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26:不審な電話

 さっきまで美夕と彼氏さんが我が家に遊びに来ていた。仕事終わりの金曜日の夜。私はいつもより少し早く職場を出て、家に帰り簡単な夕食の準備をする。美夕が「なんか買っていくから」って言ってくれたので、ほんとささやかなものだけになっちゃった。


律くんも帰ってきて、続きの準備は2人でやった。律くんは1人暮らしが長かったから、家事はなんでもできる人。2人で暮らし始めて、知らないうちになんとなくできていたルール。~できる方ができることをやる。私が残業で遅くなった日は、律くんがごはんを作ってくれることもある。私の旦那さんは欠点が見当たらない。知れば知るほど好きになる人。


 つい惚気てしまった。美夕たちとの話だね。

2人は、私たちの新婚旅行の写真を見たいって遊びに来てくれた。彼氏さんとははじめましてではなくて、何度か4人で会っていたりする。チーム横山とは違う、新しい4人の時間。彼氏さんと律くんもなんだかんだ仲良しになっている。


旅行ではアテネからサントリーニ島、そしてミコノス島を巡ってきた。とても素敵な国だったよ。ミコノスにはたくさん猫がいて、なんだか律くんがこの島に来てみたかった理由がわかったような気がした。観光客にすっかり慣れているのか、人見知りとは無縁な可愛い猫たちだった。


たくさんの写真を4人で見ながら、ゆっくりとワインを空けた。そして早めのお開き。律くんと私は明日はお休みだけれど、美夕たちにとっては週末の方が忙しいものね。


「また遊ぼうね」


そう言って2人は帰っていった。


 月曜日から金曜日まで仕事に行って、週末はだいたい2人で一緒に過ごす。

そんな小さな幸せがいっぱい積み重なった生活を送っている。律くんにとってもそうだといいなと思う。


 結婚して、名字が変わって、1年と少し過ぎた頃、少しだけ奇妙なことが続いた。

始まりはお昼休みに社員食堂で昼食をとっていた時だった。鞄の中でスマホが揺れている。その時間に電話がかかってくることはとても珍しく、律くんの急用かもと慌てて鞄の中に手を入れた。


表示されているのは知らない番号。


なんだ迷惑電話か。

震え続けるスマホを鞄の中に戻して、食後のアイスティーに手を伸ばした。「知らない番号には出ない」今の時代、それでいいよね。


けれど、その電話は一度きりでは終わらなかった。


 見知らぬ番号からの着信はその後も続いた。


平日の昼休みには毎日、それから夕方。週末には朝からかかってきたこともあった。

最初は気にも留めていなかったけれど、だんだんと気味が悪くなってきて、その番号を検索してみた。けれどスマホの持ち主の情報は出てこなかった。


思い切って律くんに相談してみることにした。


「あのね、先週から知らない番号から着信があるの。あまりにも回数が多くて気味が悪くて」


私はスマホの中に並んでいる着信履歴を見せた。

[廣田 律]と書かれた黒い文字の前後にずらりと並ぶ[080-××××-××××]の赤い数字。


画面をちらと見た律くんは、少し考えるように俯いた。


「誰かと間違えているのかもしれない。沙樹がこの番号を使う前の持ち主の知り合いという可能性もあると思う」


律くんのその言葉に、この一週間抱えていた不安は嘘みたいに消し飛んだ。


「そっか。全然思いつかなかった。あり得るね」


結婚するタイミングで私は、律くんと同じ携帯会社に機種変した。その時敢えて新しい番号に変えた。親しい友達全員に連絡はしたし、番号を変えたことすら忘れていた。


「もし、またかかってきたら出てみるね。向こうも連絡が取りたくて困っているのかもしれないし」


律くんは、微笑んでこくりと頷いてくれた。



 次の日の昼休み、早速その電話がかかってきた。いつものように社員食堂で昼食を終えて、同僚たちと食後のアイスティーを飲んでいるタイミングだった。


「ちょっと電話してきます」


立ち上がり、食堂の外に歩きながら[応答]をタップする。


「はい」


素性の分からぬ相手。もちろん名乗るつもりはなかった。最小限の言葉を低めに放つ。

返事の言葉はすぐには返ってこなかった。息を飲んだような音が聞こえる。

それからどのくらい経ったかな。数秒もないだろう時間が、じれったくて長く感じた。もう切ろうかと思った時、ようやく返ってきた言葉に、私は身体の芯まで凍り付いた気がした。


『……伊藤さん?』

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