覗き注意報
「ねえなんで付いてきたの……!?」
「暇だから」
「はあ……!?」
あの後、朝と昼と夜全てを兼用したご飯を食べてきたというおばさんに挨拶をして、病室を出て、どうすれば本来の拓己を取り戻すことができるか考えながら、歩いていたから。
自分の家に着いて、自分の部屋に入るまで、拓己が後ろから付いてきていることに気付いていなかった。
下にはもうパートから帰ってきているお母さんが居るし、大声で騒げなくて、小声で問いただして。
けれど拓己はいつも通りの飄々とした態度で、床に敷いたラグの上に座っている。
普段は許可なくベッドに倒れ込むのに、今日は控え目だと思ったら、既にベッドは試して、すり抜けてしまったから床に居るようで呆れた。
なんで拓己はいつも通りなのだろう。
俺はこんなにも不安で仕方ないのに。
「もう……今からネットで調べるから、大人しくしててね」
「言われなくても」
「ふん!」
拓己の為に調べるのに!とまた腹を立てそうになるけれど、言い争う声が出せないし、そんな時間も勿体ないから、とりあえず着替えようとして。
「……見ないでよ」
「見ねぇよカス」
「カスっていう方がカス!」
「うるさ」
「あ」
せっかく頑張って抑えていたのに、応戦してしまって、口を押える。
けれど階下は静かで何もつっこまれないから、ギリギリセーフかなと思って、部屋の隅で制服から部屋服に着替えて。
まだ生地が固くて重い感じのする制服をようやく脱いで、ほっと息を吐いて振り返ると、拓己がこちらを見ていたから、叫ぶ。
「ぎゃあ!!」
「なによー!?」
「むっ、虫!!」
「えー!?やっつけといてー!」
「分かった!!」
今度はダメだった。
流石に階下のお母さんにまで届いたらしい。
咄嗟に虫が出たことにして難を逃れたけれど、お腹を抱えて笑っている拓己を思い切り睨んだ。
「見ないでって言ったのに」
「隠されたら見るだろ」
「変態」
今度から目の前で堂々と着替えてやる。
そう思ったけれど、それはそれで恥ずかしいし、拓己はいつまで居る気なんだ?と思って、ちょっと怖くなって考えるのをやめた。
できれば今日で終わってほしい。
明日には何事もなかったかのように、元に戻っていてほしい。
ベッドに倒れ込んでスマホのロックを解除すると、思い当たる単語を片っ端から調べていく。
幽体離脱、交通事故でオバケ、話せるオバケ、意識のあるオバケ。
けれど検索結果として出てくるものは全てフィクションのお話で、実体験なんてものは一切出てこない。
「うーん……」
「オバケ呼びすんじゃねぇよ」
「ぎゃあああああああ!!!!」
「なにい!?」
「むっ、虫!!!」
「またあ!?」
ベッドの下から顔だけ出してきた拓己に絶叫して、階下のお母さんに叫ばれて。
もはやオバケ姿を楽しんでいるというか、使いこなしている拓己を恨めしく思う。
「いや恨めしく思うのは拓己だろっ」
「はあ??」
驚きのあまりちょっと出た涙を拭いながら言うと、理解不能って顔をされて、その頭をパンチする。
けれど、当然当たらなくて悔しい。
物理干渉はできないのに精神干渉は得意なこのオバケが本当に恨めしくて、けれど、少しだけ、ほんのちょびっとだけ、楽しいと思っている自分が居た。
「……お風呂、覗かないでよね」
「そもそもの需要がねぇわタコ」
「はー!タコって言う方がタコ!」
「人だわ」
「オバケでしょ」
ぎぃ!と睨み合って、互いにそっぽを向く。
やっぱり、ちっとも楽しくなんかない。




