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三国志・劉曄伝ー曹操の影として生き切った漢ー  作者: 涼風隼人


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第55回 劉曄、漢中攻略戦(二)

 陽平関を落とした曹操軍は、逃げる張衛を追い、張魯の本拠地である南鄭を一気に目指した。

 

 張衛は一足早く南鄭にたどり着いた。

 

 張衛が張魯に言う。

「兄者。曹操軍の強さは本物だ。この南鄭は、俺が引き受ける。兄者は、今すぐに落ち延びてくれ。兄者の命さえあれば、五斗米道は終わらない。」


「しかし、弟であるお前が戦うなら、兄である私も戦うのが筋であろう。」


「いや、違う。俺は単なる武辺者だが、兄者は君主として、教祖として、特別な才能があると俺は思っている。だから兄者、頼むからこの南鄭を離れて逃げてくれ!」


「・・・。わかった。死ぬなよ、張衛。」


「もちろんだ。曹操軍を打ち負かしてみせるさ。」


 こうして張魯は、張衛のたっての願いで、巴中に向けて逃亡を開始した。その際、宝物や兵糧を保管している府庫に封印をし、張衛にも例え何があっても、これは民の預かりものであるから、火をつけたり、無駄にしない様にと申し伝えた。


 曹操軍の南鄭へ向かっての進軍は極めて速かった。


 劉曄や若手の司馬懿が曹操に速戦速攻を促したからである。予測通り、張衛が南鄭の指揮を執っていた。

 しかし、既に張魯軍の兵たちの士気は衰え、如何に漢中一の名将と謳われた張衛でさえ、軍を立て直すのは難しく、総退却を図ったが、敢え無く戦死をしてしまった。


 その敗報を受けた張魯は、曹操に降伏を申し出て、曹操はそれを受け入れた。曹操は、張魯に言った。

「もし、最初からこちらに降伏をしてくれたのなら、所領を安堵し、多くの将兵が死ぬことも無かった。弟君の張衛もあの武勇であれば、我が軍でも十分に活躍が出来た。私としては捕らえて我が家臣にと思っていたのだが、追撃戦の中で亡くなってしまった。その事は、詫びさせてもらう。」


 曹操が捕虜である張魯に頭を下げた。そして続ける。

「退却する時に、府庫に封印を施したのは見事である。通常であれば、敵に使われないために燃やすなどすることが多いが、それを守ったのは称賛に値する。よって、漢中は離れて鄴に行ってもらうが、そなたを鎮南将軍、閬中侯に任じ、一万戸を封ずる。その他、優秀な家臣にもそれなりの待遇を与えよう。」


 破格の待遇に、張魯は言う。

「特別なお計らいを頂きまして、ありがとうございます。私如きに出来ることがあるかわかりませんが、私なりに精進致します。」


 曹操は五斗米道も潰すことはしなかった。張魯が鄴に移された関係から、五斗米道の教えは中央でも広がりを見せた。 こうすることにより、漢中での五斗米道信者の強硬派が徒党を組んで反乱を起こすなどの危険の目を事前に摘み取ったと言える。


 こうして、曹操は漢中を平定したが、それで満足をしなかった者たちがいる。劉曄と司馬懿である。


 この二人が、曹操に新たな提言をするのである。

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