初恋注意報
「……た、颯太。起きろ」
「ん……ん?」
ふと目が覚めると、拓己の声がする上にまだ明るくて、一瞬ここがどこか分からなくなる。
ぼんやりと見えた拓己は何故か、はだ……か……で。
「ぎゃあああ!」
「うるっせぇ」
「なんで……!?あ……ああ、そっか……」
「あ?もう忘れたのかよ。もっかいするか」
「ち、ちがう!」
寝ぼけてただけだって!と、寄ってくる拓己から逃げて、ベッドを降りる。
布団ごと逃げたから視界の端で拓己の堂々たる姿が見えたけれど、見ないふりで服を集めるととりあえず身に着けていった。
「あ、待て、私服にしろ。図書館行くぞ」
「へ?」
「そろそろ放課後だけどまあ、私服の方が目立たねぇだろ」
「うん……?」
何故図書館へ?と思うけれど、ズボンを履こうと上げていた片足を下ろしてクローゼットへ向かう。
背後でも衣擦れの音がしているから、拓己も服を着ているのだと分かった。
「俺一回帰って着替えてくる。三十分くらいで戻るから、颯太もシャワー浴びとけ」
「あ、うん」
そういえば触れ合ったまま眠ってしまったから、シャワーを浴びたい。
とりあえず布団に隠れながら部屋着を身に着けると、背後で音がして、気が付けば拓己の腕に閉じ込められていた。
「なっ、何!?」
「準備、ありがと」
「あ……うん、俺も何か拓己の為にしたくて。それに俺も……したかったし……」
「よし、ベッドに戻るぞ」
「はあ?ちょっ、こら!」
「はは」
体を左右に振って抵抗すれば、笑って離れていく拓己。
ようやくちゃんと見られた顔は、とても柔らかく優しい表情をしていて、肩の力が抜けた。
「じゃあ後で。本持ってこいよ」
「分かった」
「シャワー辛かったら待っとけ。洗ってやる」
「だ、大丈夫……!」
そっちの方がえらい目に合いそうだと警戒すれば、笑った拓己は触れるだけのキスをくれて、部屋を出ていく。
そのまま玄関が開いて、閉まる音を聞いた俺は、勢いよく崩れ落ちた。
「はあ死ぬかと思った……!」
拓己がかっこよすぎて。
拓己が優しすぎて。
拓己が丁寧すぎて。
拓己に甘やかされすぎて。
拓己に色気がありすぎて。
それから、その……気持ちよすぎて。
「はあああ……」
暫く拓己の顔まともに見られないかも。
自分のベッドすら直視できなくて、そのままぼうっと記憶に浸りそうになって。
けれど約束に間に合わせる為、頑張ってシャワーを浴びに向かった。
「居た」
「えっ!」
なんとかシャワーを浴びて、着替えて、拓己との待ち合わせに間に合った俺は、拓己に体を気遣われつつやって来た図書館で、オバサマの姿を探していた。
先に見付けた様子の拓己が歩いていくから、付いていけば俺もオバサマの姿を見付けて。
足音に気付いたオバサマと目が合って、思わず駆けて寄った。
「あの、あのっ……!」
「あらあら」
すぐに分かってくれたオバサマに促されて、俺たちは揃って図書館の外へ出る。
それから俺がオバサマと二人で話したベンチへ誘導されて、今日は三人並んで腰を掛けた。
「記憶が戻ったのね」
「はい……!あの、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
俺が頭を下げると、拓己も頭を下げているのが分かる。
けれどオバサマに肩を支えて引き上げられて、二人揃って頭を上げた。
「おかえりなさい。お二人の頑張りのお陰ね」
「……っ、はい。あの、本当にお世話になりました」
「こちらこそ。会いにきてくださってありがとう。お会いしてみたかったのよ、あなたの最愛の人」
「う……あ……はい……」
穏やかに微笑むオバサマに、強く否定はできなくて頷く。
拓己の方から強い視線を感じたけれど、振り返る勇気は当然なかった。
「生きている間に沢山、沢山、お二人でお話してね。例えぶつかったとしても、また沢山お話をしてね。伝えなければ、何も無いのと同じよ」
「はい……はい!沢山、伝えます」
「ええ。私だって、愚痴も惚気もいつでも聞くわよ」
「へっ」
オバサマの美しいウィンクを受けて、思わず見蕩れてしまう。
お茶目な一面だからというのもあるけれど、本当に楽しそうで、心からの言葉だと分かって。
拓己に向かってもウィンクをしているから、思わず笑い出せば、オバサマも笑ってくれる。
ほっと力の抜けた背を、拓己がそっと支えてくれた。
「二巻、また一緒に読もうね」
「ん」
「この本……元から思い出の本だったけど、一生忘れられない本になったや」
「……俺も」
「へへ。ねぇ、拓己」
「ん」
「好きになってくれてありがとう」
「……うん」
「大好きだよ」
「俺も、愛してる」
「は……はあ!?超えてくるのズルくない……!?」
「はは」
夕焼け色の道を歩く。
長く伸びた二つの影は、俺らと同じ動きでじゃれて、触れ合っていて。
影が一つしか伸びなかった日を思い出して、この時間も全て、当たり前ではないと胸に刻み込む。
沢山遠回りをした。
けれど今は、拓己の傍が俺の居場所で、俺の傍も拓己の居場所だと胸を張って言える。
これからはもっと沢山話して、もっと沢山、伝え合っていこう。
「俺と恋してくれてありがとう」
「っ、はは……こちらこそ」
泣きそうに笑う拓己は、夕日を受けて、輝いていて。
俺はこの光景をきっと、一生忘れないだろう。
完結です!
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
最初は五万字程の軽快なお話にするぞ〜!と思っていましたが、気が付けばしっかり悩み、もがく姿を十万字以上書いていました。
とても楽しく書き切りましたが、いかがでしたでしょうか!
ご感想等いただけましたらとても嬉しいです!
見つけていただきありがとうございます!
お読みいただきありがとうございました!!




