鬼狩り 002
木曜日、凪冴が神薙機関に着くと夕夜と星平が待ち構えていた。
「今日は、いきなりだが、課外授業をしようと思うぜ」
「課外、授業?」
思いがけない夕夜の言葉に凪冴はきょとんとした。
「そう、ここに籠もってたって上達しないでしょ? 戦い方の基礎は覚えたんだし、実際に街に出て〈鬼〉を見ちゃいましょうってこと」
凪冴は矢野を見た。自分の教育係は彼のはずである。
「俺を見られてもな……久我さんの指示か?」
「いいや?」
「全然」
「……お前らは一体どんな罰受けんだろうな」
矢野が小さく溜息を吐く。
彼の謹慎はいつになったら解けるのだろうかと凪冴は思う。そもそも、謹慎と言うには語弊があるように思える。
朝永にしても未だに凪冴の周囲を警戒しているらしい。それが、いつまで続くのかはわからない。新月の夜までなのだろうか。
「でも、前に許可はとってるぜ? まあ、俺らの仕事に保護者同伴でならいいって」
「そうそう実際の〈鬼〉退治は俺達がやるから、見てて」
「俺らが〈鬼狩り〉の仕事を見せてやるよ」
それなら、と凪冴はまたちらりと矢野を見た。
「どうする? 別にユウ兄といつも通りの特訓でもいいんだよ。今日じゃなくても連れて行けるし」
特訓をしなければならないが、凪冴は永希以外の〈鬼憑き〉を見たことがない。〈鬼〉と言えば神威を知っていても、彼は特別だろう。
「お前の好きにしろ。俺はただの下僕だ」
「私、行きたいです!」
「じゃあ、パトロール行こうぜ」
ガシッと夕夜が肩を掴んで、困惑すると反対側は星平に手を取られる。振り払うこともできずに矢野を見るが、彼は肩を竦めるばかりで助けてくれなかった。
「特に指令は出てない時は担当エリアの巡回をするの。ここを中心に、俺達の担当エリアはこの辺ね」
星平が携帯電話の画面で地図を見せてくる。
「そういうわけで、頼むぜ、ナギー」
「えっ?」
またポンと肩を夕夜に叩かれて凪冴は二人を交互に見た。
「さて、〈鬼〉さんはどこにいるでしょう?」
「はい?」
星平はニコニコしている。
「闇雲に探したってしょうがねぇ。パトロールはまず場所を定めねぇと」
矢野も、やれと言っているようだった。感知の必要があるようだ。
目を閉じ、意識を集中すると点々と〈鬼〉の気配が暗闇の中に光のように浮かび上がってくる。そこまでに至る時間も短くなり、より広範囲を視渡せるようになっていた。範囲を絞り込んでいく。
〈鬼持ち〉がいれば強い光があることは朝永でわかっているし、近くに三人の強い光も感じる。それは〈鬼憑き〉にしてもそうらしい。強い力を持つほどに光を放つ。だが、あれ以来、永希の存在は掴めていない。
双子の担当エリアに照準を当てれば、もやもやした光がたくさん見える。だが、密集している部分はあるものの、強い光はない。そして、絶えず移動しているようでもある。
「あの、あっちの方、凄く淀んでる感じがします」
目を開けて、指で示せば今度は二人だけでなく、矢野までも顔を見合わせた。
「よくできました。あっちは駅だから〈鬼〉も多いんだぜ?」
矢野にわしゃわしゃと、夕夜には対抗するようにガシガシと頭を撫でられ、グシャグシャになってしまった髪を星平が梳いて直してくれた。
「さあ、行こうか」
星平に腕を引かれる。これは絶対に試されていたと凪冴は思う。彼らは既に感知していたに違いない。
三人と向かった場所は駅前だった。光と同じように絶えず人の姿が動いている。
「さあ、視てみやがれ」
夕夜はバッと腕を広げ、凪冴は何だろうと思いながらまた目を閉じようとするが、トントンと肩を叩かれる。星平だった。
「脳内で視るのだけが感知じゃない。目を開けたまま視るんだ」
「目を開けたまま……」
「大丈夫、すぐにできるよ」
すぐにと言われても、やったことがないのに今できるのかと不安になる。
「俺はその力が弱すぎて、ほとんど視えねぇんだがな」
だから、教えられなかったと彼は言っているようだった。
「ナギー、お前は常にスイッチを切ってるだろ?」
そういうことだと凪冴は頷く。感知すること、それがスイッチを入れることだと夕夜は言っているのだろう。
「でも、俺達に見える世界はもっと醜く汚れているんだよ? どこもかしこも〈鬼〉だらけ」
目の前の世界を見やって凪冴は想像してみる。何の変哲もない夕方の光景だ。帰宅ラッシュの始まりかもしれない。
ここに〈鬼〉がいる。そこら中に幽霊がいるようなものだろうかと凪冴は考え方を変えてみる。凪冴に霊感はないが、〈鬼〉は感知できる。それは視えるということと同義になるのだろうか。
「お二人はいつもスイッチを入れて、視ているってことですか?」
自分と違う世界を視ているのだろうかと背の高い二人を凪冴は見上げる。そうしたところで同じ物が見えるわけでないことはわかっている。すると、二人は同時に笑った。どちらも寂しげにしている。
「〈鬼〉と同調してるからな」
「同調……?」
「そうそう、すぐに力を引き出せるようにね」
どうやら彼らにとっては当然のことらしい。
「〈鬼〉と一体化してるってことですか?」
「まあ、そんなところだな」
答えたのは矢野だった。彼は続ける。
「〈鬼持ち〉は〈鬼〉を征服し、感覚を共有する。そんで必要な時には強い力を引き出す。基本とは言え、お前はまだ自分の〈鬼〉の力がわかってねぇだろ? 大体、状況が普通じゃねぇ。神威じゃねぇ方はいずれ消えるかもわかんねぇ」
〈鬼〉を抑え込むことには成功しているが、対話がまるで上手くいかないのは神威が邪魔をしているからではないかと推測している。
あるいは、〈鬼狩り〉として使い物になるような能力が発現しない可能性も否めないと言う。
「私、やってみます」
視るということ、彼らが言う意味は何となくわかっている。やり方を問うたところで、きっと決まっていないと言われるのだろう。
凪冴は目を閉じて、幾十、幾百もの鬼の気配を感じる。意識を繋いだまま、そっと目を開ける。
世界はひどく薄汚れていた。これがつい先ほどまで見ていたのと同じ世界なのだろうか。
人々に憑いたり離れたりするもやのようなもの、空中を漂い、埋め尽くすのではないかと言うほどふよふよと薄黒いものが浮かんでいる。
星平が言う通りだった。ふらりと傾いだ体を夕夜と星平が両脇から支えてくれる。
そして、目の前に何かがやってきて、目が合う。そんな気がして、驚いた凪冴はスイッチを切ってしまった。
「ビックリした?」
コクコクと凪冴は頷く。まさか、こんなことになっているとは思わなかった。どうして気付かなかったのだろうか、世界がこんなにも〈鬼〉と呼ばれているもので溢れていることに。
「うじゃうじゃしてるよなぁ。でも、雑魚くらいなら結構誰でもくっついてるぜ? それをいちいち取り除いてたらキリがねぇから、俺らも大体は放置なんだけどな」
とても四人では退治しきれないほどの量である。しかしながら、凪冴には引っかかることがあった。
「でも、桜井君のは取りましたよね?」
「ああ、あれは、あのまま憑けておくと、面倒だからな」
朝永に拒否されて、矢野が抜いたはずだった。本人にまるで自覚がなく、凪冴に触れて少しうつっただけの鬼を消した。そのことについて十分な説明はなかった。
「あいつは、兄貴が失踪して不安で不安で仕方がねぇ。お前が巻き込まれて相当ストレスが溜まってる」
「供給できる餌があるってことだな」
「タイプ的には〈嫉妬〉って言ってたよね?」
星平の言葉に凪冴は首を傾げた。また初めて聞くワードだった。
「タイプ、ですか?」
「そう、観察してると〈鬼〉によって違うのがわかるぜ?」
もう一度、凪冴は視ようと意識を集中してみる。
浮遊物の動きはそれぞれ違う。それぞれ感情を持っているようでもある。
「視たままで聞いてね。七つの大罪ってわかる?」
凪冴は首を横に振る。
「キリスト教において、他の罪の原因になるって考えられた七つの罪源のこと。傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲」
少し的を絞って注意して見てみると、憑いた人間を大きく見せようとするものや、他人に攻撃するもの、憑かれた人間がやたらと苛立っていたり、やる気をなくしていたり、とめどない欲に駆られていたり、他の〈鬼〉を食らったり、誘惑をしたりと様々だ。
「それっぽいのあるだろ?」
頷いて凪冴は感知を緩めた。ずっと全力で見ているのは疲れた。
「あの、それで、どうするんですか? こんなにいっぱい」
全て退治することはできないだろう。それは全てを放置するということになるのだろうか。
「まあ、雑魚ってのはだな……お、きたきた」
「あの人を見てるといいよ」
夕夜と同じ方を見て、星平は指さす。その先には何やらケースを持った男がいる。彼はそこからヴァイオリンを取り出して引き始める。綺麗な音色が響き始め、すぐに人々が彼の存在に気付き、集まり始める。
「あっ……」
凪冴は思わず口をぽかんと開けていた。
離れていても聞こえる彼の音色は実に素晴らしいものだった。華やかなメロディーに聞き入ってしまうのは凪冴だけではない。皆、見入られたように彼の周りに集まり、鬼はまるでその音色を嫌がるように離れたり、霧散する。
次々に鬼が消え、周囲はおおむね浄化されたとも言える状態だった。
「あの人も〈鬼持ち〉ですか?」
「さすらいの〈鬼持ち〉ミュージシャンだな」
「一応、所属は〈鬼狩り〉で、特殊な位置付けだね」
力で〈鬼〉を斬っていくだけが全てではないらしい。凪冴が〈鬼狩り〉について、また学んだ瞬間だった。
「さて、結構綺麗になったな」
「凄い……ああいう方もいるんですね」
全く〈鬼〉がいなくなったわけではないようだが、ほとんど正常な状態なのかもしれない。
「〈鬼持ち〉じゃなくても、本当に心が純粋な人の音楽だと鬼も減るんだよ。あの人はうちにいるだけあって、ほんとに特別な方だけど」
「ちょっとくっついてるだけなら、本人の気の持ちようで簡単に跳ね除けられることもあるしな」
「でなきゃ、この世は既に地獄だぜ? 魑魅魍魎が闊歩してたかもな」
想像してみて、凪冴はぞっとした。
「さて、ナギー。問題だ」
「これから、どうしたらいいかわかる?」
星平に問われて凪冴は集中してみる。先程よりもずっと綺麗になった景色の中に一際黒いものが存在する。だが、それは人だ。黒いオーラを纏った人間だ。
「あの男の人、〈鬼憑き〉ですよね。結構、憑かれてちょっと長い感じじゃないですか……?」
自信はなかったが、そんな気がしたのだ。
「ピンポーン、正解です」
「さあ、あいつをどうすればいいでしょう?」
夕夜が明るくおどけるようにした後で星平が笑う。どちらもクイズ番組の司会をやっているような気分なのだろうか。
「近寄って、バッサリ、とか……?」
凪冴に思い付くのはその程度だった。〈鬼〉を確実に倒すには核となる部分を斬ることだと矢野は言った。彼の場合は斬るのではなく食らうのだが、同じことだと。
〈鬼持ち〉にする場合にはわざと核を外して、悪意などに満ちた表層的な部分を全て削り取るのだと言う。純粋な部分を残し、征服することで、力を得る。
そして、〈鬼〉も〈鬼狩り〉の力も常人には見えない。
「わーおっ、案外過激だな、ナギー」
「実はSでしょ?」
夕夜は驚いた表情で、星平はクスクスと笑っている。矢野は溜息を吐いた。
「俺がアサシンの話したからな……」
不正解だったようだ。その上、凪冴は居たたまれない気分になる。痛い子を見る目、とでも言えばいいのか、完全に落第の答えだったのかもしれない。
「ああ、〈鬼の子事件〉ですよね」
「あーあれかー、まあ、あん時は大変だったよなー」
夕夜と星平は遠い目をする。やはり、二人も走り回っていた方なのか、と聞いてみたい気もするが、彼らにとっては嫌な思い出らしい。興味本位で聞いて良いことではなさそうだった。
「ナギー。ちょっとあいつ、人気のないところに誘導してくれるか?」
「えっ?」
ポンと夕夜に背中を叩かれて凪冴はオロオロと戸惑う。
「大丈夫。危なくないように、ちゃんと見てるよ」
星平は安心させるようにか、ポンと肩を叩いてくる。
「類は友を呼ぶって言うでしょ?」
「〈鬼〉は〈鬼〉を呼ぶんだぜ?」
交互に見た双子はニッと笑っていた。不安になって、凪冴は縋るように矢野を見てしまう。彼は頼れる〈アニキ〉なのだから、何かあればこの〈双子悪魔〉を止めてくれるだろう。
「まあ、誘き寄せんのも〈鬼狩り〉の基本的な戦法だ。行ってこい。つーか、襲いかかってきたら、自分で斬っちまえ」
凪冴は少しガックリした。見ているだけではなかったのだろうか。しかし、行くしかないだろう。やれるところまでやるしかない。
「感知は最低限にしろよー」
「ここまで行けばいいよ」
星平に携帯電話の画面を見せられ、凪冴は位置を確認する。この辺りは彼らの庭とも言えるものなのかもしれない。
「行ってきます」
三人に見送られながら、凪冴は〈鬼憑き〉の男の前に先回りする。
弱々しい感知の中で、男に補足されたのを感じている。距離をとって確実に追ってきている。
(もう少し、もう少しで……)
星平の指示通りの場所に近付く。人気は既にない。
「オ、ニ……」
何か聞こえた気がした。
「オニ……食ワセロ……」
「えっ……?」
はっきりと聞こえた声に足を止めてしまった。
「オニ、オニ、オニィィィィィッ!」
叫ぶ声に振り返れば、〈鬼〉がいた。最早、人ではないと感じずにはいられない。鬼のような形相で、とよく言うが、本当にそう形容するしかない顔だった。
怒りを露わにした顔、その額から突き出す二本の黒い角、〈鬼〉と同化すること即ち〈鬼化〉した末路のようだ。
永希もこうなってしまうのか、そう考えたのは一瞬だった。こんなところで考えていてはやられてしまう。この〈鬼憑き〉は凪冴の中にあるものを食らいたがっている。それだけははっきりとわかる。
「ウ、ウオォォォォォオオオオオウ!」
雄叫びを上げ、〈鬼憑き〉は襲いかかってくる。凪冴は構える。実体のある木刀ではない。力の結晶とも言うべきその形を具現化させる。
恐怖がないとは言わない。しかし、自分でも落ち着いていることを認識できるほどに冷静だった。
〈鬼〉は爪を振るう。黒い爪、それが力の具現、凪冴は受け止める。木刀は置いてきているが、具現化で十分に戦える程度になった。
そのはずだった。
力任せに振り回される一撃は重く、凪冴は一層力を込める。弱めれば、自分が食わなければ食われる、そういう世界だと矢野は言っていた。〈鬼〉の世界にも弱肉強食があるのだと。
『おいおい、面白そうなことしてんじゃねぇか。俺様にやらせろよ。お前じゃ無理だ』
頭の中で声がした。
「神威は黙ってて!」
ここで力を緩めれば、神威にさえ体を明け渡すことになる。凪冴は力の全てを切っ先の一点に集中させる。
『俺様に任せておけって、なぁ!』
「うるさい!」
精神研ぎ澄ませると黒い塊が見える。心臓の辺り、おそらく〈鬼〉の核となる部分だろう。
そして、その場所を一突きした。躊躇している暇はなかった。硬い殻を突き破るような感触、止まることなく貫く。
黒が全て散ったのがわかった。〈鬼〉が抜けた男は立ち尽くしている。凪冴はどうしていいかわからずにキョロキョロとする。すると、矢野が物陰から手招きしているのが見えた。
男をそのままにしていいかわからないが、凪冴は駆け寄る。
「随分綺麗にやったみたいだな」
「あ、あの人、どうしたら……」
「見てろ、ほっとけばいい」
凪冴も同じように物陰から見ると男は周囲を見回し、首を傾げながらもどこかへ歩いていった。
「よくできました」
「偉い偉い」
背後からの声に振り返ろうとした瞬間、二つの手に頭を撫でられていた。彼らも違うところで見ていたらしい。
「見てるだけじゃなかったんですか?」
「最初から自分でやれって言ったら気負うだろ。やれるだろ、ってアニキも言ったしな」
「そう無理そうだったら、手を出そうと思ってたんだけど」
最早、本能だったかもしれないが、褒められて凪冴は安堵した。
「さすが、俺の後輩だ……って、お前ら、何でそんな怖い顔すんだよ」
言った瞬間、矢野はなぜか双子に睨まれていたようだ。
「まあ、お前は大丈夫だ」
「うんうん、本能で戦えばいいんだよ」
そう言われても、と凪冴は思う。本当にあれで良かったのかと不安にもなる。
それ以上の指導を彼らはしてくれないようだった。そして、どこかではそれで良いのだと自信を感じている。
「じゃあ、俺らはまだパトロールするから」
「ユウ兄、ナギちゃんの送り狼になったら、許しませんからね」
ここから先は矢野と帰ることになりそうだった。だから、凪冴は頭を下げる。
「あの、今日はありがとうございました。勉強になりました」
「大丈夫か?」
「怖くなかった? ちょっと無茶させちゃったかも」
「いえ、これでイメージトレーニングできます」
核を壊せばいいのだと思う。疑問に思ったことは後で矢野に聞けばいいのかもしれない。
「あのな、ナギー。いつ言おうか迷ってたんだけど、敬語やめね?」
「お二人って言われるのも、ちょっと寂しいよ?」
「す、すみません」
急に悲しそうな顔をする双子に凪冴は困惑して、反射的に言っていた。すると、益々二人の表情が沈み込んだ気がした。
「そこは、ごめん、でいいんだぜ? いや、謝る必要ねぇんだけど」
「おふ、じゃなくて、えっと……」
お二人、と言いかけて慌てて止めた。二人揃って泣きそうな顔をされると戸惑うしかない。
「夕夜と星平」
「ユヤとショーでもいいよ? ほんとは俺達だけの呼び名なんだけどね」
「夕夜さんと」
「ストーップ!」
「さんとかいらないから!」
夕夜さんと星平さん、そう呼ぶつもりだったのに、二人同時に制されてしまって凪冴は縋るように矢野を見た。すぐに他人に助けを求めようとするのは悪い癖なのかもしれないが、どうしてもそうしてしまう。
「おいおい、ナギは俺のことだって、頑なに矢野さんなんだぜ?」
今回は助けてくれるらしい矢野の言葉に凪冴はうんうんと頷いた。
「俺ら、タメなのに」
「えっ」
初耳だった。凪冴は驚いて二人を交互に見た。てっきり一つ二つは上だと思っていたのだ。同学年である可能性はまるで考えていなかった。
「高一だよ?」
「おう、今年十六歳だぜ」
「そうそう、ナギちゃんもだよね?」
頷くものの、大人びている二人を見ると自分が子供に見えてしまう。
「ナギ、俺のこと、いくつだと思ってた?」
「三浦さんと同じくらいです。だから、追いかけられて凄く怖かったんですよ?」
あの時のことを思い出すと、ぶるりと身震いするほどだ。
「ありゃ、お前が逃げるからだ」
凪冴の答えに矢野は大いに不満を持っているようだ。
「兄貴、仕事中、顔怖いっスからねぇ」
「老け顔って、ほんと損ですよね。俺達は大人っぽいってことで」
笑う夕夜と星平に凪冴も混ざりたい気分だった。その通りなのだ。
「あの、夕夜君と星平君、じゃダメかな?」
「可愛い!」
「それでもいい!」
二人同時に抱きつかれて凪冴はジタバタともがいた。なんて心臓に悪い双子なのだろうか。異性と急接近したことなどそうそうないというのに、対処方法がわかるはずもない。
「おい、俺への当てつけか、コノヤロー! てめぇら、ぶっ飛ばすぞ!」
矢野が怒鳴ると、渋々と言った様子で二人が離れる。
「アニキ、こえー」
「大人げなーい」
「さっさとパトロール再開しろ! ナギ、帰るぞ!」
そうして、矢野に強引に手を引かれながら、ひらひらと手を振る双子に凪冴も小さく振り返したのだった。
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