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三国志・劉曄伝ー曹操の影として生き切った漢ー  作者: 涼風隼人


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第62回 劉曄、樊城攻防戦(二)

 曹操が言う。

「蒋済よ。孫権を説き伏せる役目、お前が適任だと思うが、引き受けてくれるか?」


「もちろんでございます。必ずや説き伏せて、ご覧に入れましょう。」


 蒋済は、かつて合肥に侵攻してきた孫権を、その知略のみで退却させた漢である。その才知は光り輝くものがあり、曹操も重臣として遇していた。


 目立つ存在ではないかもしれないが、卒なく仕事をこなす正確さは、誰よりも勝るものがあった。よって、この重要な交渉を曹操は蒋済に託しているのである。


 蒋済も、条件面などの細かい話を曹操には確認しなかった。


 どこまでが是、どこまでが否かと言ったことは、お互い言わなくてもわかっているからである。


 蒋済は急ぎ建業に向かった。


―建業―

 建業に着くと、蒋済は早速、孫権への面会を打診し、すぐに許された。孫権が蒋済を出迎えて言う。

「蒋済殿・・・。そなたの名前は忘れない。私を見事、計略にはめたのであるからな。」


「恐れ入ります。権謀術数は、戦であれば当然、どうぞ、ご容赦ください。」


 蒋済は恭しく頭を下げた。孫権が言う。

「当然だ。昔の話をほじくり返して、どうこう言うつもりはない。敢えて言うのであれば、見事な策であった、ということくらいだ。」


「ありがとうございます。本日は、魏王から孫権様へのお願い事をお持ち致しました。」


「魏王から、私に。是非、聞かせてくれ。」


「はい・・・。我が軍が関羽と交戦中なのはご存知だと思います。そして不運もあり、非常に苦戦していることも・・・。」


「・・・。それで?」


「孫権様。関羽は、今ほとんど全軍でこちらに攻めよせております。ということは、関羽の本拠地は、もぬけの殻・・・。」


「・・・。何が言いたい?」


「そこを、孫権様に突いて頂きたいのです。」


「しかし、私は劉備と同盟しているのだぞ。」


「はて・・・。孫権様は魏王に臣従もされていると思いますが・・・。」


「・・・。私に、劉備を裏切れと?」


「孫権様は、劉備に騙されたご経験があるのでは?そもそも、荊州は、少なくとも魏王と孫権様で二分されているもので、劉備は図々しく居座っているだけなのではないでしょうか?」


「確かにな・・・。劉備は荊州返還の約定を全く守る気が無い。」


「約定を最初に破ったのは劉備。例え孫権様が、今、動かれても誰も責めることは出来ますまい。」


「さすが蒋済殿・・・。その気になって来たわ。」


「ならば、お願いできますでしょうか?孫権様が動かれれば、我々は救われ、孫権様の荊州の持ち分は増えるのですから。」


「・・・。わかった。至急、動くと魏王には伝えてくれ。」


「ありがとうございます。それでは、失礼致します。」


―鄴―

 蒋済が戻って来た。曹操が聞く。

「蒋済どうだ、首尾は?」


「問題ございません。今頃既に、孫権軍も動き出している頃だと思います。」


「そうか。それなら、こちらにもいずれ吉報が入ろう。」


「はい。ご安心してお待ちください。」


 劉曄が蒋済に言う。

「蒋済様、さすがでございます。私がもし使者で行っても、孫権を動かすことが出来たかどうか。」


「劉曄殿、謙遜が過ぎますぞ。あなたの才知で不可能なことはありますまい。そうでなければ、魏王も常にお側に置いている訳がないではありませんか。」


 曹操が言う。

「劉曄、蒋済の言う通りだ。もっとも、外交においては、確かに蒋済が一枚も二枚も上手であろうがな。」


「はい。見習うべき、と思っております。」


 こうして、曹操軍にとって苦しい展開が続いていたが、孫権軍の参戦で急展開を迎えるのである。

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