攻防注意報
「……今日、なんで顔険しかったの?」
これ以上は、って拓己を止めた俺は、ベッドの上で、拓己に抱き締められたままで。
何度か脱出を試みようとしたけれど、離す気のない拓己に諦めるしかなくてそのまま話しかける。
拓己は寝そうな雰囲気で、でも俺の声を聞いて俺を抱き締め直すと、静かに息を吐いた。
「頭痛ぇの」
「えっ!?」
「うるせー」
「あ、ごめん、でも、えっ、大丈夫?」
それは一大事じゃないか、とモゾモゾ動いて、拓己の顔を見る。
けれど拓己は自分の顔を隠すように俺の頭を抱えて、拓己の胸元に押し付けてくるからよく見えない。
「お前のことを考えると痛くなる。だからいつもすぐに休憩してたけど、今日はそれでも無理やり思い出そうとしてるから」
「え……あ、そんな、ダメだよ、無理しちゃ」
「俺が思い出してぇの」
「……拓己」
わがままだけれど、俺の為のわがままでもあって。
拓己の背に回した腕で、背中を撫でると拓己が少し笑う吐息が聞こえた。
そっか、今日拓己の顔が険しかったのは、不機嫌とかじゃなく頭痛を耐えていたからなんだ。
言ってくれたら保健室に連れて行くなりなんなりできたのに、と思うけれど、拓己は自分のピンチこそ言わない傾向にあるなと思う。
それなら俺がもっと拓己のことを聞いて、拓己以上に拓己のことを考えなくては。
俺は、その……拓己の、恋人……なんだし。
「ありがとう拓己、大好き。でも本当に無理しないでね」
「お前……煽るなら今すぐ覚悟決めろ」
「え?……あ、え!?」
一度だけ腰を強く当てられて、そういうことかと顔が熱くなる。
俺ばかり反応しているのだと思っていたけれど、拓己も我慢して、堪えてくれているのだ。
堪らない気持ちになってしがみつくと、大きく息を吐いた拓己が俺の頭を雑に撫でる。
付き合ってからの拓己は仄かに甘くて、そして優しい。
「拓己の暴言ってさ、俺だけ?」
「あ?」
「小春さんが言ってたでしょ、俺には暴言を吐くって」
「ああ……」
お昼に気になっていたことをついでに聞くと、拓己は俺の髪を雑にかき混ぜながらも、思い出してくれたようで。
けれど何も言わずただ俺の髪を混ぜ続けるから、頭を振って止めさせた。
「拓己」
「……ん、言ったろ、いじめたくなる、って」
「うん」
「それ」
ど……どれだ!?
説明を終えて満足したらしい拓己が、また俺の髪を混ぜてくるから頭を振る。
俺はまだ満足していない、納得していない。
撫でる拓己と拒否する俺で暫く攻防を続けていたけれど、先に諦めたのは拓己だった。
「んだよ」
「全然分かんない、どういうこと」
「ああ?だから……あー……好きな奴って、いじめたくなるだろ」
「ああ……えっ!?」
「うるせぇ」
なだめるように脚でも抱え込まれて、もっと身動きができなくなって困る。
けれど聞き捨てならない。
好きな奴だから俺に暴言を吐いてたの?
いじめたい、って、そういうこと!?
拓己の暴言は割と幼い頃からのことだし、そういう人なのだと受け入れていたからまさかの理由だった。
思い返せば他の人に暴言を吐いている姿はなかった……かもしれない。
俺の記憶を失う前から俺を好きでいてくれた拓己。
いつから俺のことが好きだったんだろう、と思って、でもそれなら説明がつかないことが一つあるなと思った。
「で、でも拓己、小春さんにも時々言うよ」
「あー?あいつは単純にうぜぇ」
「はあ?」
物凄く失礼だぞと拓己の背中を叩けば、耳を噛まれてそれどころでなくなる。
けれど拓己の背に回していた腕を離して逃げようとすると収まったので、新たな拓己の制御方法を見つけたなと思った。
「あいつはお前を狙ってる節がある。油断するな。蹴散らせ」
「ええ?ないよそんなこと。拓己こそお似合いなんだから気を付けてよね」
前に二人がお似合いだと思ってしまって少し落ち込んだことを思い出す。
今は奇跡的に俺の恋人だけれど、二人が並んでいたらやっぱりお似合いだなと思うのだから、拓己こそ油断しないでほしいと思った。
「お似合いとか思ってんのか」
「え、まあ……拓己は背が高いし、かっこいいし。小春さんはクラス一小さくて、可愛いし。並ぶと様になるよね」
「可愛いだあ?」
「い、一般論ね」
眠そうな声から一転、小学生くらいなら泣き出しそうなほど圧のある声が聞こえて、慌てて訂正する。
拓己は溜め息を吐くとまた俺をちゃんと抱き締めて、背中を柔く叩いてきた。
「似合うとかどうでもいい。俺はお前が好きだっつってんだろ」
「あ……う、はい」
「まじでなんで忘れてんだよ俺……」
拓己の真摯な声に返事をすると、弱ったような呟きが聞こえて苦しくなる。
拓己だって忘れたくて忘れた訳ではないのだと分かって、嬉しいような、切ないような気持になった。
「でも、二度も愛してくれたんでしょう」
「……うるせぇ」
「はは」
拓己がくれた大事な言葉だ。
こんな経験、滅多にないと思う。
拓己が俺との記憶を思い出してくれたらそれが一番嬉しいけれど、今こうして俺を好きだと言って、俺の傍に居てくれるだけで幸せだった。
「大好き」
「……お前まじでいい加減にしろ」
「あ、ごめっ!ごめんってば!はははは!」
溢れた想いをそのまま口にしたら、くすぐり攻撃を受けて息ができないほどに笑う。
ヘトヘトになって荒い息を吐いていたら「えろい顔すんなボケ」とまた拓己にくすぐられて散々だった。
そうやって俺をくすぐりながら、悪い顔をしてこちらを見る拓己だって「えろい顔すんなボケ」に相当するなと思って、流石に言えないから赤面した。




