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オバケな幼馴染と以心伝心、初恋注意報!?  作者: 雨宮ツムグ


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戸惑い注意報

「おはよう、あの」

俺は登校してすぐ、拓己に頼まれていた物を渡す。

昨日拓己を見送ってすぐ、『アルバムがあれば見せろ』ってメッセージがきて。

慌ててクローゼットを引っくり返して、掘り出したアルバム各種をカバンに詰め込んで、飛び出そうとしたら、スマホが鳴って。

見れば、『来んなよカス、明日学校でいい』ときていて、ちょっと部屋を見回した。

どこかで見られているのかと思うほど、的確な言葉とタイミングだったから。

まさに拓己の家へ突撃しようとしていた俺は、荷物を下ろして、『分かった』と返信していた。

だから今日、学校に持ってきていたのだ。

幼稚園と、小学校と、中学校の、卒アルを。

もちろんその全てに俺と拓己が載っている。

だから長い付き合いであるという確固たる証拠して堂々と渡すと、拓己は特に何も言わず受け取って、自分のロッカーへ入れに行った。

その様子を目で追っていたら、小春さんがこちらを見て、嬉しそうに両手をグーにしていて。

長谷川君と話せて良かったね!って声が聞こえてきそうな小春さんに微笑んで返すと、大きな音がして、教室がざわついた。

「だ、大丈夫か長谷川……?」

「……大丈夫」

音の原因は拓己だったらしい。

また扉に激突したようで、周囲のクラスメイトに心配されながら廊下へと出ていく。

昨日からやたらとぶつかっているし、体がすり抜けていたオバケの頃の感覚が抜けてないのかな、と思って少し笑う。

やがてロッカーにアルバムを入れてきた拓己が戻ってきて、にこやかな俺を見て思い切り顔を顰めたから、ちょっとだけムッとした顔で返した。


「良かったねぇ、滝藤君」

「うん。気に掛けてくれてありがとう」

掃除の時間で、また話し掛けてくれた小春さんにお礼を伝える。

完璧に元通り……とはいかなかったけれど、小春さんが拓己と話すきっかけを作ろうと、日々頑張ってくれていたのは嬉しかったし、気持ち的な支えでもあったから。

「そういえば、今朝は何を渡してたの?」

「ああ〜……アルバム、をちょっと」

「えっ!滝藤君の?」

「まあ……卒アルだけど」

「ええっ!見たい!」

「えええ……?」

何を渡していたのか隠すのもなぁと思って言うと、思わぬ食い付きのよさで驚く。

斜め下から見上げられて、少し体を引くと、また距離を詰められて。

これアルバムを見せるまで逃げられないかも……なんて思っていたら、また大きな音が響いて肩が跳ねた。

「長谷川……お前マジで大丈夫か……?」

「……大丈夫」

見れば今度は拓己が机にぶつかったようで、落ちた教科書を拾っている姿が見えて首を傾げる。

一昨日とかは全然ぶつかりもせず、平気そうだったのに。

ああいう不思議な症状……?って、どこに相談すればいいんだろう。

オバケだった頃の感覚が抜けなくて……なんてことを相談できる先が思いつかない。

ただ慣れるしかないのだろうか。

オバサマに聞けば何か知っていたりするのかな?

じっと拓己を見ながら考えていたら、教科書を拾い終えた拓己が立ち上がって、俺を見て、また思い切り顔を顰めて。

「……仲直り……したんじゃ?」

「いやあ……はは」

真横に居た小春さんにも拓己のその表情がしっかりと見えたようで、困惑しているから苦笑いで返す。

仲直り……とまではまだ、いけてないんだ、はは。

そう言う前にチャイムが鳴って、俺たちは慌てて箒を仕舞いに行った。


「今日行く」

「へ?」

放課後、帰ろうぜーって賑わう教室で、拓己の声がして。

見上げれば、一瞬だけ目が合って、またすぐに逸らされる。

今、今日行くって言った?と聞き返したかったけれど、既に歩き始めた拓己を追うには、まだ荷物が纏まっていなくて。

「まっ、待って!」

手当り次第にカバンへ突っ込んで、あちこちぶつかりながら教室を出ると、何故か拓己と小春さんが、二人で廊下に立っていた。

「あ、滝藤君」

「へっ?はい」

「今ね、アルバム私も見せて欲しいなーって言ってたの」

「えっ」

掃除の時間にもそう言われたけれど、なんだかんだで流れたし諦めてくれたものだと思っていた。

けれど全然、諦めてはいなかったらしい。

別にアルバムを見せるのは嫌って程でもないけれど、なんとなく恥ずかしいし、拓己だって写っているし……。

ちら、と拓己を伺えば、拓己も俺を見ていて、膠着状態となった。

「あの……えっと……」

「コイツ、半目の写真が多いから恥ずいってよ」

「「えっ」」

拓己の言葉に驚く声が重なって、小春さんと目が合う。

小春さんはより一層目を輝かせていたけれど、俺は、拓己の機転に乗らせてもらうことにした。

「あはは……そう、俺写真苦手で……」

「ええ、寧ろお宝写真だよ〜!長谷川君が見た後でも良いから、ねっ!」

「ああうん、あはは」

全然めげない小春さんに少し困った笑顔を見せていると、拓己が歩き始めて焦る。

いくら家の場所が分かったとはいえ、あまり拓己を家の前で待たせることはしたくなかった。

退院したばかりだし、最近、暑くなってきているし。

「あっ、じゃあ帰るね!またね!」

「うんまたね!」

慌てて小春さんに挨拶をして拓己を追い掛けると、拓己はほんの少しだけ俺を見て、けれど歩みは止めなくて。

なんとなく付いていく形になって、気が付けば一緒に下校している、みたいな状況になっていた。

拓己の歩きはまあまあ早くて、俺は時々、小走りで追い付く。

何か話す訳でもなく、俺はただ歩いて、少し走って、拓己を追い掛けては、また離れていく背中を見る。

そんなことを繰り返していたら家まであっという間で、俺の家の前で、拓己が振り返って。

早く開けろって顔をするから、とりあえず玄関を開く。

昨日の拓己は肩身が狭そうだったのに、今日は俺が内側から鍵を閉めていたら、さっさと洗面所へ向かっていて。

何故か胸がきゅっとして、嬉しかった。

いつもの拓己の姿を、想起させたからかもしれない。

ぼうっとしていたら手洗いうがいを終えた拓己が戻ってきて、何してんだって様子で顔を顰めていて。

「あ、先行ってて!」

そう告げて慌てて俺も手洗いうがいをしに行くと、拓己が階段を上る足音が聞こえて、それにもちょっと胸がきゅっとした。

拓己が家に居る。

体が透けることなく、足音もちゃんと響いている。

その事実が、堪らなく嬉しかった。

「おまたせ」

追い掛けるようにして部屋へ入ると、拓己はラグの上に居て、アルバムを広げていて。

あの表紙の色は幼稚園だな、と思いながら近付くと、写真が見えるように少しこちらへアルバムを傾けてくれるから、驚いた。

これは一緒に見よう、ってことだろうか。

いや、正確には『見せてやるよカス』とかかもしれないけれど。

だからラグの端ギリギリに座って、覗き込むようにして見れば顔を顰められて、恐る恐る拓己へ寄る。

けれどそれでも満足いかないようで、仕方なく膝が触れないギリギリまで近寄った。

「どこだよハゲ」

「え、あ、同じ組だよ。あとハゲてないよ」

開いているページから数ページ進むと、俺と拓己が居た組の集合写真が出てくる。

もう何度もお母さんと、それから拓己とも一緒に見たアルバムは、何処に自分たちが写っているのかよく覚えていた。

「ほら、ここに拓己が居て、こっちが俺」

小さな頃の、小さな顔写真を指差せば、拓己は素直にじっと見つめている。

基本ずっと一緒だった俺たちは、アルバムの中でもずっと一緒で、お母さんたちが「探しやすいわぁ」ってよく言っていた。

それから次のページも指差して、また次のページも、その次のページも。

俺が示す所をちゃんと、じっと見ている拓己は静かでちょっと可愛い。

「幼稚園はこのくらいかな。小学校は多いよ」

人より背が伸びるのが早かった拓己は、クラスメイトが団子になっていても頭一つ抜けていて、見つけやすくて。

だからまず拓己を探せばその傍に必ず俺が居るから、小学校の卒アルは見つけるのがもっと簡単だった。

「こことここ、あとこっちにも」

見ながら、懐かしいなと思う。

遠足や修学旅行、運動会、季節の行事。

全部拓己と同じ場所で、同じ時に、同じことをした。

クラスは時々違ったけれど、お互い用があってもなくても、気が付けば廊下で鉢合わせて、ずっと話していて。

話題なんて昨日見たテレビとか、晩御飯とか、放課後何するかとか、そんな穏やかな会話が中心で。

具体的な内容はもう殆ど覚えていないけれど、楽しかったということだけは確かに覚えていた。

「こことかツーショットだよ」

教室の皆を写してくれたページでは、俺と拓己が給食を掲げて二人で写っている箇所があって。

それが俺も、お母さんたちも、お気に入りの写真だった。

あんたたち本当ずっと一緒に居るのね、って嬉しそうに笑うお母さんたちの笑顔もセットで、とても好きな写真の一つ。

「中学はあんまりないけど、クラスが三年間、全部一緒だったよ」

一人一人写っているページを見せて、これまでの思い出ページで、必ず一緒の集合写真を指差す。

改めて見ると本当にずっと一緒に居て、凄いなぁとどこか他人事のように感心した。

「ずっと一緒に居たんだ、俺たち」

拓己に聞かせているようで、自分に聞かせているような言葉は、思ったよりも寂しさが滲んでいて笑う。

ずっと一緒に居た。

それなのに……俺は、本当に酷いをことを。

改めて言ってしまった言葉を思い出して、もう一度、謝ろうとして。

拓己を見ると、拓己もこちらを見ていて、思わぬ近さに目を見開いた。

「あ……ごめ、んっ!?」

離れようとした俺に、拓己が手を伸ばしてきたかと思えば、首の裏を掴まれて、引き寄せられて。

だから、ごめん、って言葉はちゃんと言えなかった。

何故か拓己に、キスをされていたから。

「っは、なんっ」

なんで、急に。

そんなことを言いたいのに、何度も唇をぶつけて、食まれて、上手く言葉にできない。

触れるだけじゃないそのキスがやたら気持ちよくて、体から力が抜けると同時に、抱き留められた。

「なん……で……」

「……」

肩で息をしながら問う。

けれど拓己は何も答えず、ただ俺を抱き締める腕に力を込められた。

アルバムを見て、何か思うところがあったのだろうか。

もしかして記憶が……!?と思い至って、慌てて拓己から離れて、その顔を見る。

けれど拓己は思い切り顔を顰めていて、言おうとした言葉が全て飛んだ。

明らかに好きな人とキスをした顔では無かったから。

「……ムカつく」

「え?」

「お前……見てるとイライラする」

「はあ??」

そっ、それってキスした相手に言うことか!?

衝撃を受けていたら拓己が俺を引き剥がして、立ち上がり部屋から出ていこうとする。

「えっ……え?」

まさかと思ったけれど本当にそのまま部屋から出て行って、その後すぐ玄関の扉まで開く音がして、閉まる音がして。

そこでようやくハッとして、慌てて拓己を追い掛けるけれど、当然、拓己に追い付くことはできなかった。

「……うそでしょ」

突然キスされて、文句を言われて、逃げられて。

「……ええ?」

十五年もの付き合いがある幼馴染だけれど、今日が一番、拓己のことを理解できなかった。

「ええええ……?」

俺の戸惑う声は、誰にも届くことなく消えた。


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