第51回 劉曄、曹操の魏公就任を見届ける
濡須口での敗戦、馬超の反乱・・・。
軍事的課題が山積みの中、曹操は董昭らの薦めに従い、とうとう魏公に就任した。
この時期に魏公就任を高らかに喧伝したのには、敗戦や反乱でやや勢いの陰りが出てきているため、国威発揚で今一度、兵の士気や民からの支持を取り戻すのが目的であった。
曹操の魏公就任の報を受けて、許都にいる献帝は、なぜ今なのか、と訝りはしたものの、鄴に向けて使者を出し、曹操に九錫を賜ったのである。
九錫は、言ってしまえば「皇帝と同じ権利を認める」ということであり、ここに漢の衰退は窮ったと言える。
これで正式に「魏」という国が建国されたことになる。
曹操は、今まで仕えてきた参謀や将軍たちに、「建国の功臣」として、高い官位を与えた。主だったところでは、荀攸が尚書令、賈詡が尚書僕射、鍾繇が大理、王脩が大司農、夏侯惇が前将軍、程昱が衛尉などである。
劉曄は引き続き軍師祭酒として曹操の側近くに仕える。
鄴は大いに賑わったが、その頃、馬超の反乱はどうなったのか。
短期間でものすごい勢いで広まり、長安から出撃した夏侯淵軍も撃破されるなど危機時的状況に陥ったが、善戦した韋康と、その意思を引き継いだ楊阜の獅子奮迅の活躍により馬超を撃破、馬超は張魯を頼って漢中へと逃亡をしたのである。
曹操は劉曄を呼んだ。他には誰もいない曹操の居室である。
そこで、曹操が言う。
「劉曄よ。今回、高位に昇らせなかったことに、不満の気持ちはあるか?」
「いえ・・・。全く思っておりません。」
「そうか。お前には、これからも私の側近くで仕えてもらい、他の者には任せられない様な仕事もしてもらうつもりだ。」
「他の者には任せられない仕事・・・。」
「そうだ。具体的にここで示すのは難しいが、秘密裏に動いてもらいたいことなどが必ず出てくる。そういう仕事を頼めるのは、お前くらいであろうと、考えている。」
「かしこまりました。如何様なご命令でもお下しください。この劉曄、やり遂げて見せます。」
「頼もしい限りだ。その先は、もちろん高位での待遇は約束する。しばらくは、私のためだけに働くつもりでいよ。」
劉曄は拝礼して、退出した。
劉曄は「秘密裏」という言葉の意味を考えた。
人間、誰でも一つや二つ、他人には言えない様な秘密は持ち合わせているであろう。しかし、曹操ほどの人物になれば、それは単に「言えない」ものではなく、「誰に対しても絶対に吐き出せない」ものなのではないか。
曹操は、それを劉曄だけには言い、劉曄は絶対に失敗することなくこなせ、ということであると理解した。
そして、魏公になった曹操と献帝のいる許都を巻き込んだ、大きな事件が起きるのである。




