第57回 劉曄、曹操の魏王就任を見守る
西暦二一六年(建安二一年)、曹操はとうとう、魏王に昇りつめた。完全に形骸化されている献帝の漢は、さらに存在感が薄くなり、言われるがまま、曹操に魏王就任の冊封を出したのである。
魏公でもそうだが、魏王になると、もう完全に「皇帝」であると言っていいであろう。この世の全ては曹操が決する、と言っても言い過ぎではないくらいの権力を手に入れた。
魏王に昇った際、曹操は劉曄を主簿に任命した。
公私ともども、曹操に寄り添う立場になったのである。
魏王になったと雖も、曹操におごりは無かった。
敵と言えるのも、南方の孫権と、西方の劉備だけと言っていいだろう。まずどちらを討伐すべきか、それともまだ、力を蓄えるべきなのか。曹操はひとまず、劉曄に聞いた。
「劉曄よ。昨年、お前は益州の劉備を即刻攻めるべき、と私に提言したが、今の考えはどうだ?」
「はい。今は時が経ち、劉備の益州支配の基盤もしっかりしたものと思います。それ故、簡単に攻めとれるものではないと考えます。」
「そうか・・・。お前と司馬懿の意見を聞くべきであったかな?」
「それも、今となっては正しいかどうかわかりません。劉備は存外、戦の上手いところがあると思いますので。」
「なるほど。戦が上手いから、逃げる時も早かったのか。」
「そう思います。今、心配事がございます。」
「何だ、言ってくれ。」
「劉備が漢中に侵攻する危険性があり、防衛体制は万全を尽くすべきだと思います。」
「劉備が漢中を・・・。漢中には、夏侯淵と張郃をおいているが、それでも危ういか?」
「両将軍とも我が軍において、屈指の実力者と言えましょう。しかし、もし、劉備が漢中を狙うなら、自ら出陣すると思いますので、その時は難しい戦いになるかもしれません。」
「そうか・・・。夏侯淵も張郃も十分注意していると思うが、今一度細心の注意を払うことを、使者を出して伝えておこう。」
「あとは、孫権の事でございますが・・・。」
「孫権か。あいつの合肥に対する執着は異常だな。」
「はい。昨年は張遼将軍の大活躍で事なきを得ていますが、常に呉軍からの侵攻に晒されております。将来的には、更に内陸に築城するなど、そう言った大きなことも考えなければならないかもしれません。」
「城を移す・・・。内陸であれば、水戦を得意とする孫権軍の脅威が軽減されるわけか。」
「はい。これは、簡単な話ではありませんが・・・。」
「確かにな。しかし、劉曄よ。改めて言うが、私からの諮問以外でも、提言すべきことがあればいつでも構わん。私の寝所に入ってくることも許そう。時を置かず、すぐに言うようにしてくれ。わかったな。」
「かしこまりました。」
こうして、劉曄は曹操の側近中の側近として、各種諮問への回答、新たな提言などを行ったのである。




