容赦のない注意報
「はよ」
「おはよう。体調は大丈夫?」
「おー、昨日は思い出した後、情報量が多くて頭パンクするかと思ったけど。寝たらマシんなった」
「そっか……」
十五年傍に居た俺との思い出が、一気に呼び起こされたらそれは凄い量だろうなと思う。
昨日拓己はいつも通りだったけれど、実はまた苦しんでいたのだと思って胸が痛くなった。
「颯太」
「うん」
「颯太のせいじゃねぇ。ていうか、颯太のお陰で生きてる」
「……え?」
並んで歩き始めて、拓己がそう言うから首を傾げる。
俺の記憶を失う前より、後より、どこか雰囲気が柔らかくなった拓己と目が合った。
「昨日考えてた。颯太は、颯太の言葉で俺が事故に遭ったと思ってるだろうけど違うぞ」
「……」
「確かに颯太の言葉は刺さった。でもそれは俺がもっと腹括って、颯太にアピールしたり、告ってればよかった話で」
「……そんな」
生涯俺の傍で生きると決めながらも、墓場まで俺への気持ちを持っていくと決めていたらしい拓己。
全然知らなかったとはいえ酷いことを言ったのは確かだし、遅かれ早かれ俺も拓己への気持ちにはいつか気付くことになっていたと思う。
そうなれば苦しむのは俺のはずだった。
拓己が俺の言葉を受けて、本当に誰かと結婚して、どこかへ行ってしまった後、酷く後悔するのは俺のはずで。
やっぱり俺の言葉は許されるものではないと思う。
嫉妬とか、独占欲とか、そういう気持ちから出てしまった言葉だとしても、拓己を傷付けたことには変わりないから。
「でも、だからこそ、生きたんだよ。頭打つって相当マズい状況だぞ。あのまま死んでてもおかしくなかった。でも颯太の言葉があったから俺は颯太にキスして。そのことがすげぇ心残りで、体から切り離されてまで颯太の元へ飛ぶほどに、俺を強くここに引き留めてくれた」
「……拓己」
「十年以上の片想い舐めんなよ」
「……っ」
昨日枯れるまで泣いたと思った涙が、また溢れて拓己の姿が滲む。
俺だって幼い頃から拓己がずっと一番で、多分、あの幼い日の夏祭りで、俺を人混みから助けてくれた拓己を見た時からもう、とっくに恋だったんだと思う。
傍に居ることが当たり前すぎて、気付けていなくて。
傷付けて、失いかけて、気付いたこと。
「俺ずっと拓己が好きっ、だった、気付くの遅く、てごめん」
「泣くなよ。連れて帰るぞ」
「……うん」
「あ?」
「連れて帰って」
「……は」
「拓己……と、したい」
「……おい」
立ち止まると、拓己も一歩先で止まる。
ずっと考えていたこと。
拓己ばかりに辛い思いをさせて、俺も何か、とずっと準備していたこと。
「心の準備、はできてた。後は体……の、準備だけで。多分、もう、大丈夫」
「は……?颯太、お前」
「痛くても、あの、大丈夫。初めてだから……上手くできないかもだけど」
「……颯太」
「拓己……しよ?」
「……っ」
息を詰まらせた拓己に、腕を掴まれて、今来た道を戻っていく。
俺の両親はもう仕事に出ているから、学校は休むことになるけれど、今がよかった。
ずっと我慢させて、俺もずっと我慢していたことを、今、拓己としたかった。
「んっ、たっ、くみ」
「は……まじ……くそ」
玄関に入ってすぐキスされて、俺も拓己に掴まりながらキスを返す。
いつもは逃げてしまう舌にも、ちゃんと応えた。
そんな俺に拓己は切羽詰まった様子で、離れると俺の手を取って、俺の部屋に向かう。
俺から誘ったけれど緊張で今すぐ逃げたくて、でもやっぱり今すぐ触れたかった。
「拓己……んっ」
部屋に入ると、俺から拓己に噛み付く。
俺を片腕で支えてくれた拓己は、カバンを下ろすと俺からもカバンを回収した。
「颯太」
「や、なんで」
拓己が俺を引き剥がしてくるから問う。
自分で思うよりもずっと、俺から出た声も切羽詰まっていて耳が熱くなるのを感じた。
「ベッド行くぞ」
「あ、」
拓己の声が低く、欲を孕んでいて腰にくる。
また腕を引かれて付いていけば、いつもは強く引いて投げられるのに、今日は先にベッドへ乗った拓己に柔く手を引かれて、くらくらした。
「た、くみ」
「うん」
「好き」
「はあ……俺も、好きだ」
「う、んっ」
好きと伝えて、好きと返してもらえることに震える。
全てを取り戻した拓己が、まだ俺を好きだと言ってくれることに、また泣き出しそうだと思った。
「ん、んっ、あ」
いつもより容赦のないキスが、お互いもう止まれないことを表していた。
「ん……拓己……」
「もう一回?」
「ちがっ、スマホ……鳴ってる」
「放っとけ」
「こらっ、俺もう、動けないってば」
クタクタで動けないから拓己を押しやると、裸のままカバンの所まで歩いていくから慌てて目を覆う。
「ばか!服着て!」
「はあ?お前も全裸だろうが」
「ぜっ!?言うなばか!!」
俺は掛け布団に包まってるからいいの!と思うけれど、戻ってきた拓己が容赦なく捲ってくるから叫んだ。
「うわあああ変態!」
「……もっかい鳴かす」
「や、だめ、スマホ……!」
「……」
渋々差し出してくれるスマホを受け取れば、拓己も布団の中に入ってきてまた暑くなる。
抱き寄せられると恥ずかしくて、軽く息を吐いた。
「……お母さんからだ。学校から連絡来たけど大丈夫?って」
「あー、俺に付き添ってるって言っとけ」
「え」
「貸せ」
「あっ、ちょっと!」
俺からスマホを奪った拓己は、俺のお母さんに『拓己がしんどそうだから付き添ってた。俺は大丈夫』と、あっという間に送ってしまう。
それから拓己も自分のスマホを開いて、何か操作していたからおばさんにメッセージを送ったのかなと思った。
「おし、てことでもう一回すんぞ」
「あ……えっ!?」
「颯太の期待には応えねぇとな」
「やっ、ちがっ」
「あんな大量のゴム用意しといて?」
「あ、あれはっ、サイズが分かんなかったから、で!んんっ!」
あれこれ用意したのが裏目に出た。
結局また宣言通り鳴かされて、泣かされて。
「もうしない……!」
「はいはい。これからいっぱいしような」
「へん、たい……」
力尽きて眠る寸前、拓己が満足そうに笑う吐息を聞いた。




