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28/32

28:準備

 私はもう一度だけ律くんに相談することにした。あの扇野くんのことだ。2度断ったから安心、とは言い切れなかった。


「嫌な話してごめんね。扇野くんしつこいんだ。断ってるのに会いたいって電話してきて迷惑なの」


今度も律くんは一緒に考えてくれた。カップを両手で持って、しばらくどこか1点を見つつ考えている。


「女の子のことで相談したいことがある、とか」

「扇野さ、そう友達は多くなさそうだった」


律くんは慎重に言葉を選んで話しているようだった。私なら、相談相手すらいないなんて可哀想な人だねって突き放してしまいそうなのに。私はあまり気が進まないなと思いつつも律くんに聞いてみた。


「律くんは、会った方がいいと思う?」


「そうだな……」


一度そこで言葉が止まった。


「一度会えば済むかもしれない」


律くんが言うならそうしようかな。毎日昼休みを邪魔されるのも迷惑だし。


「けど、土曜日は嫌だな。平日、仕事の後の珈琲1杯くらいなら」


うん、と律くんは頷いてくれた。

けれど、私は扇野くんと2人だけで会うのがどうしても気が進まなかった。強引な人だもの。私の意見なんてちゃんと聞いてくれる人じゃないから。


「あのね、律くん。もしまた誘ってきたら30分だけって言ってみる。律くん迎えに来てくれる?」


「いいよ、沙樹」


トン、と律くんの肩に頭を乗せる。律くんが静かに頭を撫でてくれた。



 案の定翌日の昼休みにも電話は掛かってきた。自分が満足するまでは必死になれる人。今はまだ満足していないんだ。


「はい」


『会ってくれる気になった?』


やっぱり自信満々な人。私が折れて会うと信じて疑わないんだね。


「場所と時間は私に決めさせて」


意外だったのかな?すぐに返事はなかった。


『うん、いいよ』


嬉しそうな声が返ってくる。私は嬉しくなんてないよ。どうして「いいよ」と言われなければならないの?でもそんなやり取りを続けるつもりはなかった。


「少し考えさせて」


『ねえ、伊藤さん俺のLINEブロックしてるでしょ』


してるよ。5年も前にブロック済だよ。別にそれがバレても気まずくはなかった。


「うん。解除もしない」


笑ってる。嫌な感じ。


『んじゃ、明日また電話するよ』


仕方ないよね。明日までに時間と場所を考えておかなくちゃ。


「うん」とだけ答えて通話を切った。



 帰宅後、まずは律くんの予定を聞いた。仕事が長引きそうな日は避けたいから。それで、次の火曜日に決めた。扇野くんの都合は知らない。その日が無理ならおしまい。

場所はどうしよう。自宅の近くを避けるのは大前提。律くんが仕事の後に寄りやすい場所にしよう。


「沙樹、その日は車置いていくから、沙樹の行きやすい場所でいいよ」


律くんは車で通勤している。車じゃないと少し不便な場所にある小学校だから。ありがとう律くん、迷惑かけてごめんね。


「O駅にしようかなと思って。駅の近くにカフェが向かい合っているところあるでしょう?」


その1軒は律くんと一緒に行ったことのあるカフェだ。向かいにあるのは大きなコーヒーチェーン。2フロアがそのお店になっている。チェーン店ではない方の小さなカフェにしようと思った。律くんは「わかった」とだけ言ってくれた。


「19時半には着けると思う」


律くんがそう言ってくれたので、扇野くんとは19時に待ち合わせることにした。きっと彼は遅れてくる。でもそれでいいんだ。その分会う時間が短くて済むから。

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