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25/31

25:結婚

 律くんからプロポーズされた翌日、律くんは私の実家に挨拶に来てくれた。3連休の最終日。家にはお父さんもお母さんもいる。


きちんとスーツを着て、私が贈ったネクタイを結んできてくれた。手土産にと律くんの地元のお酒とお菓子も用意してきてくれた。お父さんってば、そのお酒見て大喜びするから、私はちょっと恥ずかしくなった。


 私の両親は快く律くんを迎えてくれた。お父さんなんて「今すぐ寿司取れ!」なんて言い出しちゃうくらい。私も嬉しくて、涙が出そうになったけれど、なんとかそれは収めた。だって嬉しい日だから。


 その後、律くんのご実家にもご挨拶に伺った。律くん、お母さん似なんだね。優し気な目元がそっくりだなって思った。そんな素敵な方から「こんな可愛い娘ができて嬉しいわ」なんて言っていただけて、私も嬉しくて、恥ずかしくて、やっぱり嬉しかった。


 律くんの地元には素敵な教会がある。なんでも有名な建築家が関わった、とかいうものらしく、県外からわざわざ挙式のために来る人もいるくらいなんだって。私たちはそこで式を挙げようか、と話した。

最初律くんはS市で式をするつもりだったみたいだけれど、私がここが素敵だね、と言った時、とても嬉しそうに笑ってくれた。律くんが生まれて育った街だもの。ここで結婚したいな。


 早速教会に行ってみた。さすがは人気の教会だ。ズラリと予定が埋まっている。けれど、来年の9月の土曜日に、1か所だけ空きがあった。


「ここ、にしようか」


律くんが大丈夫なら、私はもちろん大丈夫。


「うん」


結婚する日が決まった。私、律くんのお嫁さんになれるんだね。こうして日にちが決まると、一気にそれが形を帯びてくるようだった。


 教会からそう遠くない場所にある、一軒家のレストランで披露宴をすることも決まった。ネーヴェフレスカほど大規模ではなくて、ネーヴェフレスカよりも庭が広くて綺麗。素敵なレストランだった。きっと9月ならまだ花も咲いているね。今はすっかり枯れて冬の準備を済ませた庭を眺めながら、その景色を想像してみた。


 それからはあっという間だった。

打ち合わせはS市内でプランナーさんと行われたので、頻繁に出向く必要がなかったことは有難かった。ドレスの試着は何軒も回った。白いドレスを着せてもらう度に、結婚するんだなってじわじわと実感が湧いてくるようだった。


 婚約指輪にはシャンパンガーネットを選んだ。最初は律くんも私も、ダイヤモンドを見ていたのだけれど、ふと目に入ったシャンパンガーネットに一目で心を奪われてしまった。ピンクともベージュともつかない柔らかな色。以前は真っ赤なガーネットしか知らなかったから、ガーネットにこんなにもたくさんの色があるっていうことが、なぜか嬉しかった。

お返しに律くんにスーツを贈った。いつか律くんが6年生の担任になった時、卒業式で着てもらえるように、そう思って黒いフォーマルスーツのお仕立てを頼んだ。採寸の時には私もついて行った。完成したスーツはもちろん律くんにとっても似合っていて、素敵だった。


 新婚旅行の話もしよう。最初は「どこに行きたい?」って律くんが聞いてくれた。律くんはいつも私を優先してくれる。でも、一緒に決めたいよ、先に律くんが行ってみたい場所を聞きたいな。

そう思って聞いてみた。


「律くんは行ってみたい街とかある?」


ほんの少し迷ったみたいに視線を伏せた律くんが、言ったのは思いがけない島だった。


「ミコノスに行ってみたいと思ってた」


びっくりだよ。本当?私もね、ずっとギリシャに行ってみたかったんだ。それを伝えると、律くんも嬉しそうに笑ってくれた。


「ギリシャにしようか」


旅行には次の夏に行くことにした。新人の私たちが、長い休みを取るのは気が引けるもの。特に律くんは担任の先生だもんね。ギリシャは逃げない。翌年の夏休みに行こうね、と決めた。


 婚姻届けは結婚式より少し前、9月2日に出した。仕事の終わりに2人で一緒に行った。この日にしようか、と言ってくれたのは律くんだった。理由はすぐにわかったよ。4人で初めて動物園に出かけた日、それが9月2日だったね。それが私たちの始まりの日。律くんと付き合うことになったのはクリスマスだったけれど、その日は世界中がお祝いの日だ。でも9月の2日は私たちだけの特別な日になったね。



 結婚式前夜、私は家族とホテルに泊まっていて、同じホテルには中学以来の親友たち、律くんのお友達の空気さんたち、そして美夕と横山さんも来てくれていた。


律くんも顔を出してくれて、短い時間だったけれど、美夕と横山さんと4人でホテルの1階にあるカフェでお茶をした。


美夕はひたすら「おめでとう」を繰り返している。

就職で神奈川に戻った横山さんも、わざわざ駆けつけてくれて、感慨深げに私たちのことを見てくれた。その様子は、いつかふざけて美夕に言っていた[お父さん]みたいだった。


「ちゃんと幸せにしてあげろよ、律」


律くんは「ああ」と答えていた。そして私に向かってニカッと笑う。


「これからはさー、伊藤ちゃんって呼べないし沙樹ちゃんって呼んでも怒らない?」


「それとも廣田さんって呼ぼうか?」なんて言われたものだから、私の顔はきっと真っ赤っかになっていた。


「沙樹、でお願いします」


とだけ小さく答えた。



 翌日は綺麗な秋晴れだった。教会の控室で準備を整え、時間を待つ。腕を組むのはそういえば初めてだなぁなんて思いながら、私より緊張しているお父さんと一歩ずつ律くんの前に近づいていく。

2人で選んだ指輪を交換した。


披露宴も滞りなく終え、私たちは正真正銘夫婦になった。改めましてよろしくお願いします、律くん。


日曜日、S市へと帰る友達たちを2人で駅で見送り、それから律くんのご実家へ挨拶に伺った。


「いつでも遊びに来てね。律が悪いことしたらすぐ私に連絡するのよ」


なんて言葉を頂戴した。その連絡の機会は一度もないと思いますが、お気持ちはとても嬉しいです。

そして私たちもS市へ。今日から帰る家は同じ。私たちはM駅近くに新居を構えた。

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