05:チーム横山結成
ネーヴェフレスカは8月の2週目に3連休がある、と知った。その日は毎年恒例でアルバイト全員が海へキャンプに行くんだそうだ。出欠は問われなかった。つまりは全員強制参加、らしい。
事務所に配車表が張り出されていた。車を出してくれる人が左の列に並んでいて、同乗者が右に数名ずつ記入されている。私の名前は――
横山:廣田/伊藤
横山さんは、30人を超えるアルバイト勢の中で唯一国立大に通っている人で、学年はひとつ上。仕事上の最低限の会話しかしたことがないけれど、明るくて気さくで典型的な[頼れる兄貴分]といった感じの人。
廣田くんは私と同じ歳。ほぼ毎日シフトに名前がある働き虫。営業スマイルは完璧で、いつも余裕のある無駄のない動き、というイメージの人。けれどオフの時間に笑っている姿を見た記憶はなくて、横山さんと仲がいいってことだけは知っている。
廣田くんは横山さんと仲がいいからわかる。けど、どうして3人なの?他の車はみんな4人乗り、多い車は5人乗りまであるのに。
仲良し2人と同じ空間になるのは想像しただけで気が重くなり、私は美夕に声をかけた。
「ねえ、美夕も横山さんの車に来ない?」
美夕は美夕で、自分の割り振りが気に入らなかったらしく、「今頼んで来る」と自ら横山さんを探しに向かった。私も慌てて美夕を追う。
「横山さん、私も乗せてくださいよ」
気がつけば美夕は私の腕を掴んでいた。腕をちらと見た横山さんが笑って胸からペンを出した。
「いいよー、池内ゃんも家近かったよね。まとめて迎えに行くわ」
横山:廣田/伊藤/'池内'
そして元々書いてあった美夕の名前を二重線で消す。
「それじゃさ、チーム横山でLINE交換しよっか。仕事終わったら休憩室集合な」
その日の仕事を終えて、美夕と休憩室に向かった。横山さんと廣田くんが奥の席で缶コーヒーを飲んでいる。この日は宴会が押して仕事が長引いた。終バスまでの時間はあまり残されていない。私と美夕は飲み物を買うのを諦めて、2人が座る席へと向かった。
「お疲れ様です!バスまで時間ないので先に交換済ませていいですか?」
年上の私が言わなきゃ、と思っていたことを美夕が全部言ってくれる。つくづく自分が情けない。女の子相手ならすらすらと話せるのに、どうしても男の子を前にすると言葉が詰まってしまう。
横山さんと廣田くんは向かい合って座っていたので、美夕と私も同じように向かい合って座る形になった。美夕が横山さんの隣に座ったから、私は廣田くんの隣に行く。
4人で交換し終えると、横山さんが素早くグループを作った。その場でぷるんと3人のスマホが鳴り、スタンプが1つ送られ来た。
横山:(柴侍のスタンプ~敵ながらあっぱれ)
「うわっ!ダッサ!ほんとに'チーム横山'にするんですか?」
早速作成されたグループ名は、勤務前に横山さんが言ったままの名前だった。1ミリの捻りもないネーミングセンスに美夕が容赦ないダメ出しをしている。
「いいんだよ、こういうのはわかりやすさが一番なんだ」
美夕の言葉に動ずる様子もなく、横山さんは余裕たっぷりといった感じだ。
「てか、なんですかこのスタンプ!」
ここだけは私も美夕に同意するよ。空気読んでない以前の話だよね。横山さんは自覚があったのか、笑いながら言い訳をする。
「いやー、使う機会なくて持て余してたんだわ。やっと使ったわ」
「なるほど」
心の声のつもりが、うっかり声に出てしまった。横山さんが同志を見つけたかのように喜んでいる。
「いいでしょ、柴侍」
いや、私が納得したのはそこではないんですけれど......とりあえず営業っぽいスマイルを送っておいた。
「美夕、そろそろ時間」
終バスの時間が近づいている。私たちは同時に立ち上がった。
「お先に失礼します。お疲れ様でした」
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ!またな」
最後まで笑顔の横山さんの向かいでは、身体を後ろへ向けた廣田くんが右手を小さく上げていた。「お疲れ様」の意味みたい。
このチーム横山が、これから先私の大切な居場所となっていく。それに気がつくのはもう少し先の話。




