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21/30

21:報告

[おはよう、沙樹]


[律くん、おはよう]


 お互い名前で呼び合うのもすっかり慣れた2月の終わり、律くんはお引越しをした。今までの部屋でも不自由はしていなかったみたいだけれど、後輩のために場所を空けてあげたいっていう優しさだと思う。


律くんはM駅近くのマンションに引っ越しをした。そして本題――


[この間話していたこと、俺がグループLINEに入れるよ]


[ありがとう、お願いします]


 2人でどんな密談をしたのかと言うと、チーム横山の2人、横山さんと美夕に私たちのことを報告しようと思って。律くんは横山さんと、私は美夕と、今でも連絡は取り合っているから、お互いが報告すれば済むことなのだろうけれど、4人揃った場で言いたいね、ということになって。


横山さんが一番忙しそうだよね、時間取ってもらえそうかな。美夕も休日が少ないし。厳しいようならLINEで報告しようか、なんて話をしていた。


 廣田:久しぶり。元気?


 律くんとM駅近くのカフェで会っていた時、連絡を入れてみた。私にもその通知は来ているのに、返信をすることすら忘れて、律くんと一緒に同じ画面を見ていた。連絡をするのは火曜日にしようと事前に相談済みだったので、今日は火曜日。美夕がすぐに反応してくれた。


 池内:お久しぶりです!元気ですよー


5分後くらい、かな。横山さんからも連絡が来た。


 横山:なんとか生きてる


思わず律くんと顔を見合わせてしまった。これは想像以上に大変な生活を送っているみたい。とても会おうだなんて言える雰囲気ではなさそうだ。


 横山:(柴侍のスタンプ~安心せい峰打ちじゃ)


それを見て2人で笑っちゃった。変わってないね、横山さん。


「沙樹」


名前を呼ばれて、ハッ!と慌ててスマホを取り出す。私も返信しないとだよね。でも柴侍の後になんて入れよう……。


 伊藤:ご無事でなによりです


隣で律くんが笑っている。そうだよね、すごく変なこと言っちゃった。


 横山:なにー?俺の慰労会でも開いてくれる気になった?

 横山:(柴侍のスタンプ~良きにはからえ)


なんだかお誘いしても大丈夫な雰囲気?そういや美夕も、社会人ほやほやの頃は「癒して~」なんてよく抱きついてきたっけ。


「誘ってみるか」


律くんもそう思ったみたい。


「そうしようか」


少し考えた律くんが新しいメッセージを入力する。


 廣田:池内さんはどう?

 池内:火曜日休みなんで、火曜ならいつでもいけますよ


貴重な休みを迷うことなく即レスしてくれた美夕。


 横山:俺は研究室のシミになってる

 横山:早めに言ってくれたらいつでも合わせるよ


前後の文が噛み合ってない気がするけれど、シミになっちゃうくらい研究室に入り浸った生活をしているということだよね。もしも横山さんにとっての息抜きになるのなら、誘ってみてもいい、かな。


 伊藤:どこかの火曜日、昼間はいかがでしょう?


美夕のこと、夜には彼氏さんにお返ししたいもんね。そう考えて送ってみた。


 池内:沙樹ありがとう。横山さんいつ空いてます?

 池内:(ブサうさのスタンプ~嬉しい!)


 横山:んじゃ来週は?


1年半ぶりのチーム横山再会が決まった。

その場ですぐに私は、美夕個人宛てにLINEを送る。律くんが「タツの大学の側にしようか」って言ったので、お店情報に詳しい美夕にいいお店がないか聞いてみようと思って。


[美夕、横山さんの大学近くでよさそうな場所知ってる?]


何分もしないで、次々とお店の名前が送られてきた。それには律くんも苦笑している。うん、多すぎるね。


[一番行ってみたいのはここ!]


最後に送られてきた店だけURLが貼ってあった。すぐに開いて律くんとお店の情報を見てみる。メニューの他に、店内の様子を写した画像が何枚も貼ってある。いい感じ!


「いいね」


律くんも同意してくれた。


[良さそう!ここでいいか聞いてみる?]


そう美夕に返信したら、数秒後にはグループLINEの方に美夕からURLが届いた。


 池内:ここどうですか?

 池内:横山さん行ったことあります?


今度の返信は早かった。


 横山:池内ゃん(いけうっちゃん)、俺がこんな楽しい生活してると思う?

 横山:(柴侍のスタンプ~無念)


 池内:廣田さんはどうです?ここでよかったら予約入れておきますよ


 廣田:ありがとう

 伊藤:美夕、お任せしてもいいかな


 池内:(ブサうさのスタンプ~了解!)

 池内:11時でいいですか?予約11時しかできない店なんで


あっという間に約束が決まった。久しぶりに4人で会えるのは嬉しいし、少しドキドキする。



◇◇◇

 約束の火曜日、私はバスの中で美夕と合流した。


「おはよう沙樹!めっちゃ久々の連絡だったねー」


 美夕と2人ではしょっちゅうやり取りしているから、それはグループLINEのことを言っているんだろう。「そうだね」とだけ返した。


電車に乗り継いで、目的地へ向かう。11時より少し前に着いた。

律くんと横山さんもそれぞれ向かって来て、お店のオープン少し前には4人揃って開店を待つ感じになった。


「おう!久しぶりだなー。2人は早いな」


「おはよう」


懐かしいね。以前と全く変わらない再会みたい。でも律くんの視線が柔らかくて、私はくすぐったい気持ちになる。美夕、横山さん、隠していてごめんなさい。あと少ししたら報告しますから。


「横山さん、ちゃんと人間らしくて安心しましたよ」


美夕の言葉に少し笑っちゃった。美夕なりの気遣いだってことはわかる。実は私も、ボサボサの無精ひげで現れたらどうしようかと思っていたから。


「女性2人にお会いするんだからね。ちゃんと風呂にも入ってきたから」


横山さん、やっぱり心配になってきました。毎日お風呂に入れていないんですか?


 そんな不安を抱き始めたところで、お店の中から店員さんが看板を持ち上げて出てきた。


「お待たせいたしました。いらっしゃいませ」


Reservedと札が置かれた席へ案内される。4人掛けだけれど、とてもゆったりとした広い席だ。最初に美夕が座り、私は美夕の向かいの席に腰を下ろした。美夕があれ?って顔をしている。律くんが私の隣に座って、最後に横山さんが美夕の隣にドカリと落ち着いた。一瞬横山さんが律くんに目配せしたような気がする。


お水とメニューが届けられて、ひとまずみんなで注文を決めた。3種類あるランチメニューの中から、横山さんと律くんは照り焼きチキンごはんを、私と美夕はデリプレートを注文した。


メニューを確認した店員さんがキッチンへ向かった様子を見届けると律くんが、2人に向かって口を開く。


「俺たちつき合い始めたんだ」


本題から入るのが律くんらしいなって思った。これ以上気まずい思いをしなくて済むもんね。隣で私はぺこりと頭を下げた。


「えっ!うそ?ほんと?マジで?」


1人で4人分くらいの感想を言ってくれた美夕の隣では、横山さんが静かに私たちを見ていた。ちょっと恥ずかしくなって、私は律くんに視線を向ける。律くんも私のことを優しく見てくれていた。


「あー、ちょっとそこの2人。ここで2人の世界に入るの止めてもらっていいですか?」


そして「おめでとう。沙樹、廣田さん」と付け加えてくれた。ありがとうね、美夕。それと、今まで黙っててごめんね。


横山さんは一言「……そっか、よかったな」とだけ言って笑ってくれた。


それからの時間は、束の間のチーム横山の復活だった。美夕の美容師生活の話から始まって、律くんと私の就職の話、今回横山さんは珍しく聞き役だった。勉強が忙しすぎて疲れているのかな、無理させちゃって申し訳なかったなと少し反省した。



「次は横山さんの内定祝いで会いましょうよ」


 帰り際、美夕がカラッと笑いながら、それでいて横山さんに圧をかけるように言った。


「祝ってくれるー?それじゃ俺、頑張っちゃうわ」


両腕に力こぶを作ってみせる横山さん、少しは元気出てくれたかな?


「沙樹、私彼氏待たせてるから先に行くね!廣田さんよろしくお願いします」


そう言い残すと美夕はパタパタと走り去っていった。


「んじゃ、俺も戻るわ。2人も気をつけてな」


横山さんはどうやら自宅ではなくて大学へ戻るみたい。本当に忙しい時間の間を縫って時間を作ってくれたんだね。ありがとうございます。


そして、店の前に残ったのは律くんと私。2人とも今日はアルバイトがある日。けれど、もう少し時間があるね。私たちはM駅へ向かった。律くんのバイト時間までM駅の近くで過ごそう、そう思って。

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