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06:キャンプ(前編)

 キャンプ当日。朝からジリジリと容赦なく照り付ける太陽。絶好の?キャンプ日和だ。


私は少しだけ早起きをしてお弁当を作っていた。

初日の昼ごはんは各自持参、なんだって。美夕と相談して、横山さんと廣田くんの分を2人で用意することにした。


そのことをチーム横山のグルーブLINEに報告した。


 伊藤:美夕と4人分のお弁当用意していきますね


 横山:マジ!

 横山:(柴侍のスタンプ~かたじけない!)


 池内:料理下手ですからね 期待なしでお願いします


 廣田:ありがとう


数分のうちに次々とメッセージが届いた。横山さんの柴侍スタンプには少し笑ってしまった。



一番大きなお弁当箱に、から揚げや卵焼きを詰めていく。中高と、6年間自分でお弁当を作っていたので、お弁当作りはそれなりに慣れていた。こんなにたくさん用意するのは初めてだったけれど。


そしておむすびを5つ結んだ。美夕も同じくらい用意してくるはずだから、これくらいで足りるよね。


 それからもうひとつ、別のお弁当箱にも同じおかずを詰める。そちらにはおむすびも一緒に入れた。


[俺の弁当、作ってくれる?]


キャンプの2日前の夜に届いたメッセージは扇野くんからだった。海に行って以来2人で会ってはいない。試験とかでお互い忙しかったし、扇野くんは予定以外の連絡を送って来る人ではなかったから。連絡がこないから、私からも送らない。ただそれだけ。


久しぶりに届いたその短いメッセージに、私も用件だけを送り返した。


[いいよ]


 完成したお弁当を包んで保冷バックに入れる。持ち物をもう一度確認していたところでスマホが鳴った。


 廣田:着いた


待ち合わせ場所に私は、家のすぐ近所にあるコンビニを指定していた。そこなら迷わず来れると思って。


 伊藤:今行きます


返信を返して、2つの鞄を持って玄関へ向かった。


「行ってきます」



 3人で美夕を迎えに行く。美夕の家はバスで言うと3停留所分離れたところにある。車なら2分もあれば着く距離。


ネーヴェフレスカの外で会う横山さんと廣田くんは少し新鮮だった。歓迎会の時にも会っていたはずだけれど、私の記憶の中には扇野くんしか残っていなかったから。


挨拶をして「よろしくお願いします」と言っているうちに待ち合わせ場所に着いた。美夕との待ち合わせ場所もコンビニの駐車場。こういう時近所にコンビニがたくさんある街に住んでいてよかったなと思う。


「おはようございまーす」


美夕が元気に乗り込んでくる。ちょっぴり緊張していた私の心も一気に軽くなった。


「おはよ。まずさ、ネーヴェフレスカ行くから」


横山さんが軽快に車を走らせる。今日の詳しい予定は私たちには知らされていない。車を出してくれる人たちが相談して決めたらしい。横山さんは氷を調達する係で、そのためにネーヴェフレスカに立ち寄ってから、全員の集合場所である某ショッピングモールの駐車場に向かうそうだ。


 休業日のネーヴェフレスカはひっそりとしていた。支配人が通用口で私たちを待っている。毎年のことなんだろうなとわかる流れだった。


「おはようございます。氷貰いに来ました」


横山さんと廣田くんに続いて私たちも通用口から入っていく。

バックヤードには普段宴会時に使う大きなクーラーボックスが5つ並んでいた。


製氷機から横山さんがどさどさと氷を詰め込んで行く。ボックスいっぱいに氷が詰まったら、廣田くんが蓋を閉めて次のボックスを渡す。そして氷が詰まったボックスを車へ運んでいった。2つ目のボックスは美夕と私で一緒に運ぶ。そうして5つのクーラーボックスを運び終えると、支配人がワインを何本か入れた袋を横山さんに渡していた。


「楽しんで来いよ。気をつけてな」


「差し入れありがとうございます。じゃ、行ってきます」


みんなでぺこりと頭を下げて、再び車に乗り込んだ。


 次の集合場所までは10分ほどで着いた。既に待っている人たちもいる。こうして改めて見ると、車持ってる人多いんだな。私なんて免許すら持ってないのに。


横山さんがトランクを開けてクーラーボックスを地面に並べている。私たちもそれを手伝おうとしたら、「重いからいいよ」と断られてしまい、手持ち無沙汰でそれを見守っていた。


他の車から降りてきた人たちも、それぞれが荷物を持って横山さんの方へ向かってくる。晩ごはんのカレーの具材担当の人たちだったり、飲み物買い出し担当の人たちだった。


既に皮をむいてカットされた人参や玉ねぎがいくつものビニール袋に入っている。そこにドサドサと氷を放り込んで行く横山さんと廣田くん。ペットボトルや缶ビール、チューハイなんかもあって、それぞれに氷を配り歩いていた。


もしかして横山さん、一番の当たりくじ引いてくれたのかな?野菜の担当なんて明らかに外れくじだ。


 バイトリーダーの及川さんの号令で出発。みんなそれぞれの車に乗って、及川さんの車を先頭に次々と駐車場を出ていく。



横山さんの運転は意外にも?丁寧で、海までの道程はとても楽しかった。隣に美夕が座っている、というのも大きかった。


途中誕生日の話になり、お互いの誕生日を教え合った。横山さんは誕生日が過ぎたばかりで、もう21歳なんだって。廣田くんも既に20歳になっていると、この時知った。


カーステレオからは、横山さん選曲の音楽が流れている。ほとんどが去年から今年に流行った曲の中、1曲だけ知らない曲が混じっていた。私が知らないだけかも――と、触れずにいたところ、3回目に同じ曲が流れ始めた瞬間美夕が「あのー横山さん」と口を開いた。


「あのー横山さん、これだけ昭和くさくないですか?」


横山さんは前を向いたまま、カラカラと笑った。


「いい曲でしょ、池内ゃんこれ知ってる?」


「いや、知らないですね」



そこで会話が途切れた。車内には切ないバラードが静かに流れている。照り付ける真夏の日差しにはどこか似つかわしくない寂しげな曲だった。


「浜田 省吾」


横山さんが答えたその直後には、最新のヒット曲が流れ始めた。

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