鬼狩り 003
金曜日、歴研での調べ物は全く捗らなかった。
実際に〈鬼〉を倒してわかってこともある。ここでの興味はもしかしたら、あの手帳と木刀を置いていった人物へのものなのかもしれなかった。
何も手がかりはない。ガサガサと漁っているとノックの音がした。
「水野さん、あの、俺、桜井だけど……」
ドキリとして、凪冴はバサバサと資料を落としてしまった。
「入っても平気?」
「あ、ど、どうぞ」
帰って、と言うわけにもいかなかった。そうして、そろそろと開いた扉の向こうから、恐る恐るといった様子で遥希が入ってくる。淳也は一緒ではなかった。
そっと扉が閉められると、二人っきりになったことを意識して緊張してしまう。
この数日、決して彼を避けていたわけではない。彼が話しかけてくれなければ自分から話すこともないというだけだった。だから、凪冴は彼に避けられているのだと思っていた。
「ごめん、急に」
「ううん、大丈夫。ちょっと綺麗にしようと思って、それだけ……」
正直に調べていたというのは躊躇われた。まるっきり嘘というわけでもないのだと自分に言い聞かせる。
「そのままでいいから聞いてくれる?」
「うん」
「話せないのはわかるよ」
彼が〈鬼〉のことを知りたがっているのがわかっても神薙機関のことも何もかも話せない。たとえ、相手が遥希であろうと凪冴は話すつもりはなかった。
それで遥希がもう自分と話すことはないのだと思っていたくらいだ。
「でも、俺、いつも通りに話せないなんて嫌だよ」
「えっ……」
動揺せずにはいられなかった。彼は何を言っているのだろうか。どういう意味なのか。
もし、避けていたということが本当にあるならば彼の方だと凪冴は本当に思っている。そのことで彼を責めるつもりもない。凪冴から話しかけたことはほとんどないのだから。
何より、彼はこの数日、常に誰かと話していた。凪冴を見ようともしなかった。
「水野さん、俺……」
遥希はそこで言葉を止めて、俯いた。なぜか、その先を聞いてはいけないような気がした。
言わないで、言わないで、と心の中で念じる。不都合なことは何一つ聞きたくなかった。狡いのかもしれないが、彼とはもうすぐお別れだ。
バッと顔を上げた彼は何かを決意したような表情をしていた。
「俺、水野さんのことが好きなんだ。その、一目惚れで……」
ぎゅっと心臓を握り潰されたような気分だった。あるいは、首を絞められているような、息苦しさだ。
ほんの少し前なら、十日前だったなら、凪冴は飛び上がって喜んでいたかもしれなかった。それなのに、今は喜びなど胸の片隅にしかなかった。心の全てを悲しみが支配している。
たとえ、彼が自分を想ってくれているのだとしても、その言葉が本当なのだとしても、彼と一緒にいることはできない。
だから、凪冴は言葉に困った。自分も同じだと、ずっと好きで、一目惚れだったと言ってしまえれば良かったのかもしれない。そうすれば、楽になれたのだろうか。繋ぎ止める理性を引きちぎって彼に縋れば何かが変わるだろうか。
ありえないのだ。そうできるのなら、今頃喜んでいたはずだ。嬉しいと思う気持ちが全ての悲しみに勝ったはずだ。
「ごめん、答えは今じゃなくていい。兄貴が戻ってきたら、もう一回、ちゃんと告白させて。だから、その、考えておいてくれると嬉しいっていうか……」
凪冴が困っていると思ったのか、遥希が言う。
永希を戻す責任が凪冴にはある。そして、同時に別れの合図でもあるのかもしれない。永希が戻れば彼の記憶から凪冴が消える。今、明かしてくれたその思いも全て夢と消えてしまう。
「うん、ありがとう」
精一杯の声は聞こえているかもわからないほど小さな声だった。
「また、前みたいに話していいかな?」
「も、もちろん」
コクコクと凪冴は何度も頷いていた。
たとえ、別れが待っていても、このまま終わるのは寂しい。せめてあと数日、思い出として彼と話しておきたかった。たとえ、この想いが叶わないのだとしても。
放課後、迷いを振り払うように、凪冴は矢野との待ち合わせ場所に向かう。毎回申し訳ないと思うが、矢野は役得だなどと笑う。これもあと数日のことだと考えると寂しくもなる。
「ナギ?」
何でもないように、いつも通りに車に乗り込んで、けれど、矢野には気付かれてしまったらしい。
「私の運命って何なんですかね……」
ぽつりと呟いた後に、笑いが込み上げてくる。それは自嘲、何もかもが馬鹿馬鹿しく思えた。
この歳で人生を悟るなどとは思ってもいなかった。
さよならのために生きているわけではない。それなのに、凪冴の人生はきっと死ぬまで〈鬼〉に縛られると思うのだ。死ぬ時は、〈鬼〉に殺されてしまうのかもしれない。
遥希がきっと最初で最後の恋になる。恋をできたことは叶わないとしても幸せなことなのかもしれない。
それとも、自分はこれから先、矢野や夕夜、星平、あるいは違う神薙機関の誰かを好きになるのかと想像してみる。今は考えられなかった。
矢野を好きになれたら楽になれるのか、いっそ今彼を好きだと嘘を吐いてしまえば、いずれは彼を好きになって幸せになれるのだろうか。
そんなことは凪冴にはできなかった。
「泣きたきゃ我慢することはねぇ。俺は何も聞かなかったことにする」
泣くまいと思うのにボロボロと涙は零れてくる。そのまま、凪冴は声を押し殺して泣いた。この優しい男を傷付けられるはずがない。
機関に着いて、矢野は濡れタオルを用意してくれた。そして、凪冴が泣き腫らした目を冷やしている間、願いを聞いてくれた。
凪冴は何もできないことが心苦しいのに、彼は見返りを求めない。頼られることが何よりも嬉しいのだと言う。だから、雑用係にされてしまうのではないかとは言えそうにはなかった。
しばらくして、凪冴の前に現れたのは矢野だけではなかった。朝永も一緒だ。
彼を連れてくることを望んだのは凪冴だ。そして、彼は予想通りの仏頂面を見せている。大好きな鍛錬の途中だったに違いない。
そして、夕夜と星平もいた。彼らに今日は練習に付き合ってくれなくていいと伝えたはずなのだが、何か楽しいことがあるとでも思ったのだろうか。
「おい、何のつもりだ?」
朝永の問いに凪冴は答えなかった。タオルを瞼から外し、矢野に渡す。そして、朝永の前に立って、じっと彼を見上げた。
「朝永さん、私を鍛えてください」
言い放った瞬間、これまた想定通りの皺が朝永の眉間に深々と刻まれた。不機嫌を露わにして、怒りの意思を凪冴に伝えようとしている。この状況が不愉快極まりないようだ。凪冴は怯まずに続けた。
「私、明日、神威に勝たなきゃいけないんです」
「無理だ」
即答だった。これも予想済みだった。彼なら必ずそう言う。無駄だとさえ思っているだろう。
「今のままではそうでしょう。だから、こうしてお願いしているんです。協力してください」
「俺にそうする理由があるとでも?」
朝永は冷たく見下ろしてくる。たとえ、凪冴と戦っても朝永が神威を得ることはない。そのせいで謹慎を食らっていながら、彼が了承することは普通ならばないだろう。
「私から神威を奪う気で、と言ったら?」
「お前は神威を失うことになる」
挑戦的に見上げても、乗ってくることはない。
「そのどちらかに頼めばいいだろう」
朝永は双子をちらりと見た。すると、二人の口角がニィッと同時に吊り上がった。
「ちゃんと指導したら、謹慎解除らしいっスよ、朝永サン」
「何ですか、そのあからさまに信用していない目は」
「本当です。許可、取りに行きました」
ここへ来る前、久我のところに寄っている。彼が快諾して、朝永を動かす魔法の言葉まで授けてくれた。それを矢野が二人に話したようだ。
たとえ、朝永が確かめに行ったとしても不都合はない。
「それとも、ナギーの公認ストーカーしてたい、とかっスか? 朝永サン」
「ナギちゃんのSPにでもなったおつもりですか、朝永サン」
「あー、いつもスーツだしなぁ」
「どうせ、アサシンですけどね」
好き勝手なことを言う〈双子悪魔〉に朝永はいよいよ我慢ならなくなったようだ。
「いいだろう」
溜息一つ零した後で彼は言った。しかし、と続ける。
「お前と俺では違いすぎる。だから、ハンデをやる。手の内を見せよう」
ちらり、矢野を見れば彼は「もらっとけ」と言うように頷いた。続いて目を向けた夕夜も証明も同じようにした。
彼らを見たのは凪冴だけではなかった。朝永も二人を見ていた。意見を求めるためでないだろう。視線の意味を二人は理解したようだった。
「俺らを前座にご指名っスか?」
「本気でいっちゃいますよ?」
〈双子悪魔〉はどちらも好戦的に笑っているようだった。
望むところだ、と声が聞こえるようだ。この場で、この機会に彼を潰すのではないかと思わされるほどに。
「ちゃんと見ておけよ」
いつの間にか矢野が側にいて、凪冴を隅へと誘導する。一触即発、ゴングもないままに三人の戦いはすぐにでも始まりそうだった。どうやら朝永は二人同時に相手するつもりらしい。
「あれは、知ってたって簡単に対応できるものじゃねぇけど、いきなりやり合ったら、まず一方的に負ける。サンドバッグになるだけで、何も得られない」
〈鬼狩り〉一の手練と矢野に言わせるだけの男だ。瞬きもしないようにその姿を見る。
「速い……!」
凪冴は驚倒した。二人を相手に朝永は全く隙がなかった。全ての攻撃を見切り、更に仕掛けていく。
彼とは戦っているが、それは神威が凪冴を乗っ取った状態でのことだ。意識があるのも途中からである。
「あれで、まだ遊んでるぜ? ウォーミングアップくらいのつもりだろ、あいつにとっては」
遊んでいるのは二人も同じように見える。笑いながら、朝永を殺そうとでも言うかのようだ。
「具現化するにあたって、普通はイメージしやすい武器に絞る。夕夜なら金属バット、星平なら大鎌……まあ、あいつらも特殊な方だ。大抵は刀だ。だから、中には打刀と脇差で、大小二本差しってスタイルのやつもいる」
金属バットを振り回す荒々しい夕夜、大鎌を振るう死神のような星平、その光景は異様だ。
応戦する朝永は日本刀一本だったはずだが、気付けば二本になり、次の瞬間には長刀になり、鎖鎌にもなる。まるで手品のように、次々に、何のモーションもなく変化する。
「だが、アサシンは一つの武器にこだわりを持たねぇ。あらゆる武器を使いこなす。暗殺者は凶器を選ばず、って感じにな」
「弘法筆を選ばず、ですか」
「おう、そうだ。よく知ってんなぁ。偉い偉い。賢い後輩を持って先輩は嬉しい」
「一般常識でしょう」
凪冴は呆れた。だが、今は瞬きさえ惜しいほどだ。
「まあ、いくつもの武器を確固たるイメージで具現化できるってのはメリットがある。時と場合で使い分けられるからな」
確かにそうだと凪冴は頷く。今は木刀しかイメージできるものがないが、いずれ別のイメージも持てたらと思わずにはいられない。
「でも、あいつが凄いのは、あのスピードで即座に武器を変えられるってことだ。絶対にイメージがぶれない。生半可な奴がやるとひどいもんだってのに」
ぶれてしまえば、そこで力は折れるだろう。その瞬間に〈鬼〉に食われるかもしれない。
〈鬼持ち〉とは言っても、力で負ければそこで終わりだ。常に自分の中の〈鬼〉に食われる危険性さえ抱えている。ヘラヘラしている矢野でさえきっとそうなのだろう。
「でも、朝永さんは、二軍で……」
この男ほどの〈鬼〉の使い手はいないに違いないと思わされるほどの戦いっぷりだった。
「実力的には今でも一軍だろ。経験もあるし、隊長でもおかしくないくらいだ。でも、年齢でバッサリ切られる。あいつ、〈鬼持ち〉になってからも長いしな」
〈鬼狩り〉の中は厳しいらしい。
夕夜が転び、気を取られた瞬間に星平も倒されていた。朝永は息も乱していない。準備運動をして、完璧に体を温めたと言わんばかりだ。
朝永の戦いを見た後でも凪冴がイメージできるのは白い木刀でしかなかった。
対峙すると改めてプレッシャーを感じる。彼は手加減などしないだろう。
「行くぞ」
朝永の手に握られていたのは木刀だ。黒い木刀、マジマジと見る間もなく、凪冴の白と交わっていた。
折られてしまいそうで、押し切られてしまいそうで、凪冴は力を込める。バチバチと火花が散っているような感覚だった。
「やあっ!」
押し返したと思った次の瞬間、木刀から日本刀に変わっていた。その刃に恐怖を感じたならば切り裂かれたと同じだ。
『おいおい、面白そうなことしてんじゃねぇか。代われよ、そいつとは決着が……』
頭の中から声が聞こえた。一瞬でも気を抜けないというのに神威だった。凪冴は無視した。乗っ取られまいと気を強く持つこと、それは朝永と神威のどちらにも勝つことと共通している。
「えいっ!」
全てを振り払うように凪冴は振るう。一心不乱に戦ったところで勝てる相手でないことは先程の様子を見ても明らかだ。今はまだ本気ではないだろう。
「この程度か?」
朝永は笑っているように見えた。含まれるのは嘲りだ。
「神威に選ばれたならば使われればいい」
他に何も望むべきではないと彼は思っているだろうか。
『そうだそうだ!』
また神威の声が頭の中に響いた。
「嫌です」
「我が儘を言うな」
「私は私として戦うって決めたんです。それは我が儘ですか?」
凪冴はじっと朝永を見据えた。神威に好きにさせれば確かに楽なのかもしれない。
『おい、無視してんじゃねぇよ!』
「神威は黙って!」
これは凪冴の戦いだった。彼との決戦を前に敗北を認めるつもりはない。自ら望んだことだ。
「神威を征服しようとは傲慢だ」
「では、あなたは傲慢ではないんですか?」
急に朝永の気が膨らんだのを感じた。怒気なのかもしれない。
振るわれる武器の速さが増し、予測ができなくなってくる。それでもまだ何とかついていけていた。
本能的に木刀で防いでいる。体が勝手に動く感覚は神威の仕業でないかとさえ思うほどだ。まるで体が覚えているかのようだ。
「お前は何も知らない」
「だから、知ろうとするんです」
一撃は重く、手首がビリビリするようでさえある。より強く木刀を握る。集中すればするほど、刃のない刀身が研ぎ澄まされていくように感じるのは気のせいではないだろう。純度の高い力ほど強くなる。
問題は戦いの中でどれだけそうできるかということだ。だが、凪冴は自分が戦いよりも感知などの方が得意なのだと気付き始めていた。
それは相手の動きを察知することにも繋がるのか。
集中すればするほど朝永の動きがわかる。見えないはずの彼の隙が、呼吸のタイミング、武器が変わる瞬間、それらを知覚する。
「知ったところで何ができる? 思い上がるな」
朝永の武器が鎖鎌に変わり、鎖が刀身に絡み付く。そして、木刀は粉々になる。だが、それは鎖が解けるということだ。
その瞬間、凪冴は強くイメージする。あの白く美しい太刀を。
「愚かな」
朝永が嘲りに満ちた笑みを浮かべる。刀は形になっているとは言えない。矢野が言ったぶれるということだろう。確固たるイメージになっていないのだ。
刀とは力の塊、刀などにするのは使い勝手やイメージを強くするというメリットがある。けれど、力は力だ。純粋であればあるほど強いが、形を持たないということはリスクもあるとわかっている。形を持つことで、〈鬼〉を制御するという意味もある。
わかっていながら凪冴はそうした。何もかも敵わない朝永の不意を突くにはこれしかないと判断したのだ。ここで生きていくしかないのだ。
形を崩し、それでも純度の高い力の塊と化した太刀は、変化した朝永の日本刀を粉砕し、その喉元に刃を突き付けていた。
「ナギーの勝ちだな」
「ここで終わり、でいいですよね」
パンパンと手を打って入ってきたのは夕夜と星平だ。朝永はもう武器を手にしていなかった。凪冴も力を消す。形のぶれた力を出し続けることの危険性は実際そうしてみたことで、よく理解できた。不安定で今にも暴走を始めそうだった。
「めちゃくちゃなことすんな……」
矢野は渋い顔をしている。本当に心配したとでも言いたげな顔だ。
「そうだぜ、ナギー。俺もハラハラした!」
「うんうん、朝永サンの真似なんかしちゃダメだって、この人老獪だからねぇ」
双子の言葉には咎めるようなものが混ざっている。だが、凪冴も軽い気持ちで模倣したわけではない。
「確かに賭けでした。でも、そうしないと朝永さんには絶対に勝てません」
朝永は正攻法で勝てる相手ではない。消耗戦に持ち込めば先に倒れるのは凪冴だ。手数は彼の方が圧倒的に多く、防ぎ切ることもできないだろう。
隙は見えた。彼の武器変化のタイミングも感じ取れた。けれど、力でも技も敵わないならば、意表を突くしかない。
「……いい度胸だ」
ぽつりと朝永が言う。
「あまりに危うい」
「そうだろ? 意外に気は強いし、何するかわかんねぇぞ」
矢野はゲラゲラと笑う。
「朝永さん、指導お願いします!」
頭を下げるが、彼はきっと首を縦には振らないのだろうと思っていた。
「……いいだろう」
「えっ?」
思わぬ答えに驚いたのは凪冴だけではなかったが、対して朝永が不思議そうにする。
「指導をしてほしいのだろう?」
「あ、はい……そう、ですけど……」
彼ならばノーと言うのだろうと諦めていた。
「冗談で言ったのか、お前は」
朝永の眉間に皺が寄り、凪冴は慌てて首を横に振る。彼が指導してくれるということは嬉しいのだ。
「下に心があるよなぁ、朝永サン」
「どういう心変わりなんですか、朝永サン」
「アサシン、今度妙な真似しやがったら、謹慎じゃ済まされねぇ。命がねぇと思え」
三人ともなぜか満面の笑みだった。
「……〈鬼〉よりも面倒なものがこの世にはあるようだな」
朝永が妙に真面目な顔で言って肩を竦めるものだから凪冴は思わず吹き出していた。
そうして、仲が良いのか悪いのかよくわからない三人が凪冴のコーチになったのである。何かとぶつかり合うが、彼らの個々の能力は高く、相性は悪くない。
凪冴は修行に打ち込んだ。全ては神威を倒すために。
*
その夜の夢は凪冴から神威に会いに行った。
自らの夢の中に彼を呼び出すことも、やってみれば難しいことではなかった。
「よお、自信満々って顔してるじゃんか」
神威は笑っていた。
「自信なんてないよ」
「大口叩いたくせにな」
笑う神威は気付いていただろう。凪冴の持つ自信が彼に勝てるというものでないことに。あくまで皆のおかげで力をうまく使えるようになったというだけだ。
「私は私にできるだけのことをする」
神威に自分の力を示すこと、それが凪冴の目的だ。ただの器でないことを主張したい。神威にとってはたかが人間のわがままなのかもしれないが。
「結果は変わんないからな」
その通りなのかもしれないということは凪冴もわかっていた。屈服させるなどと言っても、たとえ子供の姿をしていようと相手は千年も生きた〈鬼〉だ。
「そうだとしても、私は戦う」
「俺はお前の中にいる。お前の手口なんてお見通しだ」
「わかってる。でも、戦うから」
それが凪冴の意思だ。彼らの世界は力が全てだ。だから、凪冴も力を示すのだ。




