23:廣田 律
忙しくも充実した日々を送っていた。
沙樹は常に俺のことを気遣ってくれる。いつも俺の仕事を優先してくれているのが手に取るようにわかり、俺はその気持ちを尊重したいと思っていた。学生時代は深夜まで連絡を取り合っていたものだが、社会人になってからはそれも来なくなった。それが沙樹の思いやりからくるものだと俺も気がついてた。
教師にも夏休みはある。ただ、新任の俺は最後に空いている日程を選んだ。幸いなことに、沙樹の職場の夏休みも希望制で、ある程度休みを合わせることができた。
今年はどうしてもお盆をずらして実家に帰りたかった。本当のことを言うと、実家にというよりは地元に用があった。お盆では先方も休みを取っているだろうと思い、それを外して1泊だけ帰省をした。
◇◇◇
木枯らしもとうに吹いた晩秋のとある日、放課後の職員室。スマホに1通のメールが届いた。それは俺の地元にある、窯元からのものだった。
[廣田さん お世話になっております。ご注文頂いておりましたマグカップ2客完成いたしました。発送も可能ですが、お受け取りにお越し頂けるとのことでしたので、取り急ぎご連絡まで]
夏の休暇で帰省した折、依頼に行ったものだ。もっと時間がかかるものと思っていたから、内心俺は焦っていた。デスクの上に置いてあるカレンダーを手に取る。今週末は運良く3連休だ。
(土曜日一泊して受け取って来るか)
メールに添付されていた画像を開く。丸みを帯びたふっくらとしたカップは、高台がスッと細くなっており、そこにしのぎが入っている。そして丁寧な手作業が伺える特徴的なハンドル。全体は淡いパープルともブルーともつかない色をしていて、底に僅かに溜まった釉薬が仄かな黒みを帯びている。これはこの作家特有の色だ。俺はその画像を見て、知らずしらずのうちに笑みを浮かべていた。
早速折り返しの返信を送った。
[馬渕さん、連絡ありがとうございました。21日の午後に伺います]
そうしてもう1件、今度はLINEを開いてメッセージを書く。
[沙樹、お疲れ様。21日ちょっと実家に行ってくる。22日の夜会えない?]
この時間沙樹は仕事中だ。スマホを見ることはない。俺は少し考えて、もう1件付け加えた。
[親も兄貴も元気。急用じゃないから]
19時。そろそろ帰宅しようかという頃LINEの通知が鳴った。沙樹からだ。
[お疲れ様。21日気を付けていってらっしゃい。22日待ってるね]
すぐに返信を返す。
[S駅に着いたら連絡するよ。17時前後になると思う]
[わかった。この日は1日家にいるね]
スマホをポケットにしまうと、俺はぼんやりと頬杖をついた。
どこで会おうか。駅前で会おうと言えば、沙樹は喜んで出てきてくれるだろう。そのまま飯に行ってもいい。最近では半個室で雰囲気のいい居酒屋も増えてきて、2人で何度か通っている店もある。
けれどどうも納得がいかなかった。
食事の前に渡そう。
[やっぱ家まで迎えに行く]
[ありがとう。待ってるね]
準備は整った。あとは自分が腹をくくるだけだ。




