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23/32

23:廣田 律

 忙しくも充実した日々を送っていた。

沙樹は常に俺のことを気遣ってくれる。いつも俺の仕事を優先してくれているのが手に取るようにわかり、俺はその気持ちを尊重したいと思っていた。学生時代は深夜まで連絡を取り合っていたものだが、社会人になってからはそれも来なくなった。それが沙樹の思いやりからくるものだと俺も気がついてた。


 教師にも夏休みはある。ただ、新任の俺は最後に空いている日程を選んだ。幸いなことに、沙樹の職場の夏休みも希望制で、ある程度休みを合わせることができた。

今年はどうしてもお盆をずらして実家に帰りたかった。本当のことを言うと、実家にというよりは地元に用があった。お盆では先方も休みを取っているだろうと思い、それを外して1泊だけ帰省をした。



◇◇◇

 木枯らしもとうに吹いた晩秋のとある日、放課後の職員室。スマホに1通のメールが届いた。それは俺の地元にある、窯元からのものだった。


[廣田さん お世話になっております。ご注文頂いておりましたマグカップ2客完成いたしました。発送も可能ですが、お受け取りにお越し頂けるとのことでしたので、取り急ぎご連絡まで]


 夏の休暇で帰省した折、依頼に行ったものだ。もっと時間がかかるものと思っていたから、内心俺は焦っていた。デスクの上に置いてあるカレンダーを手に取る。今週末は運良く3連休だ。


(土曜日一泊して受け取って来るか)


 メールに添付されていた画像を開く。丸みを帯びたふっくらとしたカップは、高台がスッと細くなっており、そこにしのぎが入っている。そして丁寧な手作業が伺える特徴的なハンドル。全体は淡いパープルともブルーともつかない色をしていて、底に僅かに溜まった釉薬が仄かな黒みを帯びている。これはこの作家特有の色だ。俺はその画像を見て、知らずしらずのうちに笑みを浮かべていた。


 早速折り返しの返信を送った。


[馬渕さん、連絡ありがとうございました。21日の午後に伺います]


 そうしてもう1件、今度はLINEを開いてメッセージを書く。


[沙樹、お疲れ様。21日ちょっと実家に行ってくる。22日の夜会えない?]


 この時間沙樹は仕事中だ。スマホを見ることはない。俺は少し考えて、もう1件付け加えた。


[親も兄貴も元気。急用じゃないから]




 19時。そろそろ帰宅しようかという頃LINEの通知が鳴った。沙樹からだ。


[お疲れ様。21日気を付けていってらっしゃい。22日待ってるね]


すぐに返信を返す。


[S駅に着いたら連絡するよ。17時前後になると思う]


[わかった。この日は1日家にいるね]


 スマホをポケットにしまうと、俺はぼんやりと頬杖をついた。

どこで会おうか。駅前で会おうと言えば、沙樹は喜んで出てきてくれるだろう。そのまま飯に行ってもいい。最近では半個室で雰囲気のいい居酒屋も増えてきて、2人で何度か通っている店もある。


けれどどうも納得がいかなかった。

食事の前に渡そう。


[やっぱ家まで迎えに行く]


[ありがとう。待ってるね]



準備は整った。あとは自分が腹をくくるだけだ。

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