18:初ドライブ
初詣に行った夜、着物を脱いで残り少なくなったおせちで晩ごはんを食べて、お風呂に入った。
部屋に戻ると、ちょうどLINEが届いたところだった。
[楽しかった]
[着物姿、とても綺麗だった]
境内で、2人で撮った写真が添付されていた。近くにいた人にお願いして撮ってもらった写真。2人だけで写した初めての写真だった。
文字で伝えてくるなんて反則だよ。私はこの時間差攻撃に完全にやられてしまって、1人スマホを片手に赤面していた。
[ありがとう。私もとっても楽しかった]
少しして、返信が来た。
[旅行いつから?その前に会えそう?]
[13日から2泊3日。いつでも会えるよ]
送ってから失敗したと気がついた。'いつでも'はいい言葉じゃなかったね。急いでもう1件送った。
[バイトは今まで通り火・金で入っているの]
[9日はどう?俺もその日はバイト入ってない]
廣田くんバイトしてるんだ。ネーヴェフレスカを辞めたという話しか聞いていなかったから、てっきり今は勉強に専念しているんだと思っていた。
[9日会いたい。1日空いてます]
まだまだ知らないこと、知りたいことがたくさんある。本当に誰かを好きになる時って、こういう気持ちになるんだね。同じくらい私のことも知ってほしいって思ってしまう。9日がとても待ち遠しい。
[どこか郊外に行こうか。ドライブ]
廣田くん、車買ったのかな。また知りたいことが増えた。どんどん増えることが嬉しい。
[行きたい!]
[場所、考えておく。迎えに行く]
いつも迎えに来てくれたのは、横山さんと廣田くんだった。初めて廣田くんが1人で迎えに来てくれる。
[朝から準備して待ってるね]
9日の朝。
前日の夜に連絡があった。
[9時、早い?]
[大丈夫!待ってます]
時間より少し早く家の外に出て待っていた。
自宅の前は、どこにでもあるような住宅街の路地で、車通りは多くない。少し先に見える幹線道路で右折待ちをしている白い車が見えた。あの車かな。
近づいてきた白い車が私の前で停まる。運転席から手を伸ばして助手席のドアを開けてくれた。
「おはよう」
「おはよう、迎えに来てくれてありがとう」
助手席にお邪魔して、シートベルトを締める。
「前にタツたちと行った湖まで行こうかと思っているんだけれど」
それはチーム横山で最後に出かけた場所。あの時は秋だった。冬の湖はどんな色をしているんだろう。
「嬉しい!行きたい」
2人で初めてのドライブが始まった。
廣田くんは、4月から必要になるかもしれないから車を買ったんだって。小学校は駅の近くにばかりあるわけではないもんね。「中古だけどね」って笑いながら付け加えていたけれど、飾り気のなく、清潔な車が廣田くんらしいなと思った。横山さんの車には柴侍の縫いぐるみがいくつも飾ってあったっけ。
あっ!横山さんの名誉のために付け加えると、横山さんの車も清潔でした!
廣田くんの車も最新の歌が流れている。「適当に選んだ」って言っているその選曲センス、すごく私好みだった。ちなみに浜田省吾は入っていない。
湖までは、前回よりも少し時間がかかった。雪道は危ないもの。けれど廣田くんの運転はとても安心できる。仲がいいと運転まで似るのかな。横山さんと同じように運転が丁寧だ。
車を降りて、湖まで歩く。まさにアイスブルー、そんな色をしている。雲の間から覗く空の色よりもワントーンだけくすんだ色。私のとても好きな色。冬の間は貸しボートもお休みで、湖の上はすごく静かだった。今日も自然と手を繋いでいた。
「ちょっと懐かしいね」
「うん」
あの日、美夕はいつもより少し大人しくて、横山さんはいつも通り元気いっぱいだった。廣田くんと私は、その2人の少し後ろを歩いていたっけ。
湖を背景に2人で写真を撮った。思い出が少しずつ増えていく。
「冷えたね。移動しようか」
「そうだね」
車に戻り、「あのカフェ行こうか」どちらからともなく言い出した。
ランチ時には少しだけ早かったこともあって、今回も特等席に座ることができた。冬の森は、木々に積もった雪がキラキラと光っていて、すごく綺麗。これは前夜雪が降った日にしか見ることの出来ない特別な光景。昨日の夜、この辺りは雪が降ったんだね。
「綺麗だね」
「うん」
その後は、今日絶対に聞こうと思っていた廣田くんのアルバイトの話を聞いてみた。今は家庭教師をしているんだって。来月に中学受験を控えた男の子を見ている、と教えてくれた。学校の先生になる人から教えてもらえるなんて、ラッキーだね。その子が志望校に合格しますように。
帰り際、次の約束をした。
「誕生日、空けておいてほしい」
私の誕生日は1月18日。その日はバイトも入れていない。誕生日、憶えていてくれたんだね。
「ありがとう」




