった。
木々の間にテントの屋根が見え、和真は歩調を速めた。
「戻りました」
入口へ回り込んだところで、足が止まった。
焚き火台の前が空いている。乃亜が足を伸ばしていた敷物も、食事に使った容器もあった。洗ったクッカーは伏せて置かれ、残りの薪は濡れないようにまとめられている。誰かが片付けた跡はあるのに、そのそばにいるはずの三人が見えなかった。
「レイナ?」
テントの入口を開けて中を覗いた。寝袋と荷物がある。奥まで顔を入れても、人が横になっている膨らみはない。背後で葉の擦れる音がして振り返ったが、枝が揺れているだけだった。
「乃亜さん! 詩乃さん!」
声を張ってから、息を止めて待った。
返事はない。
三人で水を取りに行ったのかもしれない。少し涼しい場所へ移っただけかもしれない。そう思ってみても、乃亜の足で全員がテントを離れる理由が浮かばなかった。
和真は荷物を下ろし、もう一度テントの中を見た。さっき確認したばかりの寝袋の端を持ち上げ、すぐに手を止める。何を探しているのか、自分でも分からなくなった。
隣島の受付も、店の奥も、家の玄関も、こうだった。物は残っている。ついさっきまで誰かが使っていたように見える。それなのに、呼んでも人が出てこない。
「……そんなわけないだろ」
入口の布を掴んだまま、和真は朝の浜を思い返した。レイナが舟を押し、乃亜が座ったまま手を上げ、詩乃が気をつけてと言った。その声まで覚えているのに、今はどこへ呼びかければ届くのかも分からない。
三人まで、いなくなったのか。
喉が乾いて、唾を飲み込むのもうまくいかなかった。もしそうなら、艇を手に入れて戻ってきたところで、もう誰にも会えない。これから一人で、あの港と同じ場所を探し続けることになる。
その時、森の奥から低い音が鳴った。何か重いものを押し動かすような響きが続き、途中で引っかかったように途切れる。枝が折れる音でも、岩が転がる音でもなかった。
和真は立ち上がって耳を澄ませた。音はテントの後ろ、まだ歩いていない方角から聞こえる。地面へ目を向けると、草がいくつか同じ向きに倒れ、湿った土に靴底の縁らしい窪みが残っていた。
三人のものかどうかは分からない。だが、音のする先に何かがある。
和真はバッグを掴み、森へ走り出した。
*
低い枝を腕で払い、木の根を跨いだ。斜面で足が滑り、幹へ手をついた拍子に、擦れた指の付け根が痛む。
立て直して進む間にも、同じ音がもう一度響いた。今度は長い。地面から靴底へかすかな振動が伝わり、和真はその方角を確かめて走った。
「誰かいるのか!」
走る息に声が切れる。返事を聞き取ろうと速度を落としたが、重い響きが続き、何も分からない。
木々の向こうに灰色の面が見えた。
岩だと思って近づくと、端が垂直に切れていた。表面に凹凸がほとんどなく、土に埋もれた下端から、細い継ぎ目がまっすぐ上へ伸びている。壁の上は枝葉に隠れ、どれだけ大きなものなのか見通せなかった。
建物だった。
和真が壁沿いを進むうちに、長く続いていた音が止まった。その先を回り込むと、人が並んで通れるほどの入口が開いている。厚い扉らしきものが左右の壁へ収まり、奥の床に細い光が走っていた。
入口の前には誰もいない。
「詩乃さん!」
中へ向けて呼ぶと、声が硬く反響した。
「……和真さん?」
奥から聞こえた声に、和真は踏み込んだ。
外の明るさに慣れた目では、すぐに人の姿を捉えられなかった。ライトを出そうとバッグへ手を掛けた時、通路の先で何かが動く。
「和真!」
レイナがこちらを向いていた。その腕に乃亜が掴まり、少し手前に詩乃が立っている。
和真は三人のところまで行き、ようやく止まった。
「いた……」
言葉にした途端、吸い込んだ息がうまく続かなくなった。何か聞かなければと思うのに、詩乃の顔を見たまま、呼吸を整えることしかできない。
「どうしたんですか。何かあったんですか?」
詩乃が一歩近づいた。答えようとして首を振り、和真は乃亜の足元へ視線を移した。右足を庇っているが、レイナに支えられて立っている。朝と同じ固定が見えた。
「足は。痛くなってない?」
「少し休めば大丈夫です。和真さんの方が……」
「俺は、走ってきただけだから」
膝に手をつき、深く息を吐いた。汗が顎から落ちる。目の前に乃亜の靴があり、レイナが立ち位置を変える音がした。その小さな音を聞いて、初めて、もう探さなくていいのだと分かった。
「テントに、誰もいなかったから」
「あ……見に戻ってくれたんですね」
詩乃の声が少し低くなった。
「ごめんなさい。まだ帰ってくる時間じゃないと思っていて」
「責めてるんじゃないんだ」
和真は顔を上げた。
「ただ、無事でよかった」
言い終えるまでに、また息が詰まった。レイナがすぐ隣へ来て、和真の肩からずり落ちかけていたバッグを受け取る。
「ここ置くよ。ちょっと落ち着いて」
「……ありがとう」
床に下ろされたバッグのそばで、和真は身体を起こした。詩乃は何か尋ねかけたように口を開き、いったん閉じてから水を差し出した。
受け取って飲むと、ようやく喉の乾きに気づいた。
「でも、早くない? もう向こうまで行ったの?」
レイナに聞かれ、和真は蓋を閉めながら頷いた。
「港で動かせる艇を見つけた。高速艇で戻ってきたんだ」
「じゃあ、助けを呼べたんですか?」
乃亜の声に、和真の手が止まった。
「そのことも、話さないといけない」
乃亜の顔から期待が薄れていくのを見て、目を逸らしたくなった。けれど、言い方を選んでも変わらない。
「探したところには、人がいなかった」
「港にですか?」
「港も、その上の住宅地も。診療所と役場の支所まで行ったけど、誰にも会えなかった」
詩乃が和真を見つめたまま、返事をしなかった。レイナも、今度は何も聞いてこない。
和真はボトルを握る手を下ろした。
「あとで、ちゃんと話す。先に教えてほしいんだけど……ここは何なんだ」
ようやく周囲へ注意を向けた。天井にも壁にも、窓や照明器具らしいものが見当たらない。それなのに、床際の線が淡く光り、人の顔が見えるだけの明るさがあった。
「私たちにも分かりません。音が聞こえて、見に来たら……」
詩乃が、背後の入口を振り返った。
*
――少し前。和真を送り出してから、数時間が過ぎた頃だった。
詩乃は洗った容器の水を切り、テントの脇へ伏せていた。
入り江から戻って休んだ乃亜は、敷物の上で右足を伸ばしている。昼に何を食べるか聞こうとしたところで、薪を運んでいたレイナが顔を上げた。
「今の、聞こえた?」
詩乃も手を止めた。森の向こうから、何かを押し動かすような音が聞こえる。低く続いたあと、短い衝撃を残して止まった。
「船の音ですか?」
乃亜の問いに、詩乃は海の方角を確かめた。
「海じゃないと思う。もっと後ろ」
レイナが薪を置き、テントの裏へ回った。詩乃もその隣へ立ったが、木々の隙間には人も車も見えなかった。
「何かの機械かな。人が使ってるとか」
「そうなら、声が届くかもしれないけど」
耳を澄ませたまま待つ。しかし呼びかける声も、次の音も続かず、詩乃はいったん乃亜のところへ戻った。
助けが来たのなら、まず海から見えるはずだと思っていた。森の中に人がいる可能性を、ほとんど考えていなかった。
数分後、また音がした。
今度は乃亜も身体を起こした。詩乃が聞いている間に、レイナが森を指す。
「あっち。さっきと同じ」
音の終わり方までよく似ていた。動物の声には聞こえない。何か設備があり、そこで人が作業をしているなら、船や通信のことを聞けるかもしれなかった。
「見えるところまで行ってみない?」
レイナはそう言ってから、乃亜の足元へ目を移した。
「一人では行かないよ」
詩乃は頷き、乃亜の前へしゃがんだ。
「足、今はどう?」
「さっきより楽です。支えてもらえば、少しなら」
「途中で痛くなったら戻ろう。音が遠ざかるようでも、追いかけるのはやめたい」
「はい。ボクも、あまり遠くは怖いです」
詩乃は腕時計を見た。和真はまだ向こうで助けを求めている頃だろう。長く離れるつもりはなかった。戻る道を見失わない範囲で、音のする方が見通せればいい。
火が残っていないことを確かめ、水とライトを持った。
レイナに支えられた乃亜の歩幅は小さく、詩乃もそれに合わせて進んだ。足が引っかかりそうな枝を退け、時々振り返ってテントの方角を確かめる。まだ姿が見える場所で乃亜を休ませた時、もう一度、あの音が鳴った。
思っていたより近かった。
「そこ、平らなところある」
レイナが示した先では、斜面が浅く窪み、その奥に灰色の壁が続いていた。木の陰に隠れていた端を見つけてから、詩乃はそれが岩ではないことに気づいた。
乃亜を支えて近づく。正面へ回ると、壁面の中央に細い隙間があった。
「詩乃先輩、ここ。ずっと真っすぐです」
乃亜の指す継ぎ目を目で追った。縦に伸びた線が上で直角に曲がり、入口ほどの幅を囲んでいる。窓も看板もない。扉だとしても、取っ手や鍵穴が見当たらなかった。
「すみません。どなたかいらっしゃいますか」
詩乃は壁から少し離れた位置で声をかけた。
返事はなく、代わりに内側から振動が伝わった。レイナが乃亜を支える腕に力を入れ、詩乃も一歩下がる。
継ぎ目がわずかにずれた気がした。しかし、低い音が詰まるように止まると、扉はそこから動かなかった。
「……これが鳴ってたんだ」
レイナが声を落とした。
詩乃は入口と周囲の壁を見比べた。音の正体は見つけたが、人が使っている証拠はどこにもない。扉へ触れて確かめる気にはなれなかった。
「開けようとするのはやめましょう。誰も出てこないなら、一度戻って――」
足元で鈍い振動が始まった。今までよりも強い。詩乃は乃亜の肩を支え、レイナと一緒に扉の正面から離れた。
細い継ぎ目が黒い隙間へ変わり、厚い壁が左右へ引き込まれていく。今度は途中で止まらない。露わになった通路の床に、細い光が奥へ向かって点いた。
詩乃は、誰かが出てくるのを待った。
奥まで明るくなっても人は現れず、開いた扉も動かない。入口から見える床は平らで、少し先には横へ広がった空間があった。
「中に、誰かいませんか」
声が反響した。返事なのか、自分の声が返ってきただけなのか、詩乃には聞き分けられなかった。
「入口が見えるところまでね」
レイナに言い、詩乃は先に数歩入った。床は固く、森の土を踏んでいた靴では感触が違った。振り返ると、乃亜がレイナの腕を借りて敷居を越えるところだった。
その少しあと、外から足音が近づいてきた。
*
「――扉が開いたのは、和真さんが来る直前です。私たちも、入ったばかりで」
詩乃の説明を聞き終え、和真は入口を見た。
扉は開いたままだった。自分が森を走っていた時に聞いた長い音は、あれが動く音だったのかもしれない。
和真はバッグを床へ戻した。乃亜が右足を浮かせ気味に立っている。
「いったん座ろう。足を休ませたい」
壁際の平らな床に空きがあり、入口も見える。レイナと一緒に乃亜が腰を下ろすのを手伝っていると、通路の奥で足音がした。
和真は顔を上げた。
白い服を着た、小柄な少女が立っていた。
長い銀髪が肩から背へ流れ、服には見慣れない形の継ぎ目がある。淡い青の瞳が、薄暗い通路の中でも妙にはっきりと見えた。少女は迷わずこちらへ歩き、和真の数歩手前で止まった。
「──お待ちしていました、主」
和真は立ち上がりかけた姿勢で、その顔を見た。
「……俺のこと?」
「肯定。継承者権限への適合を確認しています」
聞き慣れない言葉だった。和真は詩乃の方を見たが、彼女も少女から目を離していなかった。
「君とは、初めて会うと思うんだけど」
「肯定。直接の対面は初めてです。私はリリス。この島の観測と管理を担う人工知能です」
声はすぐ目の前から聞こえていた。唇の動きも、こちらへ向けられた顔も、人間と変わらないように見える。
「人工知能って……その身体も?」
「人間ではありません。活動用の人工の身体です」
和真は返す言葉を探した。施設の中に人がいた、という理解さえ、今はできないらしい。腰を下ろした乃亜がこちらを見上げているのに気づき、通路を塞がない位置へ足を引いた。
「何を継ぐ人だと思ってるのか、教えてほしい。俺には心当たりがない」
リリスが横の壁へ手をかざした。
何もなかった面に、細い線が浮かび上がる。和真は思わず半歩下がった。画面が埋め込まれているようには見えず、光の下でも壁の表面は途切れていなかった。
「この施設を残した文明は、アステリアと呼ばれています。継承者は、その設備と記録を引き継ぐ権限を持つ個体です」
「アステリア……」
口にしても、知っている名前には結びつかなかった。
「俺が、そこにいた人間だってこと?」
「──否定。そのような記録はありません。確認できるのは、主が継承者の条件に適合していることです」
「その条件は何なんだ」
リリスの指先で表示が切り替わった。いくつかの行が現れたが、一部は文字の形を保たず、細かく崩れていた。
「認証結果は参照できます。選定の理由に関する記録は、現在、取得できません」
和真は読めない表示を見つめた。
自分を知っている相手に、ようやく会えたのかもしれないと思った。知らない島にテントごといた理由も、ここへ来れば分かるのかもしれない。だが、目の前の少女が持っているのは、自分には覚えのない判定の結果だけだった。
「俺は、気がついたらこの島にいた。テントも道具も一緒に。君が何かしたわけじゃないのか」
「私が主を移動させた記録はありません。移動の原因も特定できていません」
詩乃が表示を覗き込んだ。
「分からないことが、多いんですね」
「肯定。記録の一部が失われ、接続できない領域もあります」
詩乃は壁の光を見たまま、手にしていたライトの持ち手を握り直した。
「外と連絡を取る方法はありますか。私たちの電話は、ずっと使えなくて」
「外部への通信は、現在、確立できません」
詩乃は、手にしていたライトを下ろした。こんな設備があっても、電話一本の代わりにはならない。
「主。外部の状況について、確認したいことがあります」
「何?」
「島の外で、人間と接触しましたか」
和真の背筋が固くなった。
「してない。隣の島へ行ったけど、一人も見つからなかった」
リリスはしばらく答えず、壁の表示へ視線を向けた。細かな点の並んだ図と、その隣に数列が浮かぶ。何を示しているのか和真には分からなかったが、途中を境に表示の量が大きく変わっているのは見て取れた。
「……観測の異常と、一致する可能性があります」
「どういうこと?」
レイナの声が割り込んだ。
「人間の生命反応が、広範囲で、ほぼ同時に観測できなくなっています」
和真は壁の図を見たまま動けなかった。どこを描いたものかも分からない。数字が減っただけの表示から、人の不在を受け入れられるわけではない。
「観測できないって、機械の故障じゃなくて?」
「観測系統の異常は否定できません。ただし、従来の記録にはない変化です。人間側に大規模な異変が起きている可能性があります」
乃亜が膝の上の携帯電話を見つめた。画面をつけ、圏外の表示が変わらないことを確かめるように、指を止めている。
「反応がなくなった人は、どうなったんですか」
その声を聞き、和真は乃亜の方を向いた。
「──不明です」
「死んだっていう意味じゃ、ないですよね」
「生命反応を失ったことと、死亡を確認したことは同じではありません。移動先も、状態も、現在の情報では判断できません」
乃亜は頷かなかった。けれど、それ以上は聞かなかった。
隣島で見た家々には、人が争った跡も、倒れている姿もなかった。それは安心できる事実のはずなのに、今は何がなかったのかばかりが頭に残る。
「本土は?」
しばらくして、レイナが聞いた。
「あたしたちの家がある方。そっちは、人がいるか分かる?」
「特定の住居や個人の状態までは確認できません」
「じゃあ、まだいるかもしれないんだね」
「その可能性を否定する情報はありません。ただし、いると保証することもできません」
レイナは唇を結び、和真のそばに置いたバッグへ手を伸ばした。肩紐のねじれを直してから、その手を止める。
開いた入口の向こうには、森が見える。その先にテントがあり、入り江には高速艇がある。朝は助けを呼ぶために一人で海へ出た。今度は戻ってくる誰かを待つのではなく、自分たちで家まで確かめに行かなければならないのかもしれなかった。
「私……」
詩乃が言いかけて、息を吸った。
眼鏡の奥の目が、壁の表示ではなく和真へ向く。
「家に、戻りたいです。確認していないのに、いないとは思いたくありません」
声は大きくなかった。それでも、和真には、詩乃が今までより少しだけ真っすぐ立っているように見えた。
「ボクも帰りたいです。足は……乗り降りを、手伝ってもらえますか」
「もちろん。あたし、手を貸すから」
レイナが乃亜の隣へしゃがんだ。
和真は自分のバッグを取り、地図のケースが入っていることを確かめた。燃料がどれだけ残っているか。海が荒れないうちに出られるか。決める前に、まだ見なければならないことはある。
「船、使えるんだよね」
レイナが顔を上げた。
「本土まで行ける?」
「燃料と距離を確かめたい。ここまでは問題なく動いた」
「じゃあ、戻って準備しましょう」
詩乃が言った。
和真は頷いたが、すぐには歩き出さなかった。リリスへ向き直る。
なぜ自分が主と呼ばれるのか。この施設はいつからあり、誰が残したのか。聞きたいことはいくつもあった。しかし、目の前の表示を読み解くことより、先に確かめたいものがある。
「リリス。俺たちは本土へ行く」
「──確認しました」
「君の話を全部理解できたわけじゃない。継承者って言われても、まだ何をすればいいか分からない」
リリスは口を挟まず、和真を見ていた。
「でも、家に誰かいるかどうかは、自分たちで確かめたい」
返答を待つ間、和真は地図のケースを握り直した。指の付け根が痛んだが、今度は力を緩めず、そのままバッグへ収めた。




