14:お土産のこけしちゃん
岩手旅行をしている廣田くんから何度かLINEが届いた。何枚か写真も送ってくれた。
[昼飯]
とだけ書かれた下に、たくさんの小鉢が並んだ定食が写っていた。向かいの席にはお友達の分かな?カツカレーが少しぼやけて写り込んでいた。「山猫軒で食べた時の」と後から教えてくれた。
冬の始まりの岩手はどこか寂し気に見えたけれど、私たちの住む街とも少し似ているようで落ち着く風景だった。廣田くんが切り取った岩手の景色は、寂しい季節の中にある温かなぬくもりみたいに感じる。
私はアルバイト先で宮沢賢治の詩集を買った。あの日廣田くんが買ったのと同じ本。毎晩寝る前に少しずつ読んでいる。
旅行から戻った廣田くんと会った。その日も私のバイトがない日の昼だった。
今度は私のお気に入りのカフェに誘ってみた。そのカフェでは男の人が1人でランチしている姿を見かけたこともあるし、多分そんなに居心地は悪くないと思ったから。
「このお店はね、カレーが美味しいよ」
専門店ではないのにカレーのメニューが豊富なカフェ。廣田くんは月見カレー、私はスパイシーチキンカレーを注文した。
「いただきます」
スプーンで卵の黄身を割ってカレーを口に運んだ廣田くんの口元が緩む。美味しいの合図みたいで嬉しかった。
カレーを食べながら旅行の話を聞く。男の子の2人旅なんて想像もつかない世界。飛行機に乗るところから全部聞かせてもらった。何もかもが珍しく思えてついつい聞いてしまう私に、廣田くんは呆れる様子もなく、丁寧に話してくれる。その様子にふと、そうか先生になる人だもんね、と1人納得もしていた。楽しいだろうな、廣田くんの授業。
食後の珈琲を飲んでいる時に、紙袋を渡された。中にはいくつかお土産が入っている。
「こんなにたくさん!ありがとう」
「たいしたものじゃないから」
透明の袋に入っているのは注文の多い料理店のクリアファイル。めちゃくちゃ可愛い!これは大切に家の中で使おう、そう決めた。
それから山猫軒のオレンジケーキ。「定番だからって言われた」ちょっぴり恥ずかしそうに廣田くんが付け加えたそのケーキは、レストラン型の箱に入っていて人相(猫相?)の悪い猫が2階の窓から顔を出している。
「定番なんだ!初めて見た。ありがとう嬉しい」
それからもうひとつ。紙の小さな箱を取り出してそっと開けてみた。中に入っていたのは手のひらにすっぽり収まるほど小さなこけし。
「可愛い――こんなこけしがあるんだね。これも初めて」
こけしって夜見ると少し怖い、そんなイメージだった。けれど、今私の右手の中にちょこんと納まっているこけしは、おかっぱ頭に虚無顔をしていてちょっぴりシュール。こけしというよりミニチュアドールみたいな感じ。部屋に飾ろう。机の上がいいかな。
「それ――いや」
廣田くんが意味深に言葉を切った。
「なに?」
私は親指と人差し指でその子を挟んで、少し廣田くんに近づけた。
拳で口元を隠した廣田くんが、目を伏せてぽつりと白状する。
「少し伊藤さんに似てると思って」
この虚無顔が私?
もしそう言われたのが美夕だったら、きっと大笑いで返すだろう。私も言われたのが廣田くんじゃなくて友達だったら、きっと大笑いしていた。
頬が熱い。中途半端な位置で見世物になっていたこけしを、右手で包んでスッと膝の上に隠した。
「ごめん、怒った?」
ううん、違うの。廣田くんが申し訳ないって顔をしている。けれど多分私は今喜んでいる。
「全然!」
旅先で選ぶお土産って、その時間も含めたお土産だと思っている。きっと廣田くんは、いくつか並んでいるこけしの中から、この子を選ぶとき私を思い浮かべてくれていたんだ。
「あのね、旅行先で思い出してくれてありがとう」
ホッとしたような安堵の顔、少し経って浮かべてくれた笑み。きっと私の言いたいことは伝わっている、そう思えた。
廣田くんとの時間は、友達といる時間とは別の安らぎがある。チーム横山で過ごした時間とも違う何か。男の子とこんな風に過ごせる時間があるんだって初めて知った。
「卒論、いつまで?」
旅行の空気から現実に戻る廣田くん。
「1月のね、中旬に卒業旅行に行くの。だから年内に終わらせる予定。廣田くんは?」
廣田くんも、年内で目途が立っているらしい。それも当然な気がした。廣田くんはきっと充分時間をかけて準備してきたんだろうな、そう思うもの。
「無理にならない程度で、また飯でも食わない?」
思えば廣田くんは、いつもみんなの予定に合わせてくれていた。4人で遊んでいた頃、廣田くんからこの日に出かけよう、みたいな連絡はもらった覚えがない。
「私でよければ喜んで」




