第59回 劉曄、曹操より太子問題で諮問を受ける
曹操は、魏王となった今でも、明確に太子を決めていなかった。長男曹丕、次男曹彰、三男曹植、この三人が候補である。ただ、次男の曹彰は武に注力しており、この争いからは除外されていた。
家臣団を巻き込んで、曹丕派、曹植派の争いが続いている。
順当にいけば長幼の順に則り、曹丕で決定であろう。その能力も、持ち合わせている。しかし、曹操が愛してやまないのが、自分以上の文才を持つ曹植であり、このあたりで話がこじれているのである。
太子問題に関しては、国の問題とも言えるが、「曹家」の問題であり、曹操に近い者ほど、この話題は避けていた。
劉曄も、もし、太子問題を諮問された場合、今現在、どう答えるのが正解なのかは導き出せていない。それ故、この問題にだけは巻き込まれたくないというのが本音である。
しかし、主簿として曹操の側近くに仕え、寝所への出入りも許されているのである。いずれ、諮問をされる可能性は十二分にあると考えるのが普通であろう。
そして、その時がやって来たのである。
曹操は劉曄と二人になった時、いきなり切り出した。
「劉曄よ。今から私の質問に対する答えをくれ。わかりません、というのは許さん。必ず、答えよ。」
「きた」
劉曄は内心思った。しかも、想像以上に厳しい、答えないことは許されない、という注釈付きであった。
「今、家臣を巻き込んで太子を誰にするか、という話題で持ちきりだ。誰が、太子に適任か。答えよ。」
劉曄は、深呼吸をし、こう答えた。
「私には兄がおります。自分で言うのも何ですが、周りの者も皆、兄より私の方が優れている、そして私自身もそう思っておりました。しかし、我が家の家督を継いだのは兄の劉渙でございます。先日亡くなりましたが、兄の後も、当然の様に兄の長男が継ぎました。」
「なるほど・・・。はっはっはっ!」
曹操は大笑いをした。そして、劉曄に言う。
「いや、済まぬ。笑ったのは、お前の事を馬鹿にしたわけではない。言い方は違うが、似たような答えをした者がおったのでな。」
「それは、どなた様でしょうか?」
「賈詡だ。」
「賈詡様・・・。」
「ああ。賈詡はこういった。私は今、袁紹と劉表の事を思い出しておりました、とな。」
「両家とも、家督争いで、滅亡を免れなかった・・・。」
「ああ、そうだ。劉曄、お前の答えは賈詡ほど端的ではなかったが、それなりに慎重を期した言葉であった。さすがだ、褒めておこう。」
「ありがとうございます・・・。」
劉曄は拝礼して立ち去った。
そして、劉曄は賈詡の凄さを改めて知った。
「あれほど、全く言葉に無駄のない献言・・・。私など、まだまだ、賈詡様の足元にも及ばぬ。」
劉曄は、まだまだ努力せねば、と改めて思ったのである。
賈詡は、曹操から諮問を受けただけではない。
何と、曹丕自身からも「どうすれば太子になれるか」という諮問を受けていたのである。
賈詡は、「子として、親に対する孝養を尽くしなさい。」とだけ、伝えたという。
そして、とうとう正式に曹丕が太子に立てられ、国の体制は整ったのである。




