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22/32

22:律くんの誕生日

 大学を無事卒業して、私たちは社会人になった。律くんは小学校の先生になって、私はメーカーで営業事務をしている。4月はほとんど会う時間もなかった。小学校の先生ってものすごく忙しいんだね。何せ出勤時間からして早い。私は9時出社だから、いつも8時すぎに家を出る。その時間、律くんはもう仕事をしている。毎朝家を出るのは7時なんだって。自分が小学生だった頃には、先生がそんなに朝早くから学校に来ていたなんて知らなかったよ。


でも毎日たくさん連絡は送り合っている。それに、お互いの家が前より近くなったから、晩ごはんだけ一緒に食べに行ったりも気軽にできるようになったし。


 5月には律くんの23歳の誕生日がある。今年の24日は土曜日。――神様、ありがとうございます。

なんて神様のおかげもなくて、カレンダー通りなんだけれど、私はそのくらい嬉しかった。

誕生日プレゼントは何がいいかな。本当は律くんと一緒に選びに行きたい。でもそれを言ったら「いらない」って言われそうで、私は自分で買いに行くことにした。


その前に美夕に相談してみたら、「あー、うちらのは参考にならないと思うよ」って言われてしまって。確かに参考にはならなかった。「鋏贈ったり」って書いてあったんだもん。仕方ない、自力で頑張ろう。


 初めて贈る誕生日プレゼントだから、本当はずっと残るものを贈りたいと思った。でも、男の子にずっと残してもらえる贈り物というのが浮かばなかった。ネットで検索してみても、いまいちピンとこない。


結論、背伸びは止めよう。仕事帰りに会う律くんはいつもスーツを着ている。ネクタイは贈ったばかりなので、今回はシャツを贈ろうと決めた。何枚あっても迷惑にならないもんね。私は仕事帰りに何度か寄り道をして、律くんに似合いそうなシャツを1枚買った。


[律くん、お誕生日の日は会える?]


[うん、休み]


 よかった。土日祝日が完全に休みの私と違って、律くんは土日が仕事になる時もある。土曜日だからと言って完全に安心してはいけなかった。休みと聞けてほっとする。


[会いたいな]


いつの間にこんな自然に言えるようになったんだろうね。自分でも少し驚いちゃうよ。律くんからすぐに返信が来た。


[久しぶりに遠出しようか]


[いいの?嬉しい!]



 24日になりたての深夜、[おめでとう]って送りたかったけれど、もう寝ているかなと思って送るのはやめた。朝会えた時にいっぱい言おう。


「おはよう沙樹」


「お誕生日おめでとう、律くん」


朝、迎えに来てくれた律くんの車に乗り込んで、早速1回目のおめでとうを言った。


「ありがとう」


少し照れたように言った律くんは、「行きたいところある?」と聞いてくれた。

今日は律くんのお誕生日だよ。律くんの行きたい場所に行こうよ。そう言いたかったのに、つい言ってはならないワードを言ってしまった。


「ううん、どこでもいいよ」


「それじゃ海でも行こうか」


いつも決断の遅い私のことを見抜いて、最初から考えていてくれたのかな。ありがとう律くん。


「うん」


 海までの道程、ゆっくりといろんな話をした。私の話はつまんないから、律くんの話をいっぱい聞きたかった。律くんはね、今年3年生の担任をしている。4月は身体測定があったり、5月に入ってからは運動会の練習でグラウンドにいる時間が多い、なんて話を聞かせてくれた。なんだか懐かしいな。小学校に通っていたのは10年も前の話。そうそう、そんなことがあったな、なんて思い出しながら聞くのが楽しかった。


 海辺の街に着いた。この街にはあまりいい思い出が残っていない。大学時代のほんの1日、たった数時間の記憶。


「車置いて、歩こうか」


「うん。そうしよ」


律くんと一緒に歩いたら、少しほろ苦いその記憶を上書きしてくれる、そう思った。


 ガラス細工のお店に入ってみたり、ソフトクリームを食べたりした。私たち、よく一緒にソフトクリームを食べているね。初めて一緒に食べたのは動物園で律くんから手渡された時だったね。律くんは憶えているかな、私は今でもしっかりと憶えているよ。


それから少し相談をして、お寿司は夜ご飯の楽しみにすることに決まった。なのでランチは小さなカフェに入ってみることに。カニがたっぷり入ったパスタが美味しかった。


 海辺を2人で歩いた。よく晴れた5月の海は、青空を反射していて綺麗だった。この海も綺麗だったんだね。一時はもう来たくないと思っていた街。けれどその気持ちはもう消えてくれたみたい。今日は律くんのお誕生日なのに、私ばかりが嬉しくて申し訳ないくらいだった。


「今日、海に連れてきてくれてありがとう」


「俺も沙樹と来れてよかった」


やっぱり私ばかり楽しんでいるみたいで、少し気が引けてしまう。律くんにとっても楽しい1日と思ってもらえますように。



 その後は、小さな美術館に入ってみたりしつつ、夜ご飯の時間にはお待ちかねのお寿司を食べに行った。今夜は律くんが車だからお茶で乾杯。海の近くで食べるお寿司はなんだか特別だね。来年も、その先も、ずっと一緒にお祝いできますように。そう願いつつ、私たちはS市に帰った。



「いい1日だった。ありがとう沙樹」


帰り際にそう言ってもらえたのがすごく嬉しかった。私こそありがとう。

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