第5回 劉曄、劉勲に直言する
劉勲の勢力が急拡大したことで、危機感を抱いた漢がいる。
江東で力をつけてきている孫策である。
孫策は、劉勲の兵が大幅に増えたことを聞き、早めに対処をすべきと考えた。
そこで、軍師である周瑜が献策をした。
「劉勲は、自分の器量を大きく超す大軍を手にしました。喜んでいる反面、兵糧や軍費の事で頭が一杯だと思います。そこで、劉勲に上繚を共に攻めようではないか、という提案をしてみるのは如何でしょうか。」
「上繚か・・・。あの城の規模はそう大きくないとはいえ、中々豊かであると聞いている。一度、劉勲は自分の支配下にいれようとして、失敗していたな。」
「はい。そこで、まずはこちらから金銀財宝を献上して、上繚を共に攻めて、その富を分かち合おうではないか、という提案をします。」
「それで?」
「劉勲はもともと欲深い男です。誘いに乗り、兵を動かすことでしょう。そして、本拠地の皖城の守備が手薄になったところを、我が軍が奇襲をかけて皖城を頂こう、というものです。」
「皖城は是非、我が手に入れたいところだ。上繚はどうなる?」
「もちろん、上繚も我が方で頂きましょう。劉勲はどこかに逃亡するのが精一杯だと思います。この策は、調虎離山の計でございます。」
「劉勲への使者は、周瑜、お前に任せてよいか?」
「もちろんです。必ずや、劉勲を説得して見せましょう。」
―数日後―
孫策の使者として、周瑜が皖城にやって来た。
劉勲は訝しく思いながらも、会うことにした。
劉勲の側には劉曄をはじめ、その側近たちが勢揃いをしていた。周瑜は劉勲に拝礼して言う。
「劉勲様。本日はお会いする機会をお与え下さり、感謝の念に堪えません。」
「周瑜殿。堅苦しい挨拶はなしにしようではないか。本日こちらに来たのはどの様な理由なのだろうか。」
「はい。実は我が主の孫策と共に、上繚を攻め落とす、といったご提案をお持ち致しました。」
「上繚を・・・。あそこは、規模自体は小さいが、守るに易く攻めるに難い堅城だ。」
「はい。しかし、劉勲様と我が軍が協力して出陣すれば、さすがの上繚も抵抗のしようがないのではないでしょうか。」
「・・・。確かに、な。勢いのある孫策殿の軍と、ここ最近、兵力を増強した我が軍が組めば、上繚などすぐに落とせるかもしれぬな・・・。」
「はい。本日は、ご挨拶代わりにいくばくかの品をお持ち致しましたので、是非、お納めください。」
周瑜が合図をすると、大きな箱を持った男が現れた。その箱には、真珠や宝玉など、高価な物がたくさん入っていた。
劉勲や劉勲の側近は、その物量に驚き、目を見張った。
側近の一人が言う。
「劉勲様。これほどの物をお持ちになったということは、孫策様も今回の話はかなり本気であると思われます。」
周囲の者も賛同した。劉勲が周瑜に今回の話に同意をしようと口を開こうと瞬間、劉曄が言う。
「劉勲様、お待ちください。この話、些かうますぎると思いませんか。」
「どういうことだ、劉曄先生。」
「まず、孫策殿に上繚を攻め落とす理由というのがありません。しかし、ここ皖城を攻め落とす、というのであれば多いに理由がございます。今回の提案にのってこちらが出兵をすれば、恐らく守備の薄くなった皖城を孫策殿の軍に取られるでしょう。」
劉曄は、周瑜の顔を見た。周瑜の表情に変化はなかった。しかし、周瑜はこの時、内心、冷や汗をかいた。
劉曄は続ける。
「この様な計略を調虎離山の計、と言います。今回の話は断るべきです。何なら、ここで周瑜を処断し、孫策と一戦交える方が得られる利は大きいと言えます。」
「劉曄先生、それはいくら何でも言い過ぎではないか?こうやって丁寧な挨拶をしてきた孫策殿がこちらを裏切るなどということがあろうか。」
「・・・。そうですか。私は所詮客分の身です。最終的なご決断は劉勲様にお任せ致します。」
劉勲が言う。
「周瑜殿、お気を悪くしないでくれ・・・。」
「いえ、劉曄先生がおっしゃったのは、劉勲様のためのもの。私は何も気にしておりません。」
「そうか・・・。それなら今回の話、進めようではないか。時に、先鋒はどちらがつとめるものとするか。」
「はい。ここは、是非、我が孫策軍にお任せください。劉勲様は、我らが切り啓いた道をお通り頂ければと思います。」
「それはありがたい。お互い早急に軍の編成を行い、いざ出陣としよう。」
「ありがとうございます。こちらも戻り次第軍の編成を行い、準備が出来ましたら改めてご連絡をさせて頂きます。」
周瑜は拝礼して退出した。
周瑜の手には、汗が滲んでいた。まさか、自分の計略を見破る者が劉勲の側にいるとは思わなかったからである。
帰着後、孫策に策は上手くいったが、その計略を見破った者がいたことも告げた。孫策が言う。
「周瑜よ、それで大丈夫だったのか?」
「はい。劉勲自体が乗り気なので何とかなりました。しかし、あの劉曄という人物は、なかなか見どころがあります。是非、我が陣営に引き入れたいと考えております。」
「そうか。お前がそこまで言うのなら、そうしよう。劉曄は、何としても生かして捕らえねばならんな。」
こうして、周瑜の計に基づき、孫策軍と劉勲軍が動き出すのである。




